<吉祥寺残日録>大阪雑居ビル火災に感じるやり場のない「絶望感」 #211219

岡山に帰省すると、やることがいろいろあるので落ち着いてテレビを見る時間は確実に減る。

そんな中で、このクール一番のお気に入りドラマ「最愛」の最終回を見た。

奥寺佐渡子によるオリジナル脚本は最後まで目が離せず、サスペンスはあまり見ない私でもついつい引き込まれてしまった。

登場人物全員が秘密を抱えていて、どこか物悲しい。

誰かすごい悪人がいるわけではないのだけれど、一人一人の中に、事件を引き起こしたり巻き込まれたりする危うさがある。

実際、私たちが生きている世界というのも、思いがけない形で悲劇に変わってしまう危うさを常に秘めているのかもしれない。

まさにそんな日常の中に潜む危うさをまざまざと見せつけられる事件が起きた。

大阪市北区の繁華街・北新地にある雑居ビルの4階、ここで営業していた人気の心療内科クリニックが事件の舞台となった。

このクリニックに通院していた谷本盛雄容疑者(61)がエレベーターを降りたところで液体のようなものを撒きそれにライターで火をつけたと見られている。

この火災によって、事件当時クリニックにいた24人が犠牲となった。

犯人の男も重篤な状況で動機などは一切明らかになっていないものの、院長の父親はトラブルがあったことを匂わせている。

男は少し前に引っ越してきたばかりで近所の人たちとはほとんど接触はなかった。

事件を起こす直前、男は自宅にも放火していた。

容疑者の兄は取材に対して「弟は性格はおとなしく、仕事を転々としていた」と話している。

男の人生はおそらく、同情すべき要素のある悲しいものだったのだろう。

しかし、どうして多くの人を犠牲にするこのような行為に走ったのか?

事件が起きたのは日本中どこにでもあるような6階建ての雑居ビル。

エレベーター1基と非常階段があったが、いずれも同じ側で、犯人が出入口付近で火をつけたため、中にいる人たちは逃げ場を失った。

吉祥寺にも雑居ビルの上階に入居する医療機関はたくさんある。

受診を待つ間、もし誰かがここに放火したらどうやって逃げるのか、そんなことを考えることはまずない。

そんなことを考えていたら、とても雑居ビルのクリニックなど行けるものではないのだ。

私たちの社会は、暗黙の了解で成り立っている。

すべての住民はルールを守って生活してくれるはずだ。

電車の中で刃物を振り回したり火をつけたりする人はいない前提で社会の仕組みができているのである。

狭い敷地に無理やり建てられた雑居ビルに2方向の非常口を作ることなど所詮無理な話。

しかし私有財産の権利が公共の利益よりも優先する日本では、狭い敷地であってもビルを建てることができる。

もし1フロア2箇所以上の非常口が用意できないビルは建設許可が得られないように法改正しようとすれば、日本中にいるビルオーナーたちから強い反発が出るのは間違いない。

しかし、全国でこのような危険な雑居ビルが3万棟以上もあるのだ。

残念ながら、ルールを逸脱した犯罪者は必ず現れる。

やはり、2箇所の非常口が作れないような小さな雑居ビルは無くしていく方向でルール作りをするほかはない。

もしくは、「このビルには非常口は1箇所しかありません」と入り口に明示させ、利用者に告知することを義務付けるべきである。

しかしそれは簡単なことではないと思われるので、私たち利用者が雑居ビルの危険性を認識し、危ないところは利用しないように徹底すれば、雑居ビルに入居するテナントがなくなり、徐々に危険なビルは減っていくのではないか。

今回の事件の被害者たちは、一体誰に怒りをぶつければいいのだろう?

私たちの社会は、やり場のない「絶望感」であふれている。

運が悪かったでは済まされない悲しすぎる悲劇。

何気ない日常に潜む危険を、私たち一人一人が理解する、まずはそこから始めて最終的には自分の命は自分で守るしか方法はないということだろう。

2019年の梅雨

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