世界中のマーケットが活気づいている。
日経平均は30年ぶりの2万9000円台に乗り、まだ勢いは衰えそうもない。

私は去年11月10日、こんなことを書いている。
ITバブルでも届かなかった2万5000円台に、コロナの収束も見えない今の状況で到達したというのは違和感もあるが、それだけ空前の金融緩和が作り出した「コロナバブル」は凄まじいということだろう。
この調子だと、日経平均が3万円になったとしても私は驚かない。
しかし、同時にいつ急落に転じても驚きはしない状況なので、私は参加せずに外からマーケットの動きを見ていようと思っている。
吉祥寺@ブログ「<吉祥寺残日録>ファイザーのワクチン報道で日経平均2万5000円 #201110」
あの頃は、まだ3万円を予想する声はそれほど多くはなかったが、わずか3ヶ月で手が届きそうなところまできた。
むしろここにきて、さらにバブルが加速しているように感じる。

理由の一つは、バイデン新政権が打ち出している200兆円規模の財政出動。
大恐慌後にルーズベルトが行った「ニューディール政策」がモデルで、大きな政府を志向する民主党の伝統的な政策とも言える。
この大盤振る舞いの中には、国民一人当たり14万5000円の現金給付も含まれるという。
アメリカ人の行動パターンからすれば、家庭にばらまかれた巨額の資金の多くがマーケットに流れ込んでくることはまず間違いないだろう。

もう一つ新しい要素は、ビットコインの急騰だ。
テスラの総帥イーロン・マスク氏がビットコインに15億ドルを投じただけでなく、テスラでビットコインによる支払いを受け入れると表明したためだ。
アメリカで今一番勢いがあるカリスマ経営者の言動は、彼の崇拝者たちに強い影響を与えることは確実で、揺れ動いてきた仮想通貨が新たなフェーズに入ったことを物語っている。

とはいえ、まもなく年金生活に入る私は、そんな市場の熱狂を離れたところから眺めている。
うまく立ち回れば大儲けできるチャンスなのだろうが、どうもこの波には乗る気がしない。
初手で間違ったので「今更」ということもあるが、コロナを名目にした空前の財政出動がもたらす将来に懐疑的だからだ。
必要な人のもとにお金は回らず、余ったマネーがマーケットを踊らせている、どう考えても健全ではない。
もう少し効果的で社会の役に立つ再配分のシステムを構築しなければ、世界はますます不公正で邪悪なものになってしまうと心配しているのだ。
長期投資を長年提唱し、私が信頼する「さわがみ投信」の澤上篤人会長もこう警告している。
長期投資を手掛けている立場から言うと「健全な経済」こそが大歓迎なのです。その視点で見ると、今はあまりにも異常な状態になっています。 ただ、こうした異常な状態が永久に続くことはないのもまた道理です。そして、今起こっている金融バブルが壊れた時が怖い。異常な状態が長く続けば続くほど、事態は深刻になります。できるだけ早く崩れてくれたほうが、健全な経済、社会への回帰が早まります。 もはや、いつ崩れてもおかしくない状況なので、それに備える姿勢を投資家はもちろん一般の生活者にもお伝えしたい。
引用:日経ビジネス『異常な株価バブルは、一刻も早く崩壊したほうがよい』
しかし、いつ、どのようにバブルが弾けるのかは、澤上氏にも予想がつかないという。
正直言って、全く分かりません。そもそも、今なぜここまで相場が上がっているかも分からないのですから。だから、崩れるきっかけも当然予想できない。
引用:日経ビジネス『異常な株価バブルは、一刻も早く崩壊したほうがよい』

正月恒例となったBS1スペシャル『欲望の資本主義2021』。
今年のテーマは「格差拡大社会の深部に亀裂が走る時」というテーマで、世界の一流研究者たちに意見を聞いていく。
市場が社会から切り離されるとき
すべては市場の要求に従属することになる
市場は「悪魔の挽き臼」となり
社会は使い潰される
カール・ポランニー(1886-1964)
ハンガリー生まれの経済人類学の巨人カール・ポランニーが、本来社会の一要素に過ぎなかった経済が社会関係から一人歩きすることを厳しく戒めた言葉だ。
そんなちょっと難しい言葉から始まるこの番組から、私が気になった発言をランダムに書き残しておこうと思う。

まずは、マサチューセッツ工科大学ダロン・アセモグル教授。
経済発展と民主制についての論文で知られるトルコ出身の理論経済学者で、彼が番組内でポランニーに言及した。
ポランにーは私がその熱意に感服する偉大な思想家の一人です。彼のすべてに同意はしませんが、彼が示した最も重要な教え、「市場は社会に埋め込まれいている」は今も私たちに突きつけられています。
市場を動かしているのは私たちです。他者との関わりの中で市場を動かしています。確かに問題解決のために市場は役に立つ。
しかし、市場は単なる「工学的な手段」ではありません。
社会的不平等や権力の観点などの問題も無視せず、市場は常に解決すべき社会の問題とともにあることが重要です。
たとえば、労働、土地、貨幣。
これらを市場の論理だけで商品とする時、「悪魔の挽き臼」となった市場が社会をすり潰す。
コロナほど失業率を悪化させるものはなかったと思います。大恐慌以来です。
もちろん私たちはさほど実感していません。なぜなら日本、アメリカ、ドイツなど多くの国が積極的に財政政策を行ってきたからです。
とはいえ、2020年1月には存在した仕事のうち多くのものが二度と元には戻らないでしょう。
新たな仕事の創出が必要です。どのように創出されるのでしょう? 新たな仕事とオートメーション化との間には、どんな相互作用が生じるでしょう?
これから物事がどのように変化してゆくのか、まだ誰もわかっていないと思います。
グーグルやフェイスブックのサービスは価値がある。だからそのプラットフォームが使われる。これぞ無形資本です。アルゴリズムやデータの素晴らしい活用がユーザーへのサービスの価値を高めています。
しかし、そこにはダークサイドもあります。
ユーザーに対し企業があらゆる力を持っている。いわばユーザーは囚われの身です。
その結果、割高な料金を払わねばならないとか、グーグルやフェイスブックのビジネスモデルに合ったサービスしか選べないといった恐れもある。ネットフリックスやディズニーなどを含め、新たなプラットフォームから生まれる利益の大半が労働者の手に渡らないということです。
無形資産が利幅を増やし、企業が力を得ても、労働者にはプラスにならないのです。
テクノロジー系の企業家や資本の力が以前よりも間違いなく肥大化しています。これはずっと続いてきたトレンドの結果で、アメリカやカナダを含む西欧社会に対するある意味での警鐘です。
弊害を無視して経済成長に突き進むか、成長の速度を落とすのか二者択一ならば、どちらが良いか分かりませんが、そんな選択をする必要はないと思います。経済成長を続けながら社会や環境への影響の仕方を改善していく道があるはずです。
10年前でしたら私は、規制や制度が重要だと考えました。でもそれを支えるものとして「社会規範」の大切さをあげたいと思います。
市民社会の中で、人が人に行動変容を促すそうした社会の規範です。強欲や欲望を法律や規制だけで抑えることはできません。人は制度を不当に利用する方法や抜け穴を見つけるものです。だから社会規範が必要なのです。
政府が化石燃料を使うなと強制するより、消費者がエコな車が欲しいとか、法や制度だけでなく社会規範がともにあるべきです。
絶対に完璧はありえません。しかし、社会にこれらの事柄に気を配り、圧力をかける仕組みがあり、政府が社会とともにあれば、その方がずっとパワフルです。
マイクロソフトの主席研究員グレン・ワイル。
デジタル技術と市場の力で民主制に革新を起こす術を説く研究者だ。
2020年はまるで過去35年間を1年に詰め込んだような年でした。
歴史上で最も格差の広がった年として人々に記憶されるのではないでしょうか。同時に、経済にとって最悪の年でもあります。
富が集中する過程は、成長のエンジンではなく、むしろ成長を妨げるものであることを私たちは重く受け止めなければならないと思います。
AIは個人主義的思考の究極の結果だと思います。「競争に勝ってトップになりたい」そうした思考がAIに投影されています。将来的に正しい道ではないかもしれない。技術の方向性を変えるべきだと考えています。
人間と競ったり自立したりするAIではなく、人間を補完し社会に協調をもたらすようにデザインされるべきです。人に追いつき追い越すような技術は大きな無駄だと思います。

グローバル市場経済と国家や文化の関係を独自の視点から語るフランスの歴史人口学者エマニュエル・トッド。
ケインズが生きていてこの「エコノミスト」誌を見たら、「世界はクレージーになってしまった!」と言うだろう。
このグローバリゼーションの時代は、パンデミックをきっかけに茫然自失の状態です。どの国も直面している問題は自由貿易がリスクをもたらすことが明らかになったことです。衛生用品や生活必需品を輸入していたからです。
これまでは「グルーバリゼーション疲れ」でしたが、今回の感染症はグローバリゼーションを昏睡状態にするでしょう。
フランスは壊滅的な状況です。支配階級が完全に迷走し、一つの経済政策さえも打ち出すことができていません。私たちの世界は今や引き裂かれています。
人間として見た時には、ケインズはトランプに嫌悪感を抱いたかもしれません。しかしトランプの経済学的はセンスには魅了されたのではないでしょうか。
グローバリゼーションの負の効果についてトランプは正しい判断を下したからです。トランプの保護主義についてケインズは称賛した思います。
1980年頃から現在までを直近のグローバリゼーションとするならば、ニクソン大統領やキッシンジャーが中国と和解した大きな転換がグローバリゼーションの始まりでした。
ところが現在起こっているのは、米中の和解を根本から破棄することです。台頭する中国はアメリカにとって国家戦略上のライバルと映っています。米中間で勃発している対立はグローバリゼーションの終焉とも言えるのです。
さらに中国はアメリカさえも超越し、新たな全体主義社会のモデルとして台頭し始めました。全体主義はウイルス撲滅の初期段階で効果を発揮します。社会的、政治的な統制を可能にするからです。まだ、その先は分かりませんが・・・。
今のところ中国は、徐々にヨーロッパにとっても、日本にとっても、民主主義的な価値観を持つすべての人にとって脅威となってきています。
今のヨーロッパは完全なる無秩序状態にあります。コロナ危機の経済的な影響に対して迅速な対応が求められますが、官僚主義とグローバリゼーションの中にあるヨーロッパの多国籍メカニズムは明らかに何かを決断しにくい仕組みなのです。復興計画をまとめるにも膨大な時間を要します。ヨーロッパは分裂と機能停止に陥っています。
これは戦争ではありません。これは戦争などではなく支配階級の失敗なのです。あえて言うならば、「全員が敗北した戦争」でしょう。
これまでの経済の勝利とは、記号的なものの圧勝でした。物価や利益率、金融などあらゆるものを数値化、非物質化した勝利でした。
逆にコロナがもたらしたのは、物質的なものへの回帰です。労働者の質、病院で働く人の質に回帰すること、物理的な現実、リアルな問題に立ち返ることです。
早稲田大学教授・橋本健二。
日本の経済格差と社会階層の変化について研究する社会学者だ。
現在非正規労働者がパート主婦を除いて約900万人います。これに失業者と無業者を加えるとおよそ1200万人ぐらいいる。コロナで非正規が広がれば、これが1300万、1400万人と増えても不思議ではありません。
現在50歳代のごくわずかな年齢幅の人だけが就職難を経験したこともなければずっと安定した仕事を続けてこられた人々なんです。この人たちが卒業すると「フリーター第一世代」が60代に突入すると、「就職氷河期世代」「第二就職氷河期世代」「コロナ非正規世代」という非正規の太い流れが完成することになる。
これらの人々が、年金もなく生活保護も受けられず、死ぬまで細々と働き続け亡くなっていく、これが一番暗い未来ですね。私はそうなる可能性がかなり高いと思います。
1970年代の初めぐらいまで格差は縮小していましたので、日本は当時は格差の小さい方の国だった、それは事実だと思います。
しかしその前後から、国民に対してあなたの生活程度は「上」「中の上」「中の中」「中の下」「下」のどれですかという政府の調査が行われてきた。5つの選択肢のうち真ん中の「中」が3つなのでそこに集中するのは当たり前なんですね。
「一億総中流」という言説が広く定着してしまった。この「一億総中流」という幻想が手遅れを招いた最大の原因だと思います。それを象徴しているのが、フリーターと氷河期世代。バブル期にフリーターという言葉が出てきたが彼らはもう50代、手遅れですね。
ロンドンスクールオブエコノミクスのマイク・サヴィジ教授は、イギリスの社会階級と不平等について長年研究する社会学者。
2013年にイギリス国民16万人の大規模調査によって、現代の「7つの階級」を明らかにした。
「エリート6%」「確立した中流25%」「技術系中流6%」「新富裕労働者15%」「伝統的労働者14%」「新興サービス労働者19%」「プレカリアート15%」。
多くのイギリス人は階級をアイデンティティの一部だと思っており、どの階級に属するか認識していることは重要です。しかし、それが崩壊しつつあります。
工場労働者や製造業者が激減し、新たに多くのホワイトカラーが増えたからです。
「プレカリアート」と呼ばれる最下層の人々の多くは、賃金は低く臨時雇いの仕事をしています。1970年代の公営団地にはそのような人々や移民が住んでいます。
20年前に亡くなった社会学者ブルデューは「ライフスタイルや文化への態度は階級の一部だと主張しました。力があると自信満々な人もいれば、自分の居場所はないと感じている人もいます。不平等を理解するには、こうした文化的側面が非常に重要なのです。
新しい技術によって社会は大きく変わったという人々に対して、ブルデューなら、多くのことが変わっていないというでしょう。力を持ったエリートが再生産される状況を彼は特に心配していました。エリートの子がエリートになる社会です。
不平等がはびこり、後の世代まで受け継がれる社会に我々は生きているとね。
フランスの経済学者ジャック・アタリ氏は2020年、この番組でこう語った。
人は現在の貧しさに対して以上に、自分の子どもたちが将来味わう貧困に抗おうとします。
もしどんなに働いても子どもたちの将来に希望がないと思えば、革命を起こすでしょう。受け入れられないのです。
世界の経済は、オイルショック後のスタグフレーションに苦しんでいた1970年代に大きく変わったという。
1974年、ワシントンのとあるレストランで、一人の経済学者が政府関係者を前にナプキンに一本の曲線を描いて見せた。
これがアーサー・ラッファー博士が生み出した「ラッファーカーブ」だ。
税率と税収の関係を表したグラフで、減税しても税収が増える可能性があるとする80年代の「レーガノミクス」を支える理論となった。
同じ1974年、「新自由主義」の理論的支柱ともされるハイエクがノーベル経済賞を受賞、ハイエクの後継者であるフリードマンが登場にケインズ経済学にとって変わった。
「市場にお金を投入せよ。富はしたたり落ちる」とフリードマンは言った。
今もよく使われる「トリクルダウン」の理論だ。
コロンビア大学のジョセフ・スティグリッツ教授は、2017年にこの番組で次のように語っていた。
80年代、アメリカや各国で市場経済のルールの書き換えが始まった。不平等を加速させるルールへの変更だった。人々は利益を求め短期主義に走ったのだ。
ロンドンにあるインペリアル・カレッジ・ビジネススクールのジョナサン・ハスケル教授。
イギリスの中央銀行で委員も務める経済学者だ。
私たちは当時、情報通信革命が訪れることをまだ知りませんでした。マイクロソフトは1970年代後半に創設され、コンピューターが幅広く使われ始めました。80年代の新たな全く異なるタイプの産業構造への道が開かれました。コンピューターに登場による新たな産業構造はグローバルに広がりました。現在に至る無形資産の潮流とともにね。
資本家の富を生み出す源が変化していくと考えています。保有する資本そのものが変わっていくためです。
グーグルやフェイスブックの競争優位性は彼らの所有する無形資産に支えられています。知識資産、評判資産、関係資産などです。彼らが持つのは巨大な工場や土地ではなく非常に価値のある無形資産だけです。
私たちの調べでは、先進国でも途上国でも無形資産への投資が急増しています。アメリカがその動きをリードしてきました。
90年代に起こった大変化はICT革命でしょう。インターネットとコンピューターが日常的になりました。物理的なコンピューターと同時に多くの無形資産への投資が必要になりました。
そして時が進むうちに無形資産への投資が様々な産業に広がっていきました。小売業や旅行業会などでコンピューターやソフトウェアが使われるようになりました。銀行でも航空会社でも大規模なオンライン化を余儀なくされました。
このように産業構造に「無形の革命」が起きたのです。単なるICTセクターから工業化社会の基本を変える現象へと広がっていったのです。
多くの国がまるでアリ地獄にはまってしまったような感覚でしょう。他国との低賃金競争を強いられる経済でますます賃金は下がっていきます。
無形資産を身につけた労働者をもっと増やさねばとどこの国も感じています。みんな優れたプログラマーになろうとか、新たなiPhoneのデザイナーになろうとか、設計や研究開発をする技術者になろうとか。
無形資産の経済はそれだけでは成り立ちません。こうした作業をコーディネートする人が重要です。フェイスブックやグーグルのような大企業でクリエイティブな人々をまとめる役割ですね。もしかすると、詩人や歴史家、古代ギリシャや日本の研究者かもしれない。こうした知性と無形の資本を持つ人など、これから誕生する資本家のあり方には多様な可能性があるでしょう。
興味深いことに無形資産には逆方向に働く2つの力があります。
平等をもたらす「波及効果の力」と「不平等を広げる力」です。無形資産は規模を拡大しやすく波及効果という特性を持つ。iPhoneの発売から18ヶ月後には世のスマホはそっくりの姿になりました。デザインという無形資産が他社に波及したのです。
こうした平等化と不平等化の力がせめぎ合い、今はなぜか不平等化の力の方が強いようです。
共産主義に対する資本主義の勝利などよりも重要だったのは、数ある資本主義で良いものはどれ?ということ。
たとえば「ノルウェー・スウェーデン型」、福祉制度がとても発達しています。もう一方には「アメリカ型」、熾烈な競争と最低限の福祉ですね。

慶應義塾大学の小幡績准教授。
大蔵省出身の異色の行動派経済学者はこう語る。
世の中のものを必需品と贅沢品に分けると、贅沢品中心の経済になってくるということです。贅沢品の生産を拡大することによって儲けるということが中心になってくると、次第にバブル的成長に移ってくる。現在は完全にバブル的成長になっている。本来必要でない価値をつけて、「付加価値」と呼び、高く売ることを競っているわけですね。
その象徴が「ブランド」なわけですけど、最大の無形資産はブランドだと思います。もともと品質を保証するためのブランドが、今やブランド自体に価値がある。まさにバブル的ですね。そのブランドだから価値があるっていう。
高度成長のメカニズムと全く違って、新しく時間を生み出しているわけではなくて、時間をより便利にする技術が発達しているわけだから、新しいことができるわけじゃないと思うんですよね。利便性が増すだけなんで。進歩にはつながらないと思いますし、社会が良くなるわけではないと思います。
今あるもので毎日みんなが使っている製品を少しずつ改良改善していくということは、みんなが自然に幸せになるってことじゃないですか、金銭にはならないかもしれないけど。
循環型経済とか社会と言ってるのは言葉的には正しい方向に行っていて、同じことの繰り返し、その中でみんながいいと思っているものを少しずつ改善していくこと、そういう社会に方向としては向かっていると思うんで。

イエール大学のロバート・シラー教授。
投資や資産価格についての研究で知られるノーベル経済学者は、市場は「物語」によって動いていると語った。
大きな経済事象は、人々が耳にするストーリーによって引き起こされます。ストーリーは国によって異なることもあれば世界中で同じこともある。
それは感染病に似ています。ストーリーはまるでコロナウィルスのように広まります。
アメリカでは株価が2020年2月にピークを迎えました。ところが突然、株式市場が崩壊するかもしれないという「パニック・ナラティブ」が入り込んできた。こうしたナラティブ(物語)は、自己成就的な予言となるのです。実際に株式市場は35%下落しました。2月19日から3月23日の間にです。大暴落という予言が実現してしまった。
でも3月下旬には、株式市場は再び上昇に転じました。これもまたナラティブの変化が起きたからでしょう。
人々は過去の経験や金融危機の記憶にとらわれがちです。前回の金融危機が終わり、株式市場が再び上昇に転じた2009年の3月を思い出したのです。各国の中央銀行が強力な刺激策で株式市場を上向きに修正する。それに気づくのが遅れたあの時の経験を多くの人が思い出したのです。
あの時の教訓は「株式市場は結局は安定するように導かれ株価は回復する。だからパニックを起こさず投資を続けていい」ということでした。
どういうわけかアメリカの株式市場ではハイテク分野が非常に優勢なことも材料のひとつです。ITや通信サービスが時価総額で株式市場の約3分の1をも占めています。
世界はいま変化していると言われています。ネットを通して多くのことができるようになりました。アメリカはこの分野の産業に大きく関わっています。この産業が市場を一時的に押し上げていますが、経済学者はこれを語りたがりません。明確に分析できないからです。
とても有名な1990年代の逸話があります。
東京の皇居周辺の地価でカリフォルニア州が買える。あれほどの区画だけでカリフォルニア州より高額なんて変ですよね? そして人々は日本の株式市場の水準を疑い始めたのです。
人々のナラティブ(語り口)の変化が起きたわけです。
真実とはしばしば誇張されて伝わるものです。見方が一転したのです。「日本の株式市場は高すぎる」とね。
今のアメリカだって、どうなるか分かりませんよ。
気になるのは、今の時代ナラティブがどのように変化しているかです。
トランプ大統領はあるナラティブを大いに増幅させたと思います。アメリカが世界で最も資本主義的な国であることが強調されました。常に世界のトップで、企業に利益や株式市場を重んじる国であると。トランプはアメリカ国内のそうしたスピリットを高揚させたと思います。
だから、アメリカは世界一高額な株式市場を維持できているのです。それは自信過剰だと言える状況ですがね。
1919年にケインズは「平和の経済的帰結」という本を書きました。第一次世界大戦の終わりの頃です。
「現在の世界の軌道は新たな世界大戦へと向かっていると」彼は示唆しました。ケインズは、第一次世界大戦後に連合国がドイツを罰することを懸念しました。「そんなことをすれば、ドイツ人の中に怒りと不公平感を巻き起こす」と書いたのです。
ケインズが伝えようとしたナラティブはこれです。ドイツ人が新たな戦争を起こすのを止めるには、彼らの話にもっと耳を傾けるべきだったのです。
人間の心理的な枠組みを知ることが必要不可欠だとケインズは言いました。経済がなぜ繁栄するか、あるいは繁栄しないかを理解するにはね。人間の間に漂っている重要な何か、それは優れた人々によって紡がれる物語のはずです。
人々の「信頼」や「責任」の重要性こそケインズが本当に伝えたかったことなのです。
いろいろな専門家の話を聞いた中で、私の心に一番しっくりきたのは、ちょっと変わった言葉だった。
ウォール街の投資系銀行で働くインド系のグローバルストラテジスト、ルチア・シャマルの言葉だ。
彼は2017年に放送されたこのシリーズで、資本主義に未来について次のように語っていた。
私は禅の思想に惹かれている。
投資においても人生においても、精神状態を安定させることが大事だと思う。
この世に永遠のものなど何もない、この掟をいつも心に留めているよ。
「精神状態を安定させることが大事」という彼の意見に、私は100%同意する。
そして「この世に永遠のものなど何もない」という言葉にも・・・。

去年の2月、株価が激しく乱高下し始めたのを見て、私は初めて信用取引に挑戦してみた。
1日で大きく稼げる日もあったが、市場の動きから方時も目が離せなくなって心が疲れてしまった。
そのため損を取り返すことを諦めて、マーケットからしばらく離れる決断をし、その結果私の心は穏やかになったのだ。
生活できるだけのお金があれば、それ以上無理して稼ごうと思わない方がいい。
「禅的資本主義」。
この言葉が妙に心に残った。
今の私には、これが一番合っている気がする。
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