春うららの三連休。
桜が咲き始めた井の頭公園を歩く。

史上最速で開花した今年の桜。
でも、いつもの春とは違う。

「新型コロナウィルス感染症の感染拡大防止のため、飲食を伴う宴会等の利用をお控えいただきますようお願いいたします。」
桜の名所、井の頭公園にも、こんな看板が目に付く。

ブルーシートで場所取りする人の姿は見られないが、暖かな陽光を楽しむように池の周囲をそぞろ歩きする人たちは多い。
学校の一斉休校、イベントの自粛、在宅勤務。
行動を控え、自宅にこもることを強いられて、人々の心に自粛疲れが現れ始めている。

今日は、3月20日。
地下鉄サリン事件が起きた日である。
あれからもう、25年が経ったのだ。
25年前、私はパリ特派員としてフランスに赴任していた。
地下鉄サリン事件のニュースは、スウェーデン北部でオーロラの取材中に知ったが、この事件のおかげで、その後しばらくヨーロッパから送るニュースはほとんどがボツになった。

当時私が取材していたヨーロッパは今、コロナショックの非常事態が続いている。
イタリアでは、死者数が3400人を超え、ついに中国本土の死者数を超えた。
突貫工事で専用病院を建設し、全土から大規模な医療チームを送り込んだ中国に対し、財政難のイタリアでは打てる手が限られている。医師不足を補うため、試験を免除して医学生を最前線に投入するというなりふり構わぬ方策まで繰り出している。
フランスでも感染者数が1万人を超え、警官10万人を街頭に配置して、事実上の外出禁止措置が始まった。
同じく感染者数が1万人を超えたアメリカでは、カリフォルニア州で外出禁止令が出されたほか、アメリカ政府は、すべての国民に対し海外渡航を中止するよう勧告し、外国にいるアメリカ人にも早期の帰国を促した。

こうした欧米での異常事態に比べれば、日本の状況はぼんやりしている。
専門家会議の見解は「引き続き持ちこたえている」。ただし、感染経路が不明な感染者が増えていて爆発的感染拡大「オーバーシュート」を警戒する必要があるということで、イベントの実施は主催者の判断というぼんやりした提言となった。
この提言を受けて、安倍総理は大規模イベントは引き続き慎重に、学校は新学期から一斉休校はやめる方針を指示した。
オーバーシュートに絡んでは、この三連休、大阪と兵庫の間での往来自粛する唐突な要請が出されたが、感染経路不明者が最も多い首都圏では何のメッセージも出されないままだった。どうもすべてが、ぼんやりとしている。

徹底的な行動制限によってウィルスを克服したとされる中国。
中国モデルを踏襲する形で、現在ウィルスと戦っている欧米諸国。
それに対して、そろそろ自粛疲れで規制を緩めようとしている日本。
三連休の井の頭公園には、そんなぼんやりした日本人の今が心境が現れている気がした。

あまり報道されていないが、昨日の専門者会議後の会見で、尾身副座長は次のように話している。
「もう患者さんが増えることは間違いない、重症者の増えることも残念ながらおそらく増えるでしょうね。感染を完全にストップすることはもう不可能ですので、どれだけ重症化を防ぐ、ひいては死亡の数を、これはみんな一致しているところで、そのためには1つだけやってもダメなんです、パッケージでやらないと。感染症指定病院だけではもう無理なのはわかっていますから、早いうちに一般病院でもそれぞれ役割を決めて、自治体のリーダーシップで」
多くの日本人が考えているよりも、日本の現状は楽観的ではないのだと思う。
ただ検査の対象を、クラスターの追跡と出入国の検疫に絞っているから、いつまで経っても全体像は見えてこない。
これが安倍政権の大方針なのだろう。

春から夏になり、気温と湿度の上昇によって、こんなぼんやりした対策でも新型コロナウィルスが日本から消えてくれるなら、それに越したことはない。
安倍政権の失策が責められることもないだろう。
でも疑い深い私は、そそくさと家に帰り、今日も自宅にこもっている。