『中国、空自機形のミサイル標的設置か 衛星写真で初確認』
こんな記事が日本経済新聞のサイトに出ていた。
日経の独自ネタのようだが、その内容にとても興味を惹かれた。

問題となるのは、このぼんやりとした衛星写真である。
これは中国西部に設けられたミサイル訓練のための標的なのだという。
その標的が航空自衛隊の「AWACS」を模していることが日経新聞の独自取材で明らかになった。
中国が新疆ウイグル自治区の砂漠地帯に日本の自衛隊が運用する早期警戒管制機(AWACS)と同形状の構造物を置いていることがわかった。日本経済新聞が複数の専門家と衛星写真を解析して確認した。自衛隊元幹部は中国軍がミサイルで自衛隊機を攻撃する訓練の仮想標的だと指摘した。
引用:日本経済新聞

この写真が撮影されたのは、新疆ウイグル自治区の砂漠地帯。
広い国土を持つ中国は、北朝鮮のようにわざわざ海にミサイルを飛ばして隣国との摩擦を起こす必要もない。
自国内の無人地帯を使っていくらでもミサイルの訓練ができるのだ。

これが問題の「AWACS」を模したとされる標的だ。
米シンクタンク、新アメリカ安全保障センター(CNAS)のトーマス・シュガート非常勤上級フェローは「この大きさと形でエンジン2基を搭載したAWACSは世界で航空自衛隊のE767だけだ」と分析した。
E767は米ボーイング製で、防衛省によると世界で運用しているのは空自が浜松基地に配備する4機しかない。背面にレーダーを載せて飛び、地上のレーダーでは捕捉しきれない遠方の航空機やミサイルを早期発見する役割を担う。
中国は台湾有事の際、日米が一体で対処してくる想定で構えている。米欧の軍事支援を受けるウクライナの抵抗でロシアの侵攻が停滞する状況を踏まえ、日米の対応に警戒を高める。自衛隊機が「標的」となる背景だ。
E767に類似する物体は滑走路のような設備の上に置かれていた。警戒監視能力が高いE767は飛行中に撃墜するのが難しい。地上で待機しているときがもっとも攻撃に弱い。
軍事訓練ではミサイルの命中精度を高めるため攻撃対象と同じ形の標的を使う。元自衛艦隊司令官の香田洋二氏はE767を攻撃するシミュレーションとして「ミサイルの着弾の誤差などを確かめるためにつくったのだろう」とみる。
引用:日本経済新聞
中国が有する画像認識やAIの技術を駆使すれば、「AWACS」を正確に狙い撃ちすることも可能となるに違いない。
それに対抗するためには、自衛隊も「AWACS」そっくりのダミーを複数用意して配置するなど敵を撹乱するような偽装工作も必要になってくる。
所詮は矛と盾、疑心暗鬼は無限ループへとはまり込んでいく。

撮影現場周辺には、アメリカの空母を模した標的も確認されている。
撮影地点の周辺では米海軍協会(USNI)が2021年11月、米軍の空母や駆逐艦に似せた建造物を見つけた。今月には台湾海軍の重要拠点である蘇澳(スーアオ)基地を模したような港湾設備と弾道ミサイルの着弾痕を発見した。
自衛隊機に似た形状の物体があると明らかになったのは初めてだ。
引用:日本経済新聞
つまり新疆ウイグル自治区のこの砂漠地帯は、中国ミサイル部隊の訓練場であり、そこに設置された標的から中国側の狙いもある程度推測されるということなのだ。
中国で航空自衛隊の早期警戒管制機(AWACS)と類似する構造物が見つかった一帯は2021年3月下旬に本格的な建設が始まった。日米両政府が「台湾海峡の平和と安定」を明記する共同文書をまとめた直後にあたる。台湾有事へ関与しないよう威圧する中国の思惑がのぞく。
引用:日本経済新聞
ただ同時に、この標的が宇宙から発見されることは中国も織り込み済みであり、こうした具体的な標的を置くことで、日米を威嚇する意味合いもあるというのだ。
国の存亡がかかった軍事分野では、トップレベルの頭脳と最新のテクノロジーを用いて常に現実に即した作戦計画が練られると共に、相手に対する心理戦が常に展開されているということなのだろう。

ではなぜ、自衛隊の「AWACS」が中国軍の標的とされたのか?
香田氏によるとE767を九州上空に飛ばせばレーダーの探知範囲は中国沿岸部まで及ぶ。時速800キロメートルで航続距離は9000キロメートルのため10時間以上にわたる監視が可能だ。
味方の戦闘機に敵機を迎え撃つ方角を指示する管制機能も持ち「空飛ぶ司令塔」と呼ばれる。
自衛隊の岩田清文元陸上幕僚長は「台湾有事でE767を失うようなことがあれば、日本は南西諸島における航空作戦の司令塔がなくなる」と懸念する。
引用:日本経済新聞
台湾有事を想定した時、中国側から見るとまず最初に自衛隊の「AWACS」を攻撃することはとても理にかなっているということなのだ。
日本人はすぐに米軍が助けてくれると考えがちだが、この「AWACS」に関してはそうもいかないらしい。
E767は米ボーイング社が中型旅客機B767型を母体に開発した。全幅、全長は50メートル弱で全高は16メートルほどの大きさだ。2基のエンジンを搭載し、最高速度は時速800キロメートル以上。航続距離は9000キロメートル程度だ。
日本は航空自衛隊の浜松基地で2000年から運用を始めた。防衛省によると世界で運用するのは航空自衛隊のみだ。米軍や北大西洋条約機構(NATO)が持つAWACS「E3」はB707をベースにした旧型機であるものの、いまも現役だ。NATOはロシアによるウクライナ侵攻への対応でもE3を活用している。
引用:日本経済新聞
つまり、自衛隊の「AWACS」は米軍が保有する「AWACS」よりも新型ということのようだ。
中国がわざわざ自衛隊の「AWACS」を標的とするのも、しっかりとした戦略的な根拠があるということなのだろう。

ロシアのウクライナ侵攻によって、世界中が一気に安全保障問題に目覚める中、バイデン大統領が日本と韓国にやってくる。
ヨーロッパの危機の中でも、「対中包囲網」構築というバイデン政権の基本戦略は変わらない。
北欧2カ国のNATO加盟が現実となる中で、東アジアでもNATOのような強力な枠組みを作り上げたいと考えているのだろう。
まずはアメリカが主導する新たな経済圏構想「インド太平洋経済枠組み(IPEF)」によって東南アジア諸国を中国から引き離したい狙いのようだが、アジアには未だに強権的な国が多く、アメリカ型の民主主義の押し付けには抵抗感も強い。
歴史的にもアジアに強い影響力を持ってきた中国は、その巨大市場によって経済的にも近隣諸国を強力に引きつけている。
軍事とエネルギーだけのロシアと比べて、中国に対抗する仕組みを構築する試みは容易ではないだろう。
それでも、ロシアのウクライナ侵攻は台湾防衛の意識を欧米各国の中に目覚めさせた。
いずれ台湾の独立を支持する動きも表面化して来るだろう。

中国・ロシア・北朝鮮と相対する日本の安全保障をどのように守るのか?
考えれば考えるほど難しい課題であり、ただ単に緊張を高めればいいということでもないだろう。
今日本人に必要なことは、ウクライナのことを他人事のように傍観しているのではなく、日本流のやり方で東アジアの平和をどうやったら守れるのか真剣に議論して必要な備えをすることである。
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