カリスマ経営者が消える中国

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先日訪れた杭州。

着陸直前、眼下には例によって高層ビル群が現れた。

中国の都市を訪ねると、どこに行っても同様の景色を見る。

似たような高層住宅が大量に建設される。しかも、1箇所ではない。一つの都市で何ヶ所もこうした巨大団地が同時に作られる。そして、それが全国各地で同時に行われるのだ。

地下鉄もそうだ。

一都市で何本もの地下鉄を同時に建設する。しかも同時並行的に全国の大都市で地下鉄を掘っているのだ。

一体どれだけの公共投資が行われているのか?

なぜそんなとてつもない投資が可能なのだろうか?

中国を訪れるたびに、私はそんな疑問を強く抱く。

日本の高度成長期にも政府は公共事業に精を出したが規模が違う気がする。

中国政府は、巨額の予算を一体どうやって調達しているのだろうか?

そんな時、あるネット記事が私の目に止まった。

福島香織さんというジャーナリストが「JBpress」に掲載した記事。

タイトルは、「中国でカリスマ経営者が次々に退いていく理由」。

アリババのジャック・マー会長だけでなく、カリスマ経営者が相次いで一線を退き、IT企業に対する当局の管理が強まっているという内容だ。

その記事の一部を引用させていただく。

(アリババのマー会長が退任した)10日後、杭州政府が100人の官僚を「政務事務代表」として、アリババやAI監視カメラメーカーのハイクビジョン(海康威視)、民族自動車企業の吉利など100の重点民営企業内に駐在させると発表した。口の悪いネット民たちは「地主を追い出して田畑を接収しようとしている」と噂した。

 その後、IT企業、テンセント(騰訊)創始者の馬化騰やレノボ(聯想集団)創始者の柳伝志が、馬雲のあとを追うように次々とビジネスの現場から去ることがあきらかになった。こうした“早期退職”は決して早々とセカンドライフを楽しみたいから、といった理由からではなさそうだ。民営企業からカリスマ創始者たちを追い出し、政府官僚による直接支配が始まりつつある。中国民営企業の大手術が始まっているのだ。

テンセントやレノボのトップも引退するとは知らなかった。

確かに、単なる偶然と見るのは不自然である。

その背景には、何があるのか?

 こういった動きについて、チャイナウォッチャーたちの間では、中国共産党政権がいよいよ民営企業の改造に着手した、という見方が出ている。英国のフィナンシャル・タイムズによれば、アリババ傘下の芝麻信用と騰訊征信は、かつて中国政府に顧客ローンのデータを提供することを拒否しており、馬雲と馬化騰の一線からの撤退と関係あるとみられている。

 米国の政府系ラジオ局、ラジオ・フリー・アジア(RFA)は、こうした動きは中国共産党政府がクレジットローンに関するすべての情報を独占して管理するためのもので、同時に当局が民営企業と工商界の企業に対する改造を行い、実質的にコントロールするためのものだ、という見方を紹介している。

 昨年(2018年)、中国政府はアリペイ(支付宝)に対して顧客勘定の100%の中銀準備預金を義務付けた。これは顧客保護の観点から必要という建前だが、実際はアリペイ口座の余剰資金運用によるアリババの儲けを政府に差し出せ、という意味でもあった。中国「証券時報」によれば、今年6月、7月に国有資産委員管理委員会書記の郝鵬が馬雲と馬化騰に直接、中央企業と民営企業の融合を命じ、中央企業+ネットの混合改造モデルを強化せよと通達したとか。

 ほぼ同じころ、民営企業が多い浙江省杭州市や山西省太原市、北京市などは、政府官僚や党委員会の民営企業に対する干渉を強化する政策を打ち出した。杭州市は、民営100企業内に市政府官僚駐在事務所を開設、太原市では財務管理部門をテスト的に接収するなどの方法で経営にコミットし始めた。北京では党委員会が民営企業内の「党建設工作」展開状況の調査を開始するという通達を出した。

 こうした動きは、建前上は、民営企業の腐敗や野放図な経営を共産党が厳しく管理し、指導するというものだが、実質は、政治上は民営企業を絞め殺し、経済上は民営企業の私有財産を接収するということに他ならない。

こうした中国国内の動きの中心にあるのは、習近平政権が大きく方針を切り替えたことだというのだ。

今の中国は、経済の減速を「計画経済」によって乗り越えようとしているという。

 習近平政権が経済政策の目玉として打ち出している国有企業改革は、いわゆる「混合企業改革」と言われるもので、汚職や不正経営、経営破たんを理由に民営企業の経営権を国有企業に接収させることで、国有企業を大規模化して市場独占化を進め、国有企業を通じて共産党が市場に対するコントロールを強化するものだ。

 これは改革開放期の「国退民進」(国有企業を民営企業に移行することで市場経済化を進める)とは真逆の方向性だとして「国進民退」政策だと言われた。あるいは50年代の「公私合営」政策への回帰とも言われた。この結果、民営企業家たちが委縮し、今の中国経済の急減速の主要な原因の1つになったというアナリストは少なくない。

 目下、米中貿易戦争の行方は中国にとって楽観的な観測を許さない。確実に中国経済にボディーブローのように効いており、経済統計上にもはっきりと予想以上の中国急減速がみてとれる。

 首相の李克強は9月16日、ロシア訪問前にロシアの国営通信社、イタルタス通信に対して、今年通年の中国経済成長が、全人代の政府活動報告で目標に掲げた6~6.5%を達成できずに6%を切る見通しであることを語っている。党中央内部ではその責任を習近平に求める声も強い。一方、習近平政権としては、この経済危機を“計画経済”に立ち戻ることで乗り越えようとしている。その表れが、今年に入っての民営企業のカリスマ創始者の現場からの排除や、党官僚の進駐や財務の接収などの動きだと見られている。

こうした指摘が当たっているのかどうか、私には判断がつかない。

しかし将来を考えず巨大投資を続けてきたツケを、巨額の利益を上げるIT企業を事実上の「国有化」することで埋めようとしているのであれば、金の卵を産むニワトリを自ら殺そうとしていることを意味する。

中国の未来は、明るくないだろう。

私が中国を歩いて感じた疑問は、そう遠くない将来、解けるかもしれない。

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