<吉祥寺残日録>自転車に乗って🚲男子サッカー初戦が行われる東京スタジアムに行ってみた #210723

2021年7月23日。

今日、世界的なパンデミックと五輪中止を求める国内世論が収まらない中で、「東京オリンピック」が開幕する。

私は4日間一歩も外出せずに過ごしていたので、少しは運動をした方がいいだろうと思い、昨日の午前中、男子サッカーの初戦「日本vs南アフリカ」の試合が行われ予定の「東京スタジアム」までサイクリングすることにした。

調布にある「東京スタジアム」までは私の自宅から直線距離で5キロほど。

スタジアムの正門にたどり着いたのは午前9時半ごろだった。

この日の夕方からオリンピックのサッカーの試合が2試合予定されているにもかかわらず、正面ゲートにはシャッターが下され人影もほとんどない。

チケット売り場には3枚の紙が貼られていた。

「本会場の競技は全て無観客での実施になります。チケットをお持ちであってもご入場はできません」

「無観客競技となるため、チケットの当日券・前売券販売はいたしません」

「会場におけるチケット代金の払い戻しはございません。チケット関連情報については公式チケット販売サイトをご覧ください」

日本中の人たちがオリンピックのプラチナチケットを手に入れようと必死にサイトにアクセスしたのが、今となっては懐かしい。

「TOKYO2020」の装飾が施されたスタジアムの上空をヘリコプターが舞っていた。

2021年なのに「TOKYO2020」ということ自体がそもそもおかしいし、チグハグな今大会を象徴しているようにも思う。

でも、上空を舞うヘリコプターの音を聞くと、知らず知らずに元テレビマンの血が騒ぐ。

普通の人にとっては単なる騒音でしかないかもしれないが、ヘリが舞うニュースの現場に何度私は立ったことか・・・。

自宅でテレビを見ているだけだと、どこの国でやっているオリンピックかわからなくなるが、たとえ人がいなくてもスタジアムに来ると、「ここで何かが始まる」という実感を得ることができる。

正面ゲートの前には、ちょうど生中継しているテレビチームがいた。

どうやらフジテレビの「あまたつ」さんのようだ。

フロアディレクターがCM明けまでの秒読みをしている。

もしコロナがなければ、この場所は日本代表を応援する人たちで溢れかえっていただろう。

スタジアム周辺にオリンピックの賑わいはないが、警備だけは厳重だ。

至る所におまわりさんが立っている。

真夏日が続く中でのお仕事、本当にご苦労なことだ。

歩道橋から見下ろすと、右側にサッカーや7人制ラグビーの会場となる「東京スタジアム」、左側にはバドミントンや車椅子バスケットが行われる「武蔵野の森総合スポーツプラザ」が見える。

両施設の周囲にはフェンスが設置され、間を通る道路も通行止めとなっていた。

すぐ下に、大阪府警のバスも止まっている。

せっかくなので、自転車で「東京スタジアム」の周辺をぐるりと一回りしてみた。

まず目につくのはたくさんの警察官。

地方からの応援組も多いようだ。

スタジアムのすぐ近くには、警視庁の警察学校や第7機動隊の本部もあるため、ここは警察にとって活動しやすい場所なのかもしれない。

自衛隊員の姿も見える。

関係者しか立ち入れないゾーンの出入り口で、テロ対策を行っているようだ。

ブルーのユニフォームに身を包んだ大会ボランティアの人たちもたくさん目撃した。

みなさん張り切って応募し、使命感を持って様々な研修を受けてこられたに違いない。

当初予定していた海外からのお客さんどころか日本人の観客もいなくなり、ほとんど無人の会場で一体何をしているのだろう?

そうしてうろうろしていると、スタジアムに隣接する「都立武蔵野の森公園」の一角に万国旗が立ち並ぶいかにもオリンピックらしい場所を発見した。

遊歩道に沿って立てられたポールには中国や韓国、チリやタイといった各国の旗が並び、緑の芝生の向こう側には「TOKYO2020」と描かれたフェンスが設置されている。

旗をバックに記念撮影をしている人たちもいた。

この見慣れない白い旗は、「ROC」(ロシアオリンピック委員会)の旗だ。

ロシアは過去のドーピングによって国としての参加が認められず、個人の資格で参加するロシア選手がメダルを取ると、国旗の代わりに「ROC」の白い旗がポールに掲げられ、国歌に代わってチャイコフスキーの協奏曲第一番が流れることになるそうである。

それにしてもどうしてここに、各国の旗が立っているのだろう?

ここで何かのセレモニーでもあるのかしら?

よく見ると、池の向こうにはテレビ中継の大型カメラも設置されている。

しかもスタッフは外国人だ。

その理由はすぐに分かった。

私の目に飛び込んできたのは、「START」と書かれた赤いゲート。

ここは、24、25日に行われる自転車ロードレースのスタート地点だったのだ。

ゴールは250キロほど離れた富士スピードウェイだという。

大切なスタートゲートを、組織委員会所属のセキュリティ要員と警察官が守っている。

ゲートの前にはカメラ用の大型クレーンも設置済みだ。

こちらにも扱うのは外国人スタッフ。

一般の人は知らないかもしれないが、オリンピックの国際映像というのはヨーロッパ人中心の専属チームがいて、夏季・冬季を問わずすべてのオリンピックの公式映像は彼らが中心となって制作し全世界に配信されるのだ。

当然日本の放送局のスタッフも国際映像の制作に関わるが、それはあくまでお手伝いにすぎない。

「東京スタジアム」に隣接するこの公園内にはたくさんのスポーツ施設があり、連休中の昨日は多くの子供たちが野球やサッカーに汗を流していた。

彼らのようなスポーツ少年少女にこそ、あのスタジアムで世界最高のプレーを見せてあげたかった。

心からそう思った。

目と鼻の先にあるスタジアムで「フランスvsメキシコ」や「日本vs南アフリカ」の試合が行われるのに、5万人収容できるスタジアムに観客はいない。

なんともったいないことだろう。

せめて地元の子供たちだけでも観戦できれば、少しは東京開催の意味が果たせただろうに・・・。

そういえば、長男一家から先日こんな写真が送られてきた。

私の孫娘が学校からもらってきていたもので、「学校連携観戦」と書かれた入場券と東京都教育委員会発行の冊子のようだ。

東京在住の孫たちは学校単位でオリンピックの観戦に行く予定だったが、無観客が決まったため子供たちの観戦も中止になってしまったという。

「残念だったね?」と声をかけられた孫娘が首を横に振り「だって暑いじゃん」と答える動画も添えられていた。

私はその動画を見て笑いながらも、とても残念な気持ちになった。

私のようなジジイはオリンピックは特別で大切な大会というイメージを持っているが、子供たちはオリンピックにちっともワクワク感を感じないらしい。

それが残念だ。

孫娘が果たして何日にどの競技を観戦する予定だったかは不明だが、たとえ外国同士の試合だったとしても、自分が見た試合を通して知らない異国に興味を持ち、その出会いが子供の未来を変えることだって十分にある。

「半世紀ぶりにオリンピックを東京に」という当時の石原慎太郎氏の一声で始まった誘致活動。

誘致活動の過程で「復興五輪」という理念が生まれ、世界の人たちに日本の魅力を発信する「インバウンド」の取り組みも勢いづいた。

「おもてなし」という言葉が流行語となり、世界から称賛される日本人像が私たちの中でどんどん膨らんでいった。

しかし、そんなお題目は結局全部「嘘っぱち」だったことを、今回のコロナ禍は炙り出してしまった。

今の日本は、外国人をまるでウイルスのように危険視して排除しようとする幕末の尊王攘夷運動のような偏狭な空気で充満している。

これでは子供たちがオリンピックにワクワクしないのも当然だろう。

本当に残念だし、日本の将来がとても心配である。

57年前と比べて、何から何までうまく行かない今回の東京オリンピック。

ついに開会式の前日になって演出チームの1人が解任されるという前代未聞の事態と陥った。

解任されたのは元芸人ラーメンズの小林賢太郎氏、開会式・閉会式でステージ演出を担当していたという。

問題となったのは彼が芸人時代に書いたホロコーストを題材にしたネタである。

これがネットで話題となり、ユダヤ人団体から抗議を受けたのだ。

なんとユダヤ人団体に通報したのは自民党の中山泰秀防衛副大臣だという。

しかも通報された英訳は「Let’s play Holocaust.」となっているらしく、問題のコントの内容とは全く違う。

この人はとにかくイスラエルべったりの政治家のようだが、何故わざわざ内閣の一員が火に油を注ぐのか意味がわからない。

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欧米ではホロコーストの扱いは超センシティブではある。

しかし、日本人にはそこまでの意識はないので、若い芸人さんがあまり深く考えずにネタにすることはいかにもありそうだ。

私が気になるのはむしろどうして今頃になってこんな昔の話が問題になったのかという経緯である。

つい先日辞任した音楽家の小山田氏は自身が行った酷いいじめが原因なので過去の問題とはいえ致し方ないが、今回の小林氏のケースは芸人のネタの話であって、その問題となったコントでさえ内容が曲解されて流布されているように感じる。

私は、小林氏は「五輪反対派に抹殺された」という印象を強く持った。

今やどんな人でも、ネットで検索するだけでその人の過去は簡単に調べられる。

一度ネット上に書き込まれた悪評は消すことができず、敵対する人からすれば格好の攻撃材料にもなりうるのだ。

オリンピックに関係する人間ならば誰でもいいので、何か問題を見つけ出してそれをネット上で拡散すれば、今回のような国際的な問題に発展させてオリンピックにダメージを与えることもできる。

私は小林氏のことをよく知らないし、弁護する気などさらさらないが、どうも五輪反対運動が先鋭化し、陰湿な「テロ」のようになってきている気がしてそちらの方が気持ち悪い。

直前で主要スタッフが次々に辞め、現場はさぞ大混乱だと思うが、果たして今夜の開会式がどんなものになるのか、元テレビマンとしては逆に興味津々である。

一方、くだらない外野の雑音を振り払うように、この日「東京スタジアム」では本当に素晴らしい試合が行われた。

夕方から始まったのは、サッカー男子の予選、メキシコvsフランス戦。

優勝候補と呼ばれるメキシコが4−1で強豪フランスを下したのだが、前半は両チームとも一歩も譲らぬ激しい攻防で0−0、無観客であることなど全く気にならない緊張感あふれる試合となった。

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後半開始直後、メキシコの10番ライネスが華麗なドリブルで相手陣内深くに切れ込み素早いクロス、これをベガが頭で叩き込みフランスから先制点をもぎ取った。

これをきっかけに完全に試合はメキシコペースになり、このライネスという選手が私の大のお気に入りとなった。

日本代表は次の試合でこのメキシコと対戦する。

とてつもない強敵だ。

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それに比べて日本代表の初戦・南アフリカ戦は主審の意味不明なジャッジも含めてイラつく試合となった。

日本がずっとゲームを支配しているがどうしても点が入らない。

相手の南アフリカは大会直前に選手2人のコロナ感染が判明し当日まで試合が行えるかどうかさえわからない不完全な状態だったのに、攻めても攻めてもどこかに狂いが生じる、そんな展開が続いた。

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そんなイライラを吹き飛ばしたのが後半25分、やはり久保建英のゴールだった。

私も思わずテレビに向かって拍手をしていた。

こんなんでメキシコやフランスと戦えるのかな・・・と心配にはなるが、それでもやっぱりオリンピックは面白い。

そろそろ、スキャンダルばかりに目を向けず、未来を担う子供たちがワクワクするような東京オリンピックにできないものだろうか?

コロナなんて所詮一過性、それよりももっと大切なメッセージがスポーツにはあると私は信じている。

<吉祥寺残日録>オリンピックの聖火リレーがスタートした日、市川崑監督の映画「東京オリンピック」を観る #210326

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