<吉祥寺残日録>マスク安全保障 #200306

新型コロナウィルスによって、世界中の人たちが知った事実がある。

それは、新感染症が猛威を振るった時、真っ先に不足するのがマスクだということ、そしてマスクの大半は中国で生産されているという事実だ。

世界中の人たちがマスクを求めて右往左往し、長い行列を作っている。

中国で新型肺炎が報道されるようになった1月ごろには、マスクが買えない人たちがペットボトルやフルーツをマスクがわりに使っているコミカルな映像をテレビで見ながら笑っていたのは、つい先日の話だ。

私は今日の事態もある程度予測し、妻にマスクを買ってきてもらったので今のところ困ってはいないが、あの頃中国を笑っていた人たちの多くが今マスクを求めてさまよっていると思うと、ちょっとした人生訓のようでもある。

今日テレビで見たのだが、日本の企業が発注した大量のマスクは中国政府に接収され、勝手に持ち出されないよう工場の前で警察が監視しているという。

本来なら世界各国に送られたであろうマスクは、非常時には生産国である中国が全部抑えてしまい、発注した国々には届かないのだということがわかった。

一般の人たちがマスクを手にできないのはまだ我慢するしかないが、医療関係者や介護の現場でもマスクがなくなりそうだという事態は看過できない。

マスクがないために医療が崩壊するなどということはあってはならないことだ。

しかし、政府の対応は遅く、もどかしい。

台湾ではマスクを全量政府が買い取り、個人を特定する形で販売されている。さらにどこでマスクが手に入るかスマホの地図でわかる仕組みも整えられているそうだ。韓国やフランスでも政府がマスクを管理しているが、日本政府はいまだにそうした抜本策を打ち出せていない。ITの活用もまったく遅れている。

昨日になって、マスクの転売を禁止する方針を打ち出したが、施行はなぜか14日から。そもそも既存の法律で転売禁止ができるなら、なぜ今まで手を打たなかったのかさっぱり理解できない。

転売禁止措置の根拠となるのは「国民生活安定緊急措置法」という法律だそうだが、この法律は第一次石油ショックを受けて1973年に成立したものだそうだ。テレビでは今もドラッグストアに並びマスクを買い占める中国人たちを取材していた。マスク不足が指摘され始めてもう1ヶ月以上が経ち、必要物資を確保するための法律があったにも関わらず、今まで政府がただただ手を拱いていたことには絶望的な気分になってしまう。

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一方、世界中のマスクを抑えた中国には、いつもの高圧的態度が戻ってきた。

私が時々チェックしている「人民網日本語版」には、「世界でマスク不足が深刻 中国の生産能力で解決できるか」という記事が掲載された。

アリババの統計によると、世界の医療用マスクのニーズは13769%になっているという。世界のマスク生産量の50%は中国が握っていて、今回の事態によって中国のマスク生産量は5.2倍に増えたという。

しかし中国では今もマスクが不足していて、中国国内のニーズが満たされればマスクが輸出できるようになるだろうとのアナリストの予測が紹介されていた。

国を挙げて大幅な増産に取り組む中国で必要なマスクが行き渡ってから、私たちの手元にもマスクが回ってくるということだろう。

その段階になると、中国はマスクを外交手段として使ってくることも予想される。武漢の緊急事態の時、日本から多くのマスクが送られたことを配慮してくれるかどうか? 中国に文句を言う国にはマスクを出し渋る事態も起きそうな予感がする。

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今や、マスクは、国の安全保障に関わる戦略物資であることがわかった。

民間の経済活動では、よりコストの安い中国で生産する判断になり、供給量も平時に必要な分だけになるのは当然である。無駄な在庫を抱えないことこそ、経営者に求められているからだ。

しかしマスクが戦略物資であることがわかった以上、その8割を中国での生産に任せておくことはできない。日常的に多少価格が高くなっても、生産地の多角化、できれば国内生産比率を高める必要がある。

これは民間任せではダメに、政府が毎年一定数を買い取ることを前提に国内生産できる体制を整えるべきだろう。喉元過ぎた時、忘れないよう、次いつくるかわからない危機に備えなければならない。

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