<吉祥寺残日録>温暖化研究のパイオニア真鍋淑郎氏にノーベル賞!!一方で疑念を植え付けるプロたちも暗躍 #211006

今朝も美しい朝日が見られた。

10月に入って、東京でも30度近い暑い日が続いている。

個人的には寒いよりも暑い方が好きなのだが、地球環境の未来を考えると喜んでばかりはいられない。

今や国際的な最重要事項となり始めている地球温暖化問題。

人間の活動が地球環境に及ぼす影響をいち早く研究した日本人研究者がノーベル賞を受賞した。

ノーベル物理学賞を受賞したのは、米プリンストン大学上席研究員・真鍋淑郎さん、90歳。

「地球温暖化を確実に予測する気候モデルの開発」が受賞の理由だそうだ。

真鍋氏は1960年代、物理法則をもとに地球全体の気候をコンピューター上で再現して予測する数値モデルを開発した。大気中の二酸化炭素(CO2)濃度が気候に与える影響を初めて明らかにした。国際社会の目を温暖化に向けさせ、国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の発足などにつながった。

引用:日本経済新聞

日本生まれの自然科学分野のノーベル賞受賞は、2019年に化学賞を受賞した旭化成の吉野彰名誉フェローに続き25人目で、物理学賞の受賞は15年の梶田隆章・東京大学卓越教授に続き12人目となった。

気象の世界では有名人だそうで、お天気キャスターの森田さんが興奮していたのがとても印象的だが、CO2の増加に伴う気温上昇を予測して世界に衝撃を与えた温暖化予測の先駆者が日本人だったというのは実に誇らしい気持ちになる。

国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)は今年8月に出した最新の報告書で、人間活動が「大気、海洋、陸地の温暖化をもたらしたのは疑う余地がない」と断定した。

真鍋さんの論文は、1990年のIPCCの第一回報告書でも大きく引用され、真鍋さん自身執筆者の一人として参加したという。

まさに、世界的なテーマとなっている地球温暖化問題は、真鍋さんの研究からスタートしたのだ。

その一方で、トランプ大統領をはじめとして地球温暖化を信じない人たちも確実に存在する。

今年8月、そうした懐疑的な世論を作り出すことを仕事にしているプロたちを描いたドキュメンタリーが放送された。

BS世界のドキュメンタリー「地球温暖化はウソ?世論動かす“プロ”の暗躍」という去年デンマークで制作された番組である。

NHKのサイトにはこんな風に紹介されている。

世界的な潮流に反してアメリカの保守派に支持される「地球温暖化懐疑論」。論客を雇って裏付けに乏しい説を一般に浸透させた複数の利益団体と、その手法を告発する調査報道 。

引用:NHK

アメリカ政治ではロビイストの存在は欠かせないが、地球温暖化対策を阻止したい大企業たちはプロたちに大金を払って世論を自分たちに有利な方へ誘導する工作を行なってきたというのである。

80年代アメリカではNASAの科学者が温暖化ガスの深刻な影響を訴え、ブッシュ大統領はCO2削減を掲げた。しかし、温暖化に懐疑的な論客が次々とメディアに登場し、批判を繰り広げる。その裏には、CO2削減政策によって損失を被る石油業界によるキャンペーンがあった。懐疑派の立役者たちの生々しい証言でその実態を暴く。

引用:NHK

日本とはかなり違う世論形成の過程。

大変興味深いこの番組から、いくつかのポイントを書き残しておきたい。

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1988年、NASAゴダード研究所のジェームズ・ハンセン氏がアメリカ議会の公聴会で地球温暖化に警鐘を鳴らした。

真鍋さんの研究もきっかけとなり、この頃までに世界は地球温暖化問題の深刻さを理解し始めていた。

この年、IPCCも設立され、アメリカのブッシュ大統領もイギリスのサッチャー首相も温暖化との戦いを宣言していたのだ。

しかし、実際には温暖化対策は進まなかった。

この頃から、地球温暖化に懐疑的な“専門家”たちがメディアで活動を活発化させる。

たとえば、ジェリー・テイラー。

ケイトー研究所の天然資源部門の責任者として雇われた彼は、テレビに出演してこんな話をしていた。

「温室効果ガスが増えると経済に好影響もある。耕作できる期間が延びる」

「異常気象が起きるとしてもその確率は不明です。NASAのハンセン氏によれば確率は7〜20%だが、0.3%と言う科学者もいます」

そのテーラーが、ドキュメンタリー番組のインタビューで次のように語った。

私は口が達者で、頭の回転が早く、テレビ映りが良くて、準備も欠かしません。ケイトーが私を雇ったのは、温暖化に対する世論を変えるためでした。温暖化論に根拠を与える科学に疑いを持たせること、これが全てでした。科学的根拠を崩せるかどうかで、勝負は決まるんです。人は合理的な理由に基づいて自分の意見を決めるわけではありません。まずは感情やイデオロギーによって、どの立場を取りたいかが決まります。そしてそれを裏付けてくれる理由を探して自分を正当化するんです。地球温暖化についての判断を迷っている人たちにこう吹き込むんです。

「大騒ぎする必要はありません。環境保護派のいつもの脅しです。彼らは以前、人口爆発で人類が滅びると言ったがそんなことは起きなかった。資源が枯渇し食糧が尽きて全人類が飢餓に陥ると言ったが、それも起きなかった。温暖化も同じことです。彼らお得意の資本主義を規制しなければ人類が滅びるという脅しなんです」ってね。

シンクタンクは思想の武器倉庫のようなものです。特定の思想を知識で武装して政策にまとめ、議会やメディアに展開していくんです。ケイトー研究所は中道右派のシンクタンクとしてはアメリカ最大規模で絶大な影響力があります。

まず電話に答えることです。ジャーナリストからの問い合わせもね。彼らは専門外の問題について記事を書くとき、専門家に頼ろうとします。気候変動の問題の場合、その専門家は私。私が伝えた見解が様々な右派の著名人、いわゆる有識者やジャーナリスト、政治家などを介して広がっていきます。自分がうまくやれているかどうかは、その手応えでわかります。

右派にとって、温暖化を認めることは自由市場を基礎とする資本主義の否定、つまり左派の完全勝利を意味するんです。

引用:「地球温暖化はウソ?世論動かす“プロ”の暗躍」より

もう一人取材に答えた人物が、マーク・モラノ。

気候変動は大した問題ではないと訴える「CFACT(建設的な明日のための委員会)」という団体で広報部長を務める人物で、テレビに出演してはこんな話をしていた。

「衛星のデータによれば、1998年以降、温暖化傾向は見られずむしろ寒冷化しています」

「温暖化で天候が悪化? 悪天候なんて常に存在していた。アメリカは過去最長期間、大型ハリケーンの直撃を免れている。1900年以降ずっとです。科学雑誌「ネイチャー」の最新論文によれば・・・」

「CO2レベル上昇の説明など時間のムダだ!」

番組は、このモラノにも直接インタビューを行なっている。

私の仕事は、温暖化をめぐる動きを把握し、最新の情報を伝えることです。昔は訪問販売をしていたんです。おかげで話術を鍛えられました。15秒や20秒でお客さんの心を動かすには、短くて効果的なフレーズと話しの組み立てが重要です。その経験が今の仕事に生きています。テレビでは相手の発言がバカげていて、防戦一方に見えるように追い込みます。次にファクトを連射します。こうやって、相手を叩き潰すんです。

温暖化なんて言っている連中は、実は統制経済国家を作ろうとしているんです。そのために環境問題で恐怖を煽るんです。これがいわゆる気候変動問題の裏にある真実です。実は、科学も北極グマも気温もどうだっていいんです。こいつはチャンスだ。大衆の不安を煽って俺たちの政策を実現しよう、というわけです。本当です。証拠だってある。

引用:「地球温暖化はウソ?世論動かす“プロ”の暗躍」より

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さらにもう一人、マイロン・エベル。

「CEI(企業競争研究所)」という保守系シンクタンクで、エネルギー・気候部門の責任者を務め、トランプ政権に助言したこともある人物だ。

彼らはこんな内容のコマーシャルを流している。

『目には見えないけれど、生物に不可欠なもの、私たちが吐き出し、植物が吸収する。二酸化炭素です。一部の政治家はこれを汚染物質と見なそうとしています。”汚染”ではない。“命”なのです』

エベルは番組のインタビューにこのように答えた。

温暖化問題を初めて政策に取り入れたのはスウェーデンで1980年代はじめのことです。政府にとっては税収を増やす口実でした。北欧の福祉国家では支出が膨らむ一方で、財源の確保が急務でしたから。

トランプ氏が大統領に当選したとき、環境保護局の再編を担当しました。私がリーダーでした。

引用:「地球温暖化はウソ?世論動かす“プロ”の暗躍」より

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こうした懐疑論を広める宣伝のプロたちの背後には、それを支える科学者たちのネットワークが存在する。

ケイトー研究所のテイラーが主張の根拠としていたのが、同研究所の気候科学者パトリック・マイケルズの研究だった。

懐疑論を支える科学者のグループの代表格フレッド・シンガーは、約100人の科学者が地球温暖化に疑念を表明したとされる「ライプチヒ宣言」を取りまとめた。

「地球温暖化は不確かな問題で、性急に対応すべきではない」

しかし、シンガーがまとめた「ライプチヒ宣言」については多くの疑惑が浮上している。

宣言書に記載された人物の多くが署名の事実を否定し、署名した欧州の科学者15人は気候科学者ではないという。

こうした問題を追及しているハーバード大学のナオミ・オレスケスが番組の取材に対しこう解説する。

温暖化が科学的論争の的になっているとの記事を見ました。でも私が知る範囲で、温暖化に否定的な科学者は一人もいません。不思議に思って調べることにしたんです。すでにIPCCが温暖化の主原因は温室効果ガスだという見解を出していたので、こんな問いを設定しました。この見解に同意しない査読付きの論文はいくつあるのか? その結果はゼロ。査読付きの論文の中には、人間活動が原因の気候変動に疑問を呈するものはなかったのです。2004年に、調査結果をもとに論文を発表しました。この論文の人生が変わりました。発表直後から嫌がらせメールに脅迫電話、大学にも苦情が寄せられて共産主義者、スターリン主義者と罵られました。

ドイツで会議に出席したオレスケスが脅迫の話を打ち明けると、かつてオゾンホールを発表したノーベル賞学者も同じ人間から攻撃されていたことを教えられる。

そこで彼女は調査を始めると、全ての糸が石油業界につながっていることがわかってきた。

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1998年春、アメリカの石油業界団体「アメリカ石油協会」がある会合を開いた。

「我々にとっての勝利とは、気候科学が不確実なものだという認識が一般市民に深く浸透することである」というのが会合の目的で、そこに「CEI」のマイロン・エベルも出席していた。

我々には石油業界にはないノウハウがありますからね。それを生かして業界の取り組みをサポートしました。私はエネルギー問題の専門家でも、気候問題の専門家でもありません。でも、政策を実現させることに関しては一定の実績がありますから、そこを見込まれたのでしょう。

この会合の内容は外部に漏れたが、大きな柱はメディア戦略だった。

影響力を増すために科学者を雇って、専門家として訓練することなどが書かれていた。

ジャーナリストへのアプローチも計画され、リバリタリアンテレビでパーソナリティを務めるジョン・ストッセルが名指しで候補とされた。

教育機関への働きかけも強調されている。

「気候変動についての研究は不確かだと教師や学生に吹き込めば、京都議定書のような措置を阻止できる」

ハーバード大学など多くの大学は民間企業から資金を集めているが、化石燃料の重要性を訴える映画の上映会が大学で開かれたりしているという。

映画のスポンサーはロイヤル・ダッチ・シェルの子会社で、大学にはシェル側から30万ドルが支払われていた。

ハーバード大学もスタンフォード大学も大手石油会社から資金を得ていて、学内で研究資金を分配する運営委員会にも各スポンサー企業から代表が送り込まれていることがわかった。

発言力を持つ最大のスポンサーはエクソン・モービルだった。

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科学に懐疑論をぶつける戦略には前例があった。

タバコの有害性が問題になったケースだ。

かつては、タバコ業界も同じように大学へ多額の寄付を行なっていたが、明らかな「利益相反」があるとして2001年ハーバードなど31の大学が医学研究では寄付を受け付けないことを決めた。

しかし、エネルギー分野ではまだ規制はされていないのだ。

エクソン・モービルは少なくとも8年間で1200万ドルを地球温暖化に否定的な組織やシンクタンクに寄付されていることがわかっている。

マーク・モラノの「CFACT」やマイロン・エベルの「CEI」にも流れていた。

他の石油会社や保守派の富裕層からも数十億ドルの資金が懐疑派の団体に寄付されているという。

さらに驚くべきは、タバコ規制に対する懐疑論を展開した専門家が、地球温暖化問題でも登場していることだ。

早くから温暖化に異論を唱えていた物理学者のフレデリック・サイツはタバコ業界側で研究プロジェクトを率いていた人物である。

「ライプチヒ宣言」のフレッド・シンガーも、受動喫煙の危険性を軽視する報告書を書き、「CEI」のマイロン・エベルもタバコ業界のために活動していた。

そしてケイトー研究所のジェリー・テイラーも。

『私は受動喫煙の被害への懐疑論を展開していました。根拠となる疫学的エビデンスが説得力に欠けているとね。実はこれは、どんなテーマにも使い回せる定石パターンなのです。タバコ規制をめぐる議論を振り返ってみれば、気候変動に関する懐疑論と非常に似ていることがわかります』

気候変動問題でも懐疑論をメディアで展開していたテーラーは、2000年代に入り主張を大きく変える。

ある対談番組で討論相手からハンセンの論文を全部読むように指摘され、初めて自らの主張の誤りに気づいたという。

『石油業界が科学者たちに資金提供をしていたおかげで、私たちも議論に必要なもっともらしい科学的論拠が得られたんです。1988年にNASAのハンセンが温暖化に警告を発した時、もし石油業界が異論はない、彼は正しいと言っていたら懐疑論は封じ込められたはずです。当事者のエクソンが認めるなら、誰も懐疑論なんか聞かないでしょう。懐疑論者たちの活動によって、もっと早く実現するはずだった気候変動対策が数十年遅れることになりました』

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石油業界は1970年代から温暖化の及ぼす影響を知っていた。

真鍋さんの研究がまだ世間から注目される以前の段階で、独自に調査を行なっていたのだ。

1979年エクソンの船がテキサス州の沖で調査を行なった時の責任者エド・ガーヴィーが取材に応じた。

『二酸化炭素の増加が地球に及ぼす影響について調べ、経営陣に報告することになっていました。温暖化の研究に寄与する大事な調査でした。エクソンが調査を始めたのは、科学を重視していたからです。気候変動の問題も認識していました。数学や物理学の専門家たちが二酸化炭素の影響をモデル化する研究を進めていました。CO2の増加が気候に影響していると理解していました。』

しかし一方で、エクソンモービルは、「未解決の科学」と題して気候変動に懐疑的な広告を出したという。

『研究部門の人であの広告を支持する人はいなかったでしょう。私たちの調査で判明した事実とは違いました。誤解を招く文章、人々をミスリードしようとする広告でした。』

この時期、石油企業の研究者たちは経営陣に警鐘を鳴らしていた証拠となる文書も見つかっている。

こうして巨大企業の思惑によって地球温暖化対策を意図的に遅らされ、40年経った今、大きな危機となって人類の前に姿を表したのだ。

真鍋さんのノーベル賞は、気象分野での研究成果としては初めての受賞となるという。

それ自体が、地球温暖化問題が長年放置されてきた証のようにも思える。

<吉祥寺残日録>シニアのテレビ📺 NHK高校講座「地学基礎〜太陽系の広がりと地球」 #210622

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