歴史の瞬間を見た

14歳の藤井聡太四段が29連勝の新記録を樹立した。デビュー以来一度も負けることなく達成した歴史的な快挙となった。

朝10時に始まった竜王戦決勝トーナメント1回戦は、夕方私が帰宅する時もまだ続いていた。電車に乗り込みスマホで「abemaTV」の中継を見た。

私は子供のころ、多少は将棋を指した経験はあるが、大人になってからは一度もやっていない。将棋番組を見るのも今日が初めてだった。

スマホの画面に対局する2人の棋士が映る。見始めた時、たまたま解説者が交代するタイミングだったらしく、現場のノイズ以外まったく音がない。通常のテレビだと「放送事故」のような画面だった。

さらに驚いたのは、一手指すのにものすごく時間がかかるということだ。

私は京王井の頭線の渋谷駅から乗り、終点の吉祥寺駅に着くまでの間スマホを見ていたのだが、結局およそ30分間一手も指すところを見られなかった。解説を聞いていると、一人持ち時間が5時間ある竜王戦の場合、勝負どころでは一手に1時間考えることは別に珍しくないらしい。

これは通常のテレビ番組としては放送できないコンテンツだと感じた。

しかし、家に帰っても対局が気になり、テレビにabemaTVを映してよく分からない将棋の対局をずっと見ていた。プロ棋士達が入れ替わり解説をしてくれるのだが、彼らでも勝負の流れがはっきりとは分からないということがわかった。どちらが優勢なのかさえ、はっきりとは分からないというのだ。そういうものなのかと、妙に感心した。

テレビ番組というのは、素人にもわかりやすく情報を伝えなければならない。だからディレクターは専門家に話を聞き、彼らの解説をもとにしてVTRをまとめる。その専門家がわからないというものはテレビで放送するのは極めて難しいのだ。だから将棋のニュースは、「きょうの勝負メシは・・・」などとサイドネタに逃げる。将棋の対局そのものを解説するのは至難の技なのだ。

ただ、解説するプロ棋士たちが驚きの声をあげた一手があった。対局の終盤、藤井四段が指した桂馬。それはプロ棋士が絶対に指さない一手だった。「これはトリッキーな手ですね」とすべての解説者が言った。その先どうやって効力しようとしているのか、プロにも予想できないのだ。きのう見たNHKスペシャルの人工知能を思い出した。藤井四段が選択した一手は、まるでAI将棋のようだったのだろう。

そして午後9時半前、対戦相手の増田康宏四段が投了し、藤井四段の29連勝が決まった。ちょうどNHKは「ニュースウォッチ9」の時間だった。冒頭からずっと藤井四段のニュースを放送していたにもかかわらず、勝利が決まった瞬間、ご丁寧に速報スーパーが流れた。将棋のニュースとしてはまさに前代未聞の出来事だった。

生まれて初めて見た将棋の生中継。私のような人が全国にたくさんいたのではないだろうか。どこかの局が勇気を出して地上波で中継したらどれほどの視聴率が取れたが、ちょっと見てみたかった。

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