<吉祥寺残日録>民間初の月面着陸ならず!それでもベンチャー企業「ispace」の挑戦は日本企業の鏡 #230426

今日の東京は朝から雨。

こうした日にはどうしても気分が落ち込んでしまうものだ。

そんな中で、残念な知らせが届いた。

日本のスタートアップ企業「ispace」が目指した世界初の民間による月面着陸に失敗したというニュースである。

着陸予定時刻は今日午前1時40分ごろと想定されていた。

昨年12月に打ち上げられた月面着陸船は月の軌道を周回した後、午前0時40分ごろ、月面から高度100キロメートルの地点から着陸態勢に入った。

この時点では地球との通信も問題なく、着陸船が逆噴射を行なって減速し機体を月面と垂直にすることには成功したという。

ただ着陸直前で通信が途切れ、午前8時になっても通信を確立することができなかったため、届いたデータの分析から着陸船は着陸直前に燃料切れとなり月面に強く衝突したものと結論づけた。

「ispace」のホームページには、着陸失敗の経緯が以下のように分析されていた。

株式会社ispace(東京都中央区、代表取締役:袴田武史、以下ispace)は、民間月面探査プログラム「HAKUTO-R」ミッション1のランダー(月着陸船)による、民間企業として世界初の月面着陸を本日予定しておりましたが、4月26日8時時点において、ランダーとの通信の回復が見込まれず、月面着陸を確認するSuccess9の完了が困難と判断いたしましたことをお知らせいたします。

現時点で得られているデータに基づくと、東京日本橋のミッションコントロールセンター(地上管制室)にて、着陸シーケンスの終盤、ランダーの姿勢が月面に対して垂直状態になったことを確認しておりますが、着陸予定時刻を過ぎても着陸を示すデータの確認にはいたりませんでした。その後ランダーの推進燃料の推定残量が無くなったこと、及び、急速な降下速度の上昇がデータ上確認されており、最終的にテレメトリの取得ができない状態となりました。これらの状況から、当社のランダーは最終的に月面へハードランディングした可能性が高いと考えております。なお、これらの状況が発生した要因については、現時点ではこれまでに取得されたテレメトリの詳細な解析を実施している状況であり、解析が完了次第ご報告いたします。

今回のミッション1において、月面着陸及び通信の確立というSuccess9については達成することができないと判断いたしました。一方で、設定した10段階のマイルストーンのうち、Success 8までのマイルストーンで成功を収めることができ、Success9中においても、着陸シーケンス中のデータも含め月面着陸ミッションを実現するうえでの貴重なデータやノウハウなどを獲得することができました。これらは、今後の月面探査を進める上で大きな飛躍であり、日本のみならず、世界の民間企業による宇宙開発を進展させる布石になると強く信じております。

当社は、今回の結果を受けてもなお、不確定なリスクを恐れず、挑戦の歩みを決して止めることは致しません。2024年のミッション2、2025年のミッション3の技術成熟度を飛躍的に高めることを目指し、今回のサクセス8までの運用と着陸シーケンス中に取得されたとデータとノウハウを最大限活用していきます。

引用:ispace

ミッションは成功まであと一歩だった。

月面と垂直になる着陸の態勢になりながら、高度の計測に誤差があり速度を制御する逆噴射の燃料を途中で使い果たしてしまったことが失敗の原因だったようだ。

月面着陸に関しては、これまでに成功したのは旧ソ連、アメリカ、中国の3カ国だけで、2019年にトライしたイスラエルとインドも相次いで失敗している。

それだけ難しいミッションなのだが、1960年代にできたことが60年経っても依然難しいというのはどうも理解しにくいところだ。

結局は経験の差。

1960年代の米ソの科学者たちも多くの失敗を重ねて技術を磨いていった。

このところ日本の宇宙開発は失敗続きで、中国に完全に逆転され差が開くばかりが、投入されている予算が日中では桁違いに違っており現場を責めるのは酷というものだろう。

日本のものづくりが後退した原因は日本社会全体の衰え、経費削減ばかりが優先され夢のあるプロジェクトが生まれにくいこの環境にあるのだ。

その意味で、「ispace」の挑戦には大きな価値があると私は思う。

今回の失敗で得た知見を活かして、「ispace」では来年、再来年とあと2回のチャレンジを計画している。

今日の結果は残念だったが、彼らの視線はずっと未来の宇宙資源の活用へと向いたままだ。

彼らのサイトに次のような言葉を見つけた。

『今まで宇宙開発は国家事業でした。失敗が許容されにくく、それゆえ開発スピードが大きく減速する要因になっていると強く感じています。一方、私たちのようなスタートアップ企業は、より大胆にリスクを取り、よりスピード感を持って果敢なチャレンジを遂行できます。』

失うもののないスタートアップ企業にとって、失敗は財産である。

問題は社会が彼らの失敗を許容し支援し続けることができるかにかかっている。

その点から言えば、今日の株式市場で「ispace」の株価がストップ安で売買が成立しなかったというニュースは気になるところだ。

世界一の少子高齢化が進んだ日本に必要なのはチャレンジ精神、夢を描き追い求める力だ。

目先の利益ばかりを気にかける投資家がこの20年ほどの間に日本企業からものづくりの土壌を奪い去った。

「ispace」の描く未来。

月面で暮らすという彼らの未来図が動画になってアップされていた。

それが人類にとっていいことなのか、不幸をもたらすものなのかはわからないが技術的に可能になった以上は避けられない未来であろう。

若者たちはそうした人類未踏の世界に夢とロマンを感じ、老人は危惧を抱くものだ。

日本は老人中心の国家となり、こうした未来に挑戦しようとするものの邪魔をする。

でもその動画に描かれているSFのような未来は若者たちのものだ。

老人がそれを押しとどめることで、社会から活力が失われていく。

もしも「ispace」が世界初の民間月面着陸に成功していたら、日本にもスタートアップブームが起きたかもしれないと思うと、今日の失敗は残念で仕方ない。

私は「ispace」の若者たちを尊敬し、彼らの希望を見る。

時代の最先端のところで各国がしのぎを削る分野に挑戦し、そこで世界初を目指すことの大切さ。

老いてしまった日本企業がその精神を見習い、少しでも新しいことにチャレンジする人が増えればと期待してやまない。

宇宙ベンチャー「ispace」の挑戦こそまさに“日本企業の鏡”だと私は思っているのである。

月の裏側

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