台風19号 2019

人間というものは、直前の教訓に強く引きずられてしまうものだ。

台風15号による凄まじい風の被害を目の当たりにした日本人は、気象庁もテレビも国民も、風速60メートルの風に怯えながら台風19号を待ち構えた。

私の住むマンションでも、入り口のガラスが養生用テープによって補強がなされた。テレビで連日、養生テープによる防風対策を推奨していたからだ。

妻も心配して、金曜日に養生テープを探しに店を回ったが、どこもとっくに売り切れていた。

東京は何事も情報に敏感だ。そして人が多すぎる。

仕方なく、家にあったブルーシートで窓の内側を覆い、万一ガラスが割れた時の一時しのぎの応急対策を施した。ベランダにあったプランターも室内にしまい、台風を待ち受けた。

しかし、自然はままならぬもので、今度の台風は、風ではなく雨。しかも川が課題だったのだ。

過去最大級の勢力を保ったまま静岡県に上陸した台風19号は、そのまま東京を直撃。台風の進路図を見ると、中央線沿線では、高円寺あたりを中心が通過したようだ。

これだけ勢力が強い台風が、これほど東京のど真ん中を通ったのは、私の記憶にはない。

台風は、三連休の初日を襲い、家から出かけることもできずテレビをずっと見ていたのだが、12日夜の段階では二子玉川での多摩川の氾濫が中継のハイライトだった。

しかし、一夜明けると被害は広範囲に及び、長野や栃木、新潟の被害が大きいことがわかった。河川があちらこちらで氾濫したのだ。

堤防が決壊した箇所では、住宅地が水に沈み、救助作業が進められている。

前回の台風15号での初期対応が批判された政府は、すかさず非常災害対策本部を立ち上げ、警察・消防・海上保安庁に加え、自衛隊も各地に派遣された。

幸い各地には台風一過の晴天が広がり、朝から救助活動が始まったが、その様子をテレビで見ながらもどかしさを感じた。

逃げ遅れた人たちを救助することがこの日の一番のテーマだったが、ヘリコプターで上空から吊り上げる一方で、舟による救助に課題があった。

救助に当たるボートの数が圧倒的に足りないのだ。

浸水地域を取り巻くように警察や消防の人たちが見守っている。人はいるのだ。

しかし、救助に使うボートが少ない。だから効率が悪い。

ヘリコプターが救助できる人数は所詮限られている。それに比べ、舟さえあれば同時にたくさんの人を救助することができる。

こうした浸水被害に対処するためには、まずは救助に使える小型船やゴムボートを日本中から集めてくることが何よりも重要だ。

日本ではボートを所有する個人は多くないが、こういう時こそヤマハやアウトドアメーカーなどが舟を車に積み込んで現場に駆けつけるスキームを整えることが重要だと思った。

これは国土交通省の仕事だろう。

その一方で、気象庁やマスコミ、交通機関などによる事前の情報伝達はよかったと思う。

台風15号の際には、事前の注意喚起が十分ではなく、台風通過後の被害報道にも問題があったが、今回はその反省が活きて、数日前から繰り返し台風への備えを呼びかけた。

鉄道各社の計画運休も定着し、今回は流通や小売業界も計画的に店を閉めることを事前に発表した。

これによって、台風が通過した土曜日、首都圏から人影がすっかり消えたのだ。

これによって被害が最小限で抑えられたことは間違いない。

つい数年前までの日本で、今回の台風を迎えていたら、至る所で混乱が広がっていただろう。台風が連休にやってきたのも混乱を小さくできた要因だろう。

ただ、マスコミの報道は、少し暴風被害に偏りすぎたのは反省だろう。

前回の台風15号では多くの家が窓を破られ、屋根を飛ばされた。電柱の被害も大きく長期にわたって停電が続いた。その記憶がマスコミの人たちの脳裏に強く残っていたため、報道内容にバイアスがかかってしまった。

天気キャスターの森田さんは、一貫して今回の台風は「雨が心配」と繰り返していた。しかし番組内容は窓の養生の仕方などに偏り、店から養生テープが消えた。

冷静に過去の台風被害を振り返ってみると、風の被害よりも河川の氾濫や土砂崩れといった雨の被害の方が圧倒的に多い。最近では、河川管理がしっかりして堤防が決壊することは少なくなったが、かつての日本では毎年どこかの河川が氾濫していたのだ。

そういえば、東京西部の高尾に暮らす私の弟は、近くの南浅川から流れ出した水が自宅周辺にも流れてきたらしい。

高齢の義母を避難させたり、消防団から情報を取ったりして家族を守るために奮闘したそうだ。生まれて初めての経験にやや興奮気味に話す弟の電話を聞きながら私は思った。

自然災害というのは、本当に様々な顔を持つ。

まずは自分の周囲にどんな危険があるのかを知り、各自でそれに備えることが何よりも重要なのだろう。避難せずに逃げ遅れ、後で行政に文句を言うのはお門違いというものだ。自然災害の前では行政も無力。災害のデパートのような日本列島に暮らす以上、自分の命は自分で守る、そのことを心に刻みつけたいと思う。

さて、台風一過の日曜日。

雲ひとつない晴天のもと、何の被害もなかった私は、井の頭公園の様子を見に池の周りを一周してきた。

台風通過の翌日には、井の頭池を一周するのが最近の恒例となっている。

葉っぱが道路に散乱しているものの、台風15号の時のように倒れた樹木などはない。

ただ池の水面がいつもより高いのに気づく。

周辺に降った雨が池に流れ込んだためだろう。

まだ風は強く、池の水が一方向にかなりのスピードで流れているように見える。

カモものんびり浮かんでいられない感じだ。

昼時、吉祥寺の街に行ってみると、まだ閉まったままの店も多い。

ダンボールや養生テープで窓を守っている店が多いのが、今回の特徴だろう。

もう一つは大型店。

マルイや・・・

アトレや・・・

東急百貨店も昼なのに閉まっていた。

どうやら午後2時ごろから店を開けるらしい。

こちらは計画運休の影響。従業員が出勤できる時間に開店を遅らせたようだ。

それにしても、過去最大級の台風が2つも首都圏を直撃するとは、新海誠監督の「天気の子」が現実化している気がしてしまう。

人間は今後、ひとつひとつ知識を蓄積し、自然を畏れながら上手に付き合っていくしかないのだろう。

自然とは、戦えない。

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