<吉祥寺残日録>ウクライナ危機🇺🇦 クリミア大橋の爆破で戦局は一段と複雑化!現実味を増す戦術核兵器の恐怖 #221011

ウクライナの戦況は新たな段階を迎えたようだ。

きっかけとなったのは、8日にウクライナが行ったロシア本土とクリミア半島をつなぐ戦略的な橋「クリミア大橋」の爆破工作だった。

クリミア大橋はロシアのタマン半島とクリミア半島を隔てるケルチ海峡をつなぐ18.1キロの鉄道道路併用橋で、ロシアによる一方的なクリミア半島併合の宣言の翌年2015年から建設が始まり、2019年12月に完成した。

まさにプーチン大統領によるクリミア併合を象徴する建造物であり、ウクライナ南部戦線への重要な物資の供給ルートでもあった。

戦争という状況で考えれば、ウクライナ側がこの橋を狙ったのは当然の作戦と言える。

単なる1本の橋という以上に、この橋には象徴的な意味が込められているのだ。

ロシア側としては痛恨の失態であり、プーチン大統領はこの破壊行為を「ウクライナによるテロ」と断言し、直ちに報復を命じた。

これを受けて10日、ロシア軍は首都キーウを含むウクライナ各地の都市を狙って多数のミサイルを撃ち込んだ。

ウクライナ側の発表によれば、83発のミサイルが発射され、そのうち43発以上を防空システムで迎撃したが、少なくとも11人が死亡、60人以上が負傷したという。

ロシア軍の撤退後、日常風景が戻り日本大使館もつい先日キーウに戻ったばかりだったが、再びウクライナ全土が戦場に逆戻りしてしまった。

ゼレンスキー大統領は新たなビデオメッセージで、「ロシアは私たちを滅ぼし、地上から消し去ろうとしている。ミサイル攻撃は、ロシアの問題が戦いでしか解決できないという文明世界へのシグナルとなった」とロシアを強く非難するとともに、ウクライナ国民に対し一層の団結を呼びかけた。

ロシアによる偽りの住民投票とそれに基づく一方的な4州の併合宣言を受けて、プーチン大統領が主張する「特別軍事作戦」は「祖国防衛戦争」へと性格が変わったという。

ロシアの勝手な言い分ではあるが、ウクライナに住むロシア系住民を助ける戦争とロシア領内での戦争ではその意味合いは全く異なる。

第二次大戦時のナチスによる侵略に抵抗し数千万人が命を落とした「大祖国戦争」になぞらえて、ロシア国民の愛国心に訴えるのだろう。

ウクライナの「ナチスト」たちとその背後にいるNATOがロシアを消滅させようとしている。

そんな作り話が繰り返しロシア国内で流されるに違いない。

その場合、第二次対戦後封印されてきた核兵器の使用がこれまで以上に現実味を帯びてくる。

ロシア国防省は8日、ウクライナでの軍事作戦を統括する新たな司令官に航空宇宙軍のセルゲイ・スロビキン総司令官を任命したと発表した。

このところウクライナ東部でウクライナ側に反撃を許し逆境を伝えられる戦況を立て直すための人事である。

スロビキン司令官は、シリアにおける軍事作戦の指揮をとった人物で、チェチェン紛争にも参加した。

シリアではロシア軍による残虐な作戦が数々指摘されていて、ウクライナでの振る舞いも今後より苛烈なものとなることが予想される。

これに先立つ5日には、プーチン大統領の側近とされるチェチェン共和国のラムザン・カディロフ首長をロシア軍で3番目に高い地位である「上級大将」に任命したばかりで、ロシア軍の指揮命令系統はこれまで以上に強硬な人たちによって支配されることになる。

カディロフ氏は常々「低出力核兵器」の使用を検討するよう提言していて、プーチン大統領の決断次第では実際に戦術核が戦場で使用されるリスクはかつてなく高まったと言えるだろう。

鍵を握るのはアメリカの対応であろう。

バイデン大統領はロシアの大規模攻撃に対し「必要な限りウクライナを支援する米国の関与をさらに強化するだけだ」と述べ、防空システムなどの供与を続けると言明した。

ただ、これに先立って6日には民主党の集会で、「核戦争の脅威が1962年のキューバ危機以来、最も高い水準にある」との認識を示したという。

核兵器や生物・化学兵器を使用する可能性に言及するロシアのプーチン大統領についても「冗談を言っているのではない」と述べ、小型の核兵器でも安易に使用すれば「アルマゲドン(世界最終戦争)に至らない能力などない」と警告した。

しかしアメリカやNATOが直接ウクライナの戦争に加わる決断はしないだろう。

たとえロシアがウクライナで核兵器を使用しても、全面核戦争を恐れるバイデンさんが取れる選択肢は限られている。

プーチン大統領はそれを見透かして、これまでとは違ったより犯罪的な戦術に転換する可能性が高まった。

ウクライナの反転攻勢によって、西側諸国では楽観的な論調が目立ったが、ロシアの国力を侮ってはならない。

新たに動員されたロシア兵たちに対する訓練がウクライナ領内で始まったと伝えられる。

すでに厳しい戦いを積んできたウクライナ兵を前にロシアの新参兵たちはいきなり命の危険に直面することになるだろう。

中には投降したり脱走する兵士もいるだろうが、西側が期待するほど簡単にプーチン政権が崩壊すると考えない方がいい。

今ロシアが行っている侵略は、戦前日本が中国で行った行為にとても似ていて、どれだけ国際的に孤立しようとも敗戦まで日本が自ら軍隊を撤退することはなかったのだ。

ひとたび軍を動かし兵士の命を犠牲にして獲得した領土は自ら手放すことはない。

占領地域の解放は、何年かかろうとも武力によって奪い返すほかないというのが歴史の教訓である。

ウクライナではまもなく、軍事行動が停滞する冬を迎える。

クリミア大橋を爆破したウクライナも、報復としてエネルギー施設を狙ったロシアも、お互い相手の戦闘継続能力を削いで敵の国内世論を動揺させることを狙っている。

そして冬になれば、対ロシア制裁の結果、原油や天然ガスの輸入が止まったヨーロッパがエネルギー危機が襲うだろう。

物価高騰による世論の不満が、NATO諸国のウクライナ離れをもたらす。

こうしたプーチン大統領の読みが外れるほど、ウクライナ側の攻勢が強まるようであれば、いよいよ戦術核という禁断の選択が現実のものとなる。

どちらに転んでも、先行きの見えない厳しい冬になることは間違いなさそうである。

<吉祥寺残日録>ウクライナ危機🇺🇦 ロシアからの降伏要求を拒否!マリウポリ包囲戦は6年前のアレッポそっくり #220321

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