<吉祥寺残日録>ウクライナ危機🇺🇦 侵攻1年の日に示されたウクライナの意志と中国の仲裁案、そして西側の軍事支援 #230225

ロシアによるウクライナ侵攻から1年の節目となる24日。

ゼレンスキー大統領は朝から関連行事に追われた。

その様子を細かく伝える記事は見つけられなかったので、ゲッティ・イメージズが配信している写真をいくつかピックアップしてみた。

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こちらは、この1年の戦闘で亡くなったり負傷した人を追悼するセレモニーに出席したゼレンスキー大統領。

式典は、キーウの広場と教会で行われた。

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大統領は直接、兵士たち一人一人に言葉をかける。

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大統領は病院も訪れた。

負傷した兵士や市民の治療にあたってきた医師や看護師に直接メダルを贈り、入院中の兵士を見舞った。

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キーウを訪問したポーランドのボラヴィエツキ首相とも会談した。

バイデン大統領のキーウ訪問は日本でも大きく伝えられたが、その後もスペインやイタリアのリーダーたちが相次いでウクライナを訪れゼレンスキー大統領と会談したことも写真からわかる。

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そしてゼレンスキー大統領は、侵攻1年での記者会見に臨んだ。

この会見の中で大統領は、ちょうど1年前の朝に急きょロシアの総攻撃が始まったと国民に告げたことを振り返りながら、3日しか持たないと予測されていたものの1年後の今もウクライナは敗北せずに「こうして立っている」と強調したという。

そのうえで、ウクライナを守るすべての人に感謝し、国民の苦しみに共感し、占領下にある領土と国民すべてが解放され、国外にいる全員が帰国できるようにすると約束。

「今年は勝つために全力を尽くす」と表明した。

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この記者会見で注目されたのは、中国がこの日示した仲裁案について一定の評価をする発言だった。

「国際法の尊重や領土保全(の原則)と合う考えがある。この点で中国と協力しよう」

そのうえで、習近平国家主席との会談について意欲を示した。

「私は習氏と会うつもりだ。両国に有益で世界の安全保障に寄与する」

ゼレンスキー氏が言及した中国の仲裁案というのがこれだ。

あくまで中国の原則的な立場をまとめたもので、具体案ではないが、人民網日本語版によれば主に次のような内容になっている。

(1)各国の主権の尊重。国連憲章の趣旨と原則を含む、広く認められた国際法は厳格に遵守されるべきであり、各国の主権、独立、及び領土的一体性はいずれも適切に保障されるべきだ。

(2)冷戦思考の放棄。一国の安全が他国の安全を損なうことを代償とすることがあってはならず、地域の安全が軍事ブロックの強化、さらには拡張によって保障されることはない。各国の安全保障上の理にかなった利益と懸念は、いずれも重視され、適切に解決されるべきだ。

(3)停戦。各国は理性と自制を保ち、火に油を注がず、対立を激化させず、ウクライナ危機の一層の悪化、さらには制御不能化を回避し、ロシアとウクライナが向き合って進み、早急に直接対話を再開し、情勢の緩和を一歩一歩推し進め、最終的に全面的な停戦を達成することを支持するべきだ。

(4)和平交渉の開始。対話と交渉はウクライナ危機を解決する唯一の実行可能な道だ。

(5)人道的危機の解消。人道的危機の緩和に資する全ての措置は、いずれも奨励され、支持されるべきだ。

(6)民間人や捕虜の保護。紛争当事国は国際人道法を厳格に遵守し、民間人及び民生用施設への攻撃を避け、女性や子どもなど紛争の被害者を保護し、捕虜の基本的権利を尊重するべきだ。

(7)原子力発電所の安全確保。原子力発電所など平和的原子力施設への武力攻撃に反対する。

(8)戦略的リスクの低減。核兵器の使用及び使用の威嚇に反対するべきだ。

(9)食糧の外国への輸送の保障。各国はロシア、トルコ、ウクライナ、国連の署名した、黒海を通じた穀物輸出に関する合意を均衡ある、全面的かつ有効な形で履行し、国連がこのために重要な役割を果たすことを支持するべきだ。

(10)一方的制裁の停止。国連安保理の承認を経ていないいかなる一方的制裁にも反対する。

(11)産業チェーンとサプライチェーンの安定確保。各国は既存の世界経済体制をしっかりと維持し、世界経済の政治化、道具化、武器化に反対するべきだ。

(12)戦後復興の推進。国際社会は紛争地域の戦後復興への支援措置を講じるべきだ。中国はこれに助力し、建設的役割を果たすことを望んでいる。

引用:人民網日本語版

昨日、このブログでも書いたが、今後どこかのタイミングで仲介者としての中国の存在がクローズアップされる日が来るかもしれない。

ポイントとなるのは、ロシア軍の撤退に言及していない点だ。

とりあえず停戦を実現させ、両者が直接話し合うこと、国連が調停者としての役割を果たすことなど、ロシア側が受け入れやすい内容となっている点である。

私のパソコンの壁紙は、侵攻直後に行われた停戦交渉の写真がこの1年ずっと貼られたままだ。

ロシア軍が圧倒的に有利だと見られていた時期に開かれたこの直接交渉は、ロシア側の要求をウクライナが飲むかどうかという一方的なもので、結局は合意に至らぬまま雲散霧消してしまった。

あの時、ロシア側がもう少し現実的な要求にとどめていれば、このまで戦争は長引かなかったかもしれない。

しかし西側の支援を受けてウクライナが反撃するようになった今となっては、双方の妥協点を見出すのは一層難しくなってしまった。

それでももし、中国の仲介工作が成功すれば、ウクライナに軍事支援を続けたG7の国際社会における地位は弱まり、中国の影響力がますます強まることになるだろう。

それがわかっているので、早速アメリカのブリンケン国務長官は中国案に警戒感を露わにした。

「いかなる理事国もロシアを支援しながら、平和を呼びかけるべきでない」

「一時的または無条件の停戦の呼びかけにだまされるべきでない。ロシアは戦闘を一時停止し、さらなる攻撃のために兵力を補うだろう」

またNATOのストルテンベルグ事務総長も次のように述べた。

「中国は違法なウクライナ侵攻を非難できないのであまり信用されていない」

「中国がロシアに軍事支援を供与しようとしている兆候が見られるが、すべきではない」

西側のリーダーたちの気持ちはわかるが、中国の方がうまい立ち位置を取ったともいえ、今後「グローバルサウス」と呼ばれる途上国グループをまとめ、国際世論が停戦を求める方向へ大きく変わってくる可能性も感じる。

こうした中で、日本は国連安保理とG7で共に議長国の役割を担っている。

この日、安保理に出席した林外務大臣は、ロシアが1年前、安保理の緊急会合中に侵攻を始めたことを指摘して「国連全体への侮蔑だ」と批判する一方、「日本は可能な限り最も強いことばで非難する」と述べ、ロシア軍の即時撤退を求めた。

そして中国が示した仲裁案については、「交渉にどう臨むかはウクライナの人々が決めるべきで、中国には責任ある対応を求めたい」と述べるにとどめた。

一方、岸田総理大臣はG7首脳とのオンライン会議を主催した。

この会議にはゼレンスキー大統領も参加し、ロシアによる軍事侵攻を非難するとともに、対ロシア制裁の強化とウクライナ支援の継続を明記した次のような首脳声明を発表した。

ロシアの違法で不当でいわれのない戦争、国連憲章の軽視を非難する。

ウクライナ支援を強化し、ロシアおよびロシアによる戦争遂行を支援する者に対してコストを増加させることにコミットする。国際的に認められたウクライナの領土全体から即時、完全かつ無条件に部隊を撤退させるよう要求する。

ロシアによるウクライナの違法な併合の試みに明確な非難と断固とした拒絶を改めて表明する。

化学兵器や生物兵器、放射性兵器または核兵器のいかなる使用も厳しい結果につながることを改めて表明する。

ロシアによる新戦略兵器削減条約(新START)の履行停止の決定を深く憂慮する。

防空システム・能力、必要な弾薬および戦車に直近の焦点をあて、ウクライナの差し迫ったニーズを満たす取り組みを調整することに引き続きコミットしている。

2023年の財政および経済支援を390億ドルに増額するという進展を歓迎する。破壊されたインフラの復興を含むウクライナの再建の努力を支援する。

今後数日から数週間のうちにロシアへの新たな経済的行動を講じる。

ロシアがG7の経済から利益を得られないよう回避や迂回を防止する。第三国にはロシアの戦争への物的支援を停止しなければ深刻なコストに直面すると求める。

産業機械、工具、建設機械およびその他の技術を含め、ロシアのアクセスを阻止するためのさらなる措置を講じる。ロシアの違法な侵略の資金を調達するための収入を引き続き減少させる。

ダイヤモンド輸出にさらなる措置をとる。迂回を防ぐため追加的にロシアの金融機関を対象とする。法の支配に基づく国際秩序を堅持することに我々の連帯は決して揺らがない。

引用:日本経済新聞

どうも、あまり変わり映えしない声明である。

1年の節目にしては目玉がない。

状況が変わらないので声明の中身も変えようがないのだろうが、同じ中身がないのなら中国の仲裁案の方が国際社会にアピールしそうで、個人的には少し心配になった。

この日、アメリカ政府はまた新たな経済制裁を発表し、対象をロシアを支援した中国企業などにも広げた。

ただこれまた新味はない。

ロシアの軍事侵攻前から軍事介入を否定し大規模な経済制裁と軍事支援によって戦争を止めようとしたバイデン大統領の戦略は、残念ながら効果を発揮しなかった。

経済制裁によってエネルギーと食糧の価格が高騰し、それがロシア経済を下支えし、西側企業の相次ぐ撤退後もロシア企業が穴埋めすることで予想されたようなインフレはロシア国内では起きず、逆に西側諸国の方が高いインフレ率に苦しむこととなった。

それでも、アメリカ政府の基本方針はブレていない。

ウクライナに対する軍事支援は継続するものの、第三次世界大戦に発展しないよう支援内容は慎重に吟味するというスタンスだ。

この日、ABCテレビのインタビューに応じた大統領は、「経験豊富なアメリカ軍がウクライナで今、必要と考えるものをわれわれは供与している。それは戦車であり、大砲であり、防空システムだ」と述べ、ウクライナ側が求めるF16戦闘機の供与は現時点で行わない考えを明らかにした。

こうした段階的な支援強化が戦争を長引かせているという批判もアメリカ国内にはあり、野党共和党の中からはもっと決定的な軍事支援を行って早期に戦争を終わらせるべきだという意見も出ているという。

対峙する両軍の兵力が拮抗しているほど戦争は長期化する。

決定的な敗北がない代わりに決定的な勝利もないのだ。

しかし仮に戦闘機を供与すればその飛行範囲はロシア国内にも及び、ロシア軍がそれを理由にこれまで温存してきた航空戦力を全面的に投入したり核兵器を使用するリスクも高まる。

実に難しい判断、誰にも戦争をコントロールすることはできないのだ。

こうした中でこの日、注目されたドイツ製戦車「レオポルト2」の第一陣がポーランドからウクライナに提供された。

予想されるロシア軍の大攻勢に対して、ウクライナ軍は西側から供与される戦車を使って応戦することになる。

ロシアの国境付近には航空兵力が結集しているとも伝えられており、春を待って雌雄を決する厳しい戦いが始まろうとしている。

徹底抗戦を貫くウクライナの意志は固い。

西側の制裁強化と軍事支援、中国の仲裁案が入り混じり、今年どんな未来が待っているのかますます予断を許さない侵攻1年目の2月24日である。

<吉祥寺残日録>ウクライナ危機🇺🇦 停戦交渉は継続だが・・・長期戦になると不利になるロシアの総攻撃は近日中か? #220301

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