私が友人たちと旅行を楽しんでいる間、大きなニュースがいつくかあった。

まずはエンゼルスの大谷翔平。
肘の手術のためシーズン途中で戦列を離れたものの、メジャーのレギュラーシーズンが終了し、大谷の日本人初となるホームラン王が確定した。
今シーズンの本塁打はアメリカンリーグトップとなる44本、2位に5打差をつけて逃げ切った。
むしろ注目すべきは打率、メジャーに挑戦して6年目にして初めて3割を超えた。
ピッチャーとしては10勝5敗で防御率は3.14、今年も二刀流として堂々たる成績を残した。
来年は打者に専念してマウンドに復帰するのは再来年からになりそうだが、来シーズンどのチームのユニフォームを着てプレイするか、日本だけでなく全米が移籍の行方を注目している。
今や押しも押されぬメジャーのトッププレイヤーとなった大谷翔平を祝福し、完全復活を期待しながら待ちたいと思う。

ただ、大谷の偉業達成もこのニュースにかき消されてしまった印象だ。
創業者であるジャニー喜多川氏による性加害問題に揺れるジャニーズ事務所は2日記者会見を開き、社名の変更や新会社設立を発表した。
注目の会見には東山新社長と井ノ原副社長のほか弁護士が出席、1回目の会見に出席した藤島ジュリー前社長の姿はなかったが代わりに手紙が代読され、母親であるメリー氏との特殊な関係を明らかにした。
この日の会見で示された主な改革案は、以下の通り。
- ジャニーズ事務所は17日付で社名を「SMILE-UP」に変更し、被害者への補償が全て終わった段階で廃業する
- 所属タレントのマネジメントを担当する新会社を1ヶ月以内に設立する
- 新会社はタレント業務に必要な知的財産を引き継ぎ、創業家一族は経営に関与しない
- 新会社は所属する個人のタレントやグループが会社と個別に契約を結ぶ「エージェント会社」とする
- 新会社の名称はファンクラブを通じて公募する
- 「ジャニーズ」を冠するグループ名などは全て変更する
ジュリー氏が代表取締役として残り、社名も変更しないとした1回目の記者会見からわずか1ヶ月で大きな方針変更に追い込まれた形だ。
背景には、ジャニーズのタレントを起用していたスポンサー企業からの厳しい反応があった。
世論の逆風も収まるどころかますます風当たりは強くなり、テレビ局も相次いで事務所に対してさらなる対応を求めていた。
この日の会見を受けて、P&Gが早速ジャニーズとの契約を終了しタレントと直接契約するなど企業側でも対応に追われた。

ジャニーズ側も、被害者の補償に向けて具体的な行動に移る。
会見の翌日には、東山社長とジュリー前社長らが「ジャニーズ性加害問題当事者の会」のメンバーと直接面会し謝罪した。
ジャニー喜多川氏による被害者は500人とも1000人とも言われる空前の数になりそうだが、裁判官出身の弁護士3名による「被害者救済委員会」が聞き取りなどを行って補償額を判断するという。
果たして、全員に補償するだけの十分な原資があるのかどうかも気になるところであるが、悪い時には悪いことが重なるもので、こうして曲がりなりにも再出発しようとした矢先、またしてもとんでもない失態が明るみに出たのだ。

2日の記者会見の運営にあたっていたスタッフが持っていた資料に6人の顔写真と共に「氏名NG記者」と書かれているのをNHKのカメラが捉え独自ニュースとして大々的に報道したのだ。
6人の中には、菅官房長官との厳しい質問を浴びせ名を馳せた東京新聞の望月衣塑子記者や統一教会報道で一躍有名になった鈴木エイト記者も含まれていた。
記者会見で厳しい質問をしそうな記者をあらかじめリストアップし彼らに質問させないように裏工作したと一斉に批判の声が広がった。
ジャニーズ事務所は直ちに、自分たちから指示したことではなく委託したPR会社が用意したものだと弁明、当のPR会社「FTIコンサルティング」も「弊社が作成し、運営スタッフ間で共有した」とその事実を認めた。
会見場の使用時間が限られるなかで円滑な運営準備のためだったと釈明したが、これは再起を図ろうとするジャニーズにとっては致命傷とも言える打撃となった。
私は旅行中で見ることはできなかったが、2日の会見は手を挙げても一向に指名されない記者が「茶番だ」などと激しく抗議するなど紛糾したものだったらしい。
それだけに、「NGリスト」の存在が明らかになったことはジャニーズ事務所の体質の現れとして、痛くもない腹を探られる事態となってしまった。

こうしたドタバタが連日ネットやメディアを賑わす中で、6日未明、東京赤坂にある本社ビルから「Johnny&Associates」と書かれた看板が撤去された。
ジュリー前社長は2日の手紙の中で、「ジャニー喜多川の痕跡を、この世から一切、無くしたいと思います」と綴った。
同じ手紙の中で、母であるジャニーズ事務所の最高実力者メリー喜多川氏との知られざる関係について赤裸々に語っている。
私は4年前に母親であるメリーからジャニーズ事務所を相続いたしました。 ジャニーズ事務所は、ジャニーだけではなく、私の母であるメリーも権力を握っていたと思います。ジャニーはメリーからお小遣いをもらうという形でしたので、経営的なことは全てメリーが決めていたと思います。 ジャニーと私は生まれてから一度も二人だけで食事をしたことがありません。会えば、普通に話をしていましたが、深い話をする関係ではありませんでした。 ジャニーが裁判で負けた時も、メリーから「ジャニーは無実だからこちらから裁判を起こした。もしも有罪なら私たちから騒ぎ立てるはずがない。本人も最後まで無実だと言い切っている。負けてしまったのは弁護士のせい」と聞かされておりました。当時メリーの下で働いていた人達も同じような内容を聞かされてそれを信じていたと思います。 そんなはずはないだろうと思われるかもしれないですが、ジャニーがある種、天才的に魅力的であり、皆が洗脳されていたのかもしれません。私も含め良い面を信じたかったのだと思います。 そして母メリーは、私が従順な時はとても優しいのですが、私が少しでも彼女と違う意見を言うと気が狂ったように怒り、叩き潰すようなことを平気でする人でした。 20代の時から、私は時々過呼吸になり倒れてしまうようになりました。当時病名はなかったのですが、今ではパニック障害と診断されています。 私は、そんなメリーからの命令でジャニーズ事務所の取締役にされておりましたが、事実上、私には、経営に関する権限はありませんでした。そして、2008年春から新社屋が完成した2018年まで、一度もジャニーズ事務所のオフィスには足を踏み入れておりません。 これは、性加害とは全く違う話で、私が事務所の改革をしようとしたり、タレントや社員の環境を整えようとしたこと等で、二人を怒らせてしまったことが発端です。 ジャニーとも、2008年頃から2016年頃までライブ会場ですれ違うことがあっても会話はしておりませんでした。その後、ジャニーの稽古場に呼び出されて久しぶりに話しましたが、それ以降もジャニー本人に会ったのは数回です。その期間のJr.からのデビューや管轄外のグループの解散のプロセスにも関わっておりません。 メリーからは私の娘である孫に会いたいと切望され、1年に数回、一緒に食事をすることや、お正月には孫と旅行することを決められておりましたが、私自身はメリーと話をすることを極力避けて生きてきた人生でした。 このような説明をすると、嘘だとか、親子で仲が良かったのを見たことある等、またバッシングされる記事が大量に流れるのだと思いますが、近い関係者の皆様、タレントの方々、社員等であれば、こうした事情を知っていると思います。 心療内科の先生に「メリーさんはライオンであなたは縞馬だから、パニック障害を起こさないようにするには、この状態から、逃げるしかない」と言われ、自分で小さな会社を立ち上げ、そこに慕ってくれるグループが何組か集まり、メリー、ジャニーとは全く関わることなく、長年仕事をしておりました。 このような理由で、ジャニーがいる稽古場とは全く違う場所で働いており、Jr.の皆さんとの接点もなかったので、今回申し出てくださった中で、私がお会いしたことがあるのは9人です。それ以外の多くの方々とはお会いしたことがないのです。
私は、ジャニー氏やメリー氏と直接会ったことはないが、ジュリー氏とは何度も仕事場でお会いした。
その限られた印象で言えば、おそらくこの話は嘘ではないと思う。
もちろん加害者であるジャニー氏もそれを隠した最高権力者メリー氏もこの世を去った今、創業家の代表としてジュリー氏が矢面に立つのは致し方ないだろうが、近頃のジャニーズバッシングにはいささか違和感も感じる。
なぜジャニー氏やメリー氏が存命のうちに刑事告訴などができなかったのか。
数百人規模の被害者のいる性犯罪である。
もしも警察が動いていれば、テレビ局といえども無視することはできなかったはずだ。
長年ニュースに携わってきた人間から言わせてもらえば、ジャニー氏の性加害はいまだに刑事事件になっておらず、「芸能スキャンダル」の曖昧さを引きずったまま世間の興味の対象となっているように感じる。
これは一義的にジャニー喜多川氏個人が犯した犯罪であるという点はしっかりと押さえておきたい。
イギリスの人気司会者が500人以上の未成年者に性加害を行っていた「ジミー・サヴィル事件」は、被疑者の死後、警察が捜査を行い214件の犯行を立証したという。
日本でも被疑者死亡の事件であっても、重大事件の場合には捜査機関が調べてしっかりと犯罪を立証するシステムを導入すべきだと思う。
そのうえで、その犯罪を隠蔽した企業の責任は別途問われるべきなのだ。
当事者たちが死んだ後で、残された人たちを寄ってたかって袋叩きにするという行動は見ていて気持ちのいいものではない。
ジャニーズ事務所は廃業し、被害者の補償は一歩一歩前に進みつつあるのだ。
この事件を機にブラックな芸能界が少し健全になることを願って、外野は静かに見守るべきだと私は考えるのだが、世間はまだまだそういう空気ではなさそうである。