<きちシネ>#14 「主戦場」(2018年/アメリカ映画)

ネットで話題になっていたので、ドキュメンタリー映画を観に行ってきた。

マイナー映画は思い立った時に観ておかないとすぐに終わってしまうので・・・。

特に、この映画の場合は・・・。

映画館は、我が家の近く、「吉祥寺パルコ」の地下に昨年12月にオープンした「アップリンク吉祥寺」。

前から一度行きたいと思いながら、今回初めて利用させてもらった。

パルコの地下2階までエスカレーターで降りると、ショッカーのような壁画が迎えてくれる。

「INTO THE CINEMA」の壁画とは対照的に、シンプルな内装だ。

エスカレーター脇の待合いスペースには、上映中や次回上映作品のポスターやチラシが並ぶ。

ちょっとインテリジェンスを感じるスペースで好感が持てる。

エスカレータを降りて左手に曲がると、暗いトンネルが・・・。

ここはスクリーンへの入り口であり、メインロビーへの通路でもある。

トンネルを抜けた先にあるメインロビー。

エレベーターで降りると、直接ここに出る。

チケットは、券売機のみでの販売だ。

ネットでの事前予約ももちろんできる。昔の名画座とは大違いである。

チケットは基本1800円と通常の映画館と同じだが、水曜日は一般1100円で全ての映画が観られるようだ。

ちなみに私はシニア料金。いつ利用しても1100円だ。

チケットを買って、スクリーンへ。

黒いスペースに赤い椅子。シンプルだがおしゃれな印象だ。やはり昔の名画座とは全然違う。

椅子の座り心地のよく、平日の朝ということでお客さんも少ない。でも、予想したよりはお客さんがいたと言った方がむしろいいかもしれない。

木曜日の朝10時すぎだが、20−30人は客がいただろう。

この日、私が観に行った映画は「主戦場」。

従軍慰安婦論争の主要人物たちにインタビューしたドキュメンタリー映画だ。

監督は、日系アメリカ人2世のミキ・デザキ氏。男性だ。

公式サイトから彼の経歴を紹介する。

ドキュメンタリー映像作家、YouTuber。1983年、アメリカ・フロリダ州生まれの日系アメリカ人2世。ミネソタ大学ツイン・シティーズ校で医大予科生として生理学専攻で学位を取得後、2007年にJETプログラムのALT(外国人英語等教育補助員)として来日し、山梨県と沖縄県の中高等学校で5年間、教鞭を執る。同時にYouTuber「Medama Sensei」として、コメディビデオや日本、アメリカの差別問題をテーマに映像作品を数多く制作、公開。タイで仏教僧となるための修行の後、2015年に再来日。上智大学大学院グローバル・スタディーズ研究科修士課程を2018年に修了。初映画監督作品である本作『主戦場』は、釜山国際映画祭2018ドキュメンタリー・コンペティション部門の正式招待を受ける。

映画「主戦場」公式サイトより

YouTuberが映画を撮る時代なのかとちょっと感心するが、デビュー作であるこの作品はとても興味深く観た。

参考までに、予告編だけでも観ていただきたい。

何より、従軍慰安婦問題を真っ向から否定する右派の論客たちに複数インタビューしている点だ。

有名どころで言えば、「新しい歴史教科書をつくる会」の藤岡信勝氏、自民党衆院議員の杉田水脈氏、弁護士のケント・ギルバート氏、評論家の櫻井よしこ氏。

あまり知らなかった人としては、「テキサス親父」と呼ばれアメリカで日本擁護の活動を行なっているトニー・マラーノ氏、彼のマネージャーをしている藤木俊一氏、「なでしこアクション」の山本優美子氏、そして最後にすごい存在感で登場するのが日本会議の代表委員、加瀬英明氏だ。

私はネトウヨではないので、あまり彼らのことを知らなかったし、その話をまともに聞いたこともなかったので、かなり新鮮だった。

中でも、加瀬英明氏についてはインパクトが強すぎて、「こんな人がいたんだ」と改めて日本会議の根深さを思い知らされた感じだ。

ぜひ多くの日本人に見てもらいたいと思うが、彼らはデザキ監督に騙されたと主張し、上映の即時差し止めを求めている。当時上智大学の大学院生だったデザキ監督は彼らに出演依頼を行う際、「大学院の卒業制作であり、論争の双方を公平に扱う」と約束したためインタビューを受けたと口をそろえる。

おそらく彼らの言っている通りで、デザキ監督は出演のOKを得るために多少の嘘を言ったのだと想像できる。

でも、大事なのは手続き論ではなく、「本音」である。正面から質問しても不都合なことを人は言わないものだ。今回の映画で保守の人たちは、自説を堂々と話している。編集によって発言が捻じ曲げられていると主張する部分もあるかもしれないが、そうした言葉の一つ一つというよりも、彼らの話し方や全体から伝わる思想のようなものが画面からにじみ出ているのが、この映画の見所である。

映画の前半はデザキ監督が出演依頼で約束した通り、双方の主張に沿った事実関係の整理が行われているように見える。韓国側が主張する「20万人」という数字についても否定的だ。

それでも、冒頭から右派の人々に「歴史修正主義者」と呼ぶなど、デザキ監督の立ち位置は明確であり、決して中立に論争を描いた作品ではない。その意味では、あえて「中立」などと言わず、マイケル・ムーア監督のように立ち位置をはっきりと明示した方がよかったのではないかとも思える。

あくまで私の推測だが、この映画を観に来る客は主に2種類に分かれると思われる。慰安婦問題に関心を持ち反安倍の信条を持つリベラル系の人たちと、このネット上でこの映画を批判する右派の主張に共感する保守的な人たちだ。

だから、映画の評価も5つ星と1つ星に極端に分かれる。

ネットで話題になったせいもあって、劇場には結構お客さんが入っているようだ。確かに、テレビなどでは観られない作品だし、ネット動画としても双方が一緒に登場する作品は存在しない。その意味では、貴重な映画と言えるだろう。

「上映差し止めを求める共同声明」の会見というのが、ネット動画で公開されていたので見てみたのだが、デザキ監督や配給会社の責任だけでなく、場合によっては上智大学の責任を追求したいという発言があった。

意味がよくわからなかったのだが、よく聞いていくと大学院でのデザキ監督の指導教官が安倍政権に批判的な中野晃一教授であり、中野氏が裏で糸を引いていると疑っていることがわかった。

中野教授は、保守派を批判する論者としてこの映画にも登場している。映画の後半、従軍慰安婦の話を離れて安倍首相や日本会議・神社本庁などを批判する論調に変化していくあたり、当初から安倍的なるものを批判する世論を世界に発信することを意図して日系アメリカ人のYouTuberを利用したという疑念が湧かなくもない。ひょっとしたらそうかもしれない。

でもその結果、この貴重なインタビューが撮れ、安倍さん周辺にいる人々の考え方を聞くことができたのは貴重だったと思う。

安倍さんは確かに総理として手練れで歴代の日本の総理とは一線を画していることは認める。でも、その中核には祖父の岸伸介元総理から受け継いだDNAが明確にあり、彼の周囲には今の日本国民の多くとはおよそかけ離れた考え方を持つ集団がいるのだ。

日本の侵略戦争を認めず、明治国家を理想とするような勢力である。

日本の名誉を守るとして、アメリカをはじめ国際的に活動を行っているが、彼らの主張は海外からはファシズムの再来のように見え、むしろ日本の名誉を傷つけているように思える。

手を替え品を替え活躍をアピールする安倍さんだが、安倍さんの周辺、すなわち日本の権力の中枢にはこういう勢力がいるという恐ろしい事実を思い出させてくれるという意味では、多くの人に見てもらいたい映画である。

見たうえで、映画を賞賛しても、批判してもいいのではないか。

そして、こうした映画が上映されている間は、日本はまだ中国よりはましと言えるのかもしれない。

「アップリンク吉祥寺」のような小さいが多様性のある映画館がなくなってしまわないよう、私もできるだけ利用させてもらおうと思った。

yahoo!映画の評価3.48、私の評価は4.00。

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