<吉祥寺残日録>最後の最後までメダルラッシュ!誰がなんと言おうと私は東京オリンピックを楽しんだ! #210808

東京オリンピックも今日が17日目、ついに大会最終日となった。

心配された台風の影響もほとんどなく、陸上競技も野球やサッカーの決勝戦も無事に行われた。

3大会ぶりに行われた野球では、オリンピックの公式種目となってから初めて日本が金メダルを獲得した。

日本、悲願の金メダル!

とはいえ、私はどうもサッカーのようには興奮できない。

わずか6チームが参加した野球では、参加チームの半分がメダルを獲得する。

一度負けたチームが敗者復活戦を戦い、そこを勝ち抜いたアメリカが決勝の相手だったが、準々決勝で一度勝った相手とまた金メダル争いするというこのトーナメント方式はそもそもスッキリしない。

稲葉ジャパンはいつもの先発メンバー、不振の4番鈴木誠也もそのままである。

日本のプロ野球を代表する強打者がずらりと並んだ打線はいかにも強力そうに見えるが、今日もなかなか点が入らないジリジリとした試合となった。

3回裏、ヤクルト村上のホームランで先制した日本が8回に貴重な追加点を奪い、2−0で競り勝った。

先発の森下が好投し、千賀、伊藤大海、岩崎、栗林とつないで完封リレー、アメリカ打線を完全に押さえ込んだのが勝因である。

悲願の金メダルがようやく獲れて私も嬉しいが、どうせならもっと圧勝して欲しかった。

メジャーリーグが主力選手をオリンピックに参加させていないので、アメリカやドミニカ、メキシコの代表選手たちはマイナーリーグや日本球界でプレーする言ってみれば二流の選手たちだ。

元から国内リーグが充実している日本と韓国が有利なシステムなので、これまで金メダルが取れなかったことの方がむしろ不思議な感じがする。

野球では負けたが、アメリカは大会最終盤になって金メダルを積み上げ始めた。

予選でフランスに敗れて衝撃が走ったバスケット男子は、決勝で今度はフランスに雪辱しオリンピック4連覇を達成した。

バスケット女子の決勝は、なんと絶対王者アメリカと伏兵日本が対戦。

結果は75−90、男女ともバスケットボールの本場アメリカが金メダルを守った。

それにしても私が全くノーマークだった女子バスケットボールチーム、素晴らしい銀メダルだった。

体格的に圧倒的に不利な相手に対し、スピードと3ポイントシュートの正確さで対抗した。

そして勝った。

八村塁を擁し大きな期待を集めた男子とは違い、事前にはほとんど注目されなかった女子バスケットボールの成し遂げた快挙はまさに感動的だった。

この女子バスケットボールの奇跡を語るうえで忘れてはならないのが、「トムさん」ことトム・ホーバス監督である。

4年前に日本代表の監督に就任した時から、ホーバス監督は「目標は東京オリンピックの決勝でアメリカを倒し金メダルを獲ること」と言い続けたという。

高い目標を掲げ、自分を信じて努力する。

これこそがアメリカの精神であり、アメリカの強さなのだ。

アメリカの強さは女子ゴルフでも。

世界ランキング1位のネリー・コルダが2日目のビッグスコアを守り通して優勝。

男子のシャウフェレに続き、男女ともゴルフはアメリカが金メダルを獲得した。

この女子ゴルフでも日本選手が活躍し、稲見萌寧が要所要所で長いパットを決め、元世界ランク1位のリディア・コーとのプレーオフを制して見事銀メダルを獲得した。

松山が好位置をキープしながらメダルを逸したのとは対照的に、稲見の根性と勝負強さ、さらにはメンタルの強さを感じさせる試合だった。

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今大会不振が続き金メダルゼロが続いていたアメリカの陸上短距離陣だが、陸上競技の最後を飾る1600メートルリレーで意地を見せた。

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男子はボツワナ、トリニダード・トバゴを抑えて連覇達成。

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女子はポーランド、ジャマイカを抑えて、なんと7連覇を成し遂げた。

やっぱりアメリカは今もオリンピックの主役だが、中国の台頭もあり、もはや絶対的な存在ではなくなりつつあるように見える。

得意種目ということで言えば、今朝行われた男子マラソンのキプチョゲも凄かった。

2時間1分39秒の世界記録を持つキプチョゲは、スタート直後から常に集団の先頭を走り続けた。

その姿はまるでアフリカで売られている彫り物のようで、最後までその表情はまったく変わらなかった。

まさに、「走る哲学者」。

57年前の東京オリンピックでその名を馳せたアベベと同じ、修行者のような雰囲気が漂う。

そして、アベベ、チェルピンスキーに次ぐマラソンでのオリンピック連覇を成し遂げたが、キプチョゲの場合は5000mでオリンピックに出場した経験があり、アテネで銅、北京で銀メダルを獲得している。

今年36歳を迎えたキプチョゲは、アベベと同じぐらい注目されるべきレジェンドなのだ。

日本から参加した3選手のうち、最後までトップグループで頑張ったのは大迫傑だった。

30キロでキプチョゲがすると、大迫は無理に追うことをせず、自らのペースを守った。

この後、落ちてくる選手を追い抜きながら順位を上げ6位入賞を果たした。

非常にクレバーで戦略的なレース運びをした大迫は、東京オリンピックを最後にマラソンを引退することを発表している。

男子マラソンで銀メダルを取ったのはオランダのアブディ・ナゲーエ、銅メダルはベルギーのバシル・アブディだった。

2人ともソマリア出身、ゴール直前、オランダのナゲーエがベルギーのアブディを手招きしながら先行するケニア選手を抜き去りメダルを手にした光景は、戦乱が続く故郷を離れ異国に暮らす者同士の国籍を超えた心のつながりを感じさせた。

祖国を失うというのは我々には想像もできない苦難だろう。

でも、確実にアフリカ出身のマラソン選手は世界中に広がっている。

日本が再びマラソン強国となるためにはもっと本気で移民を受け入れるしかないだろう。

柔道と並んで日本のお家芸と言えるレスリング。

日本選手が次々に金メダルを獲得した。

「霊長類最強」と呼ばれた吉田沙保里の跡を継いだ女子53キロ級の向田真優は、婚約者のコーチとタッグを組んで日本の金メダルを守った。

男子フリースタイル65キロ級の乙黒拓斗は、ロンドン大会以来となるレスリング日本男子の金メダルを勝ち取った。

しかしレスリングで最も輝いたのは、女子50キロ級の須崎優衣。

ジュニア時代の2014年から外国選手に負けたことがないという須崎は、決勝でも中国選手を一方的に攻め、わずか1分36秒でテクニカルフォール勝ち、金メダルを手にした。

開会式で八村塁と共に日本チームの旗手を務めた須崎はまだ22歳。

その愛らしい容姿も含めレスリング界のアイドル的な存在となりそうだ。

吉田沙保里、伊調馨のような日本が誇る絶対王者として長く世界に君臨することを期待しよう。

東京オリンピック限定の新種目、空手でも金メダルが生まれた。

空手男子形の喜友名諒は期待通りの鬼気迫る演技で見事優勝、沖縄出身者として初めての金メダリストとなった。

今大会ではボクシング女子フェザー級の入江聖奈も金メダルを獲ったが、彼女は鳥取県出身。

鳥取と沖縄出身者が相次いで金メダルを獲得したことで、47都道府県で残っていた「金メダル空白県」がすべて埋まったことになる。

格闘系競技でのメダルが多い日本だが、スケートボードやサーフィンに続き、こちらの新種目でもメダリストが誕生した。

スポーツクライミング女子複合。

スピード、ボルダリング、リードの3種目の総合得点でメダルを争うこの競技では、男子のエース楢崎智也が特に注目されてきたが、メダルを獲ったのは女子だった。

野中生萌が銀メダル、野口啓代が銅メダル。

長年スポーツクライミングを引っ張ってきた野口は、東京オリンピックのためだけに競技に復帰して掴み取ったメダルだった。

そして日本選手の中で最後にメダルを手にしたのは、自転車トラック女子オムニアムの梶原悠未。

1日に「スクラッチ」「テンポレース」「エリミネーション」「ポイントレース」という4種目を行い、その総合得点を競う過酷な競技で、155センチという小柄な梶原は堂々の銀メダルを獲得した。

自転車競技で日本女子がメダルを取るのは初めての快挙。

穏やかな笑顔が印象的な梶原が、大会組織委員長になった橋本聖子さんも手が届かなかったメダルを日本にもたらしたのだ。

これで東京オリンピックで日本が獲得したメダルは、金メダル27、銀メダル14、銅メダル17の計58個となった。

57年前の東京オリンピックもメダルラッシュに沸いたが、その時は金16、銀5、銅8の29個だったので倍増したことになる。

過去最多だった前回のリオ五輪でも金12、銀8、銅21の41個だったので、文字通り大躍進と言っていいだろう。

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すべての戦いが終わり、私が注目していた米中の金メダル争いはアメリカが最後の最後で大逆転した。

最終日にアメリカは怒涛の金メダルラッシュ。

バスケットボールに続き女子バレーボールでも、決勝でブラジルを破りこの種目悲願の金メダルを獲得した。

そして、梶原を破って自転車オムニアムで金メダルを獲得したのもアメリカのバレンテだった。

これにより、東京オリンピックで中国が獲得したメダルは、金メダル38を含めて88個だったのに対して、アメリカは金メダル39を含め113個のメダルを手にし逆転した。

アメリカ人はNO1を意味する金メダルしか評価しないというが、今大会では終始中国が金メダル数で独走していて、それがアメリカでのオリンピック中継の視聴率をかつてなく低いものにしていたともいう。

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それでも前回のリオ五輪と比べると、中国は金メダルを12個上積みしたのに対し、アメリカは7個減らしている。

アメリカの牙城だった競泳でも、女子800メートルリレーで中国に金メダルをさらわれるなど、国を挙げた中国の強化策が目についた大会だった。

かつてソ連や東ドイツなどの共産主義国がオリンピックを国威発揚に利用したように、中国のメダル量産はまさに国家戦略であり米中対立の新たな火種にもなりそうな気がする。

日本のメダルラッシュも、東京オリンピックに向けてスポーツ予算が増額された成果だとすると、パリ大会以降ガッカリさせられることが増えるかもしれない。

でもそんな先のことを心配するよりも、東京オリンピックが見せてくれた数々の素敵な物語を噛み締めながら、今しばらくその余韻に浸っていたいと思っている。

<吉祥寺残日録>【東京五輪8日目】緊急事態宣言拡大決定!この日私を興奮させた若き異次元アスリートたち #210731

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