トランプ就任式

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日本時間の午前2時から始まったトランプ大統領の就任式。夜中にわざわざ見る気はなかった。

しかし結果的に、ライブで見ることになる。原因は突然の発熱だ。

この日はロボットの展示会に行っていた。技術者向けの展示会はいつも混む。水分をとらずに人ごみに長時間いたからだろうか。帰宅した後、悪寒がしてきた。

「やばい」と思って、体温計を取出した。36度台。「あれっ」。熱がない。体感と違う。

ベッドで寝転んで、しばらくしてまた測る。37度台。「そうだろう」。自分の感覚が正しかった気がして熱が出たのに少しうれしい。

身体がだるい。しばらくたってから三たび測ってみる。38.4度。「やはり、ここまで着たか」。妙な納得感がある。これはインフルエンザかもしれないと思う。月曜は予定がけっこう詰まっているのに会社行けるだろうか。

この後、ベッドでうとうとし、気がつくと深夜を回っていた。目が覚めてしまったので、就任式を見ることにした。NHK総合とBS1で特番をやっていた。BS1の方は、米ABCテレビの特別番組をそのまま同時通訳で放送していたためそちらを観ることにする。

私がテレビをつけた時、すでにトランプ氏を乗せた車が式典会場となる連邦議会議事堂に向かっていた。テレビカメラはトランプ氏の車を映し続ける。

議事堂には歴代大統領夫妻が顔を揃える。カーター、ブッシュ、クリントン。ヒラリーもにこやかな笑顔を見せる。アメリカのテレビカメラは頻繁にクリントン夫妻の様子も映し出した。議事堂前には就任式を見ようと全米から多くの人たちが集まった。ほぼすべてが白人だ。観衆の数は、オバマ大統領の就任式のおよそ半数だと伝えられた。

トランプ氏が議事堂に到着し、オバマ大統領が迎える。引き継ぎのセレモニーのため、2人並んで議事堂内の部屋に入る。テレビカメラは廊下にも据えられ、トランプ氏の一挙手一投足を追う。

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就任演説が行なわれる議事堂のベランダには歴代大統領夫妻がスタンバイしている。そこに、トランプ氏の子どもたちが登場した。選挙戦でも活躍したイヴァンカさんは夫と共にワシントンに移り住み側近として大統領を支える。末っ子のバロン君は学校の関係で当面ニューヨークにとどまるらしい。

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現ファーストレディーのミシェル・オバマ夫人が登場する。赤茶色の衣装は堂々と見える。続いて登場したメラニア・トランプ夫人は、水色のシックな衣装に身を包む。さすがモデル出身だけに見事な着こなしだ。選挙期間中のちょっと下品な印象はない。魅力的なファーストレディーに変身した。メラニア夫人はスロベニア生まれ。外国生まれのファーストレディーは史上2人目、共産圏出身のファーストレディーは史上初だという。メラニアさんはバロン君の教育のためホワイトハウスには入らず、ニューヨークのトランプタワーから動かないのだそうだ。

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そしてオバマ大統領がバイデン副大統領と一緒に登場。威厳と気さくさを漂わす。去りゆく大統領というのも自己演出が難しい。

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新たな副大統領になるペンス氏を先に行かせて、最後トランプ氏が一人で観衆の前に姿を現した。親指を立てる得意のポーズ。余裕があるようにも見えるが、緊張しているようにも見えた。いつものように真っ赤なネクタイをしめている。

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副大統領の宣誓に続き、トランプ氏が大統領としての宣誓を受ける。メラニア夫人が持つ聖書に左手をのせる。ついに一年前には誰も予想しなかったトランプ大統領が正式に就任したのだ。

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キリスト教の神父やユダヤ教のラビが次々に祝福のスピーチをする。やはりアメリカは一神教の国だということを痛感する。政教分離の日本人には違和感のある光景だ。聖職者たちは平和や寛容を訴えた。神に対して「新大統領に国民を導く知恵を与えたまえ」というような話もあった。私には何となくトランプ批判のようにも聞こえた。気のせいか、聖職者たちの話を聞くトランプ新大統領やその取り巻きたちの顔が不満げに見えたのだ。

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そして注目されたトランプ大統領の就任演説が始まった。将来のために以下、演説の全文を書き残しておきたい。

『ロバーツ最高裁長官、カーター大統領、クリントン大統領、ブッシュ大統領、オバマ大統領、米国民の皆さん、そして世界の人々、ありがとう。我々、米国市民はいま、我々の国を再建し、全ての米国民への約束を復活させる国を挙げての偉大な努力に結集した。ともに我々は、この先何年もの米国と世界の道筋を決めることになる。

我々は課題に直面する。我々は苦難に対峙する。しかし我々は仕事をやり遂げる。我々は4年ごとに、秩序正しく平和的な政権移行のためにこの場に集まる。政権移行の最初から最後までのオバマ大統領夫妻の親切な支援に感謝している。夫妻は素晴らしかった。

しかし今日の式典は非常に特別な意味を持つ。今日、我々は単に政権から政権へ、または党から党へと権力を移行するのではなく、首都ワシントンからあなた方、米国民に権力を戻すからだ。

あまりにも長い間、我が国の首都にいる少数の者たちが政府の見返りを獲得し、人々がそのコストを負担してきた。ワシントンは隆盛を極めたが、人々はその富にあずかることはなかった。政治家たちは繁栄したが、雇用は流出し、工場は閉鎖された。エスタブリッシュメント(支配階級)は自らを保護したが、米国民を守らなかった。

彼らの勝利はあなた方の勝利ではなかった。彼らの成功はあなた方の成功ではなかった。彼らが米国の首都で祝っている間、苦しい生活をする米国中の家族には祝うものなどほとんどなかった。

それは全て変わる。たった今、ここから。この瞬間はあなた方の瞬間だからだ。あなた方のものだ。今日ここに集った全ての人々、米国中で見守っている全ての人々のものだ。これはあなた方の日だ。あなた方の祝典だ。そしてこのアメリカ合衆国はあなた方の国だ。

真に重要なのは、どちらの党が政府を支配するかではない。人々が政府を支配しているかだ。2017年1月20日は、人々が再びこの国の支配者になった日として記憶されるだろう。我々の国の忘れられた男女は、もう忘れられることはない。誰もがあなたに耳を傾けている。

あなた方は数千万人単位で、世界がかつて見たことのないような歴史的な運動に参加するため集まった。この運動の中心にあるのは、国家はその市民に仕えるために存在するという重要な信念だ。米国民は子供たちのための素晴らしい学校、家族のための安全な地域、そして優良な職を望んでいる。これらは高潔な人々の正当で筋の通った要求だ。

しかしあまりにも多くの米国市民にとって異なる現実が存在する。都心部で貧困から逃れられずにいる母親と子供たち。米国中に墓標のように散在するさび果てた工場。資金はあふれるほどあるのに、若く素晴らしい生徒たちに十分な知識を与えない教育制度。あまりにも多くの生命を奪い、大きな潜在能力を持つ米国に略奪をはたらいてきた犯罪やギャング、麻薬。このアメリカの殺りくはこの場所で、たった今、止まる。

我々は1つの国民だ。彼らの痛みは我々の痛みだ。彼らの夢は我々の夢だ。そして彼らの成功は我々の成功になる。我々は1つの心、1つの祖国、1つの輝かしい運命を共有する。私が今日おこなった宣誓は、全ての米国民への忠誠の誓いだ。

何十年にもわたり、我々は米国の産業を犠牲にして外国の産業を富ませてきた。我が国の軍の非常に悲しむべき消耗を許しながら、他国の軍隊を助成してきた。自国の国境を防衛することを拒否しながら、他国の国境を守ってきた。米国のインフラが荒廃と衰退に陥るなか、海外で何兆ドルも費やしてきた。

米国は他の国を豊かにしたが、我々の富、力、自信は地平線のかなたへ消え去った。1つずつ、工場は閉鎖され、海外移転され、取り残された何百万という米国の労働者たちのことが顧みられることはなかった。中流層の富が奪い取られ、世界中に再分配された。

しかしそれは過去のことだ。今、我々は未来に目を向けている。今日、ここに集った我々は、新しい布告を発し、全ての街、外国政府、政策決定者に伝える。今日から、新しいビジョンがこの国を支配する。今日から「米国第一主義」を実施する。貿易だろうが、税、移民、外交だろうが、あらゆる決定は、米国の労働者と家族に恩恵をもたらすために行われる。

我々の製品をつくり、企業を盗み、職を奪うという外国の破壊行為から国境を守らなければならない。(自国産業の)保護こそが素晴らしい繁栄と強さにつながる。私は皆さんのために全力で戦い、決して失望させない。

米国は再び勝ち始め、かつてないような勝利を収めるだろう。我々は職を取り戻す。国境を取り戻す。富を取り戻す。そして夢を取り戻す。

このすばらしい国家全域に、新しい道、高速道路、橋、空港、トンネル、鉄道をつくり、福祉に頼る生活から人々を抜け出させ、仕事に戻らせる。我々自身の手と労働力でこの国を再建する。我々は「米国製品を買い、米国人を雇う」という簡単な2つのルールに従う。

我々は世界の国々に友好親善を求めるが、それは全ての国が自己利益を第一に考える権利を持つという理解の上でのことだ。我々の生き方を押しつけない。しかし、皆が従う模範として、それを輝かせる。

我々は、以前からの同盟を強化するとともに、新しい同盟を構築する。そして過激なイスラム主義テロリズムに対して文明諸国を1つにまとめ、そのような勢力を地球上から完全に撲滅する。政治の根底に置くのは、米国への完全なる忠誠だ。我々は、国家への忠誠を通じて互いへの忠誠を再び見つけ出すだろう。愛国心に従うとき、そこに偏見が入り込む余地はない。

聖書はこう述べている。「神の民がともに協調して暮らすとき、それはどんなにすばらしく快適なことか」。我々は率直に語り、誠実に違いについて意見を交わすべきだが、常に連帯を追求する必要がある。米国が団結するとき、誰も止めることはできない。

恐れることはない。我々は守られているし、これからも守られる。偉大なる軍隊や法執行機関が我々を守ってくれる。そして、何よりも、神が守ってくれる。

最後に、我々は野心的に考える必要がある。より大きな夢を見なくてはいけない。米国では「生きる」とは「努力を続ける」ことを意味する。

意見をいうだけで、行動を起こさない政治家にはもう容赦しない。文句をいい続け、それが仕事になっているような政治家たちだ。中身のない対話の時代の終わりだ。行動を起こす時が来た。誰にも「できるはずがない」と指示されるいわれはない。米国人の心、闘志、精神が乗り越えられない課題は存在しない。我々は失敗しない。米国は再び栄え、豊かになる。

新しい時代の扉が開こうとしている。宇宙が神秘の場所ではなくなり、地球は惨めな病疫から解放される。次世代のエネルギーや産業、テクノロジーが実用化される。新たな国家の尊厳が我々の魂を鼓舞し、目線を上げさせ、我々の分断を癒やす。

「肌の色にかかわらず、どんな人の体にも愛国者という赤い血が流れている」という古くから伝わる軍人の知恵を思い出そう。全ての人が公平に栄光ある自由を謳歌し、同じ偉大な米国旗に敬礼する。デトロイトの都心の真ん中で生まれた子供も、ネブラスカの大草原で生まれた子供も、同じ夜空を見上げ、同じ希望で胸を満たし、全能の神のご加護を受けている。

全ての米国人に告ぐ。近い場所でも、遠くの場所でも関係ない。大都市に住んでいようが、小さい街に住んでいようが関係ない。山脈から山脈、東海岸から西海岸まで、全ての国民にこの言葉を聞いてほしい。

あなた方が無視されることは、もう二度とない。あなた方の声、希望、夢が、米国の未来を形作る。未来への道を導いてくれるのは、あなた方の勇気、良心、そして愛だ。

ともに米国を再び強くしよう。再び豊かにしよう。再び誇りの持てる国にしよう。再び安全な国にしよう。そして、そうだ、ともに米国を再び偉大な国にしよう。

ありがとう。あなた方に神のご加護を。米国に神のご加護を。ありがとう。米国に神のご加護を』

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選挙演説を聴いているようだった。大統領になると言動は変わると予測する専門家もいたが、驚くほど変わっていないというのが私の印象だった。トランプさんはある意味では一貫している。言った事はやる、そういう大統領になるのだろう。

就任式を終え、トランプ大統領はホワイトハウスまでのパレードに臨んだ。メラニア夫人とバロン君を伴って歩き沿道の観衆ににこやかに手を振った。

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一方で、ワシントンをはじめアメリカ各地で抗議集会が開かれ、一部が警官隊と衝突した。

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大統領に就任した初日、さっそく3つの大統領令に署名した。

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①オバマケアの見直し、②NAFTAの再交渉、③TPPからの離脱だ。選挙期間中に彼が訴えていたことをそのまま実現した。日本政府はまだTPPの有用性を説得すると言っているが、誰もがTPPは死んだと思っている。TPPに反対していた農業団体は安堵するかもしれないが、二国間交渉でTPPより厳しい門戸開放を迫られる事になるだろう。

トランプ氏は言ったことを実行しているだけ。メキシコ国境の壁もきっと作るのだろう。「さすがにそこまではやらないだろう」という楽観論はいつか痛い目をみることになる。

安倍さんもそのことはよく分かっているだろう。「日米同盟の強化」という表面的な言葉の裏でどんな駆け引きをしていくのか、したたかな安倍さんの実力が試される。今もし鳩山さんや菅さんが総理だったらと思うとぞっとする。

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