昨日、およそ1ヶ月ぶりに岡山に帰省した。

4月は新緑が輝く一年で最も美しい季節。
本当だったら、上旬から岡山に来て植物たちが一斉に芽吹き始める様を観察するつもりだった。
しかし、それが叶わなかったのは、フランスの年金手続きと妻の体調のこともあったが、何より伯母が暮らしていた古民家の大規模な修繕工事が急遽決まったことが理由だった。
私たちが東京に戻った3月末から工事が始まり、およそ3週間かかって今日無事にその工事が終わった。

今回岡山に戻ってきてまず驚いたのは、花の種を蒔いていた庭の一画が瑞々しい雑草で覆われていたことだ。
花もちらほら咲いてはいるのだが、それを覆い隠すように「カラスノエンドウ」がすごい密度で群生していた。
耕して肥料を撒いて耕したのは、結局「カラスノエンドウ」のためだったのかと、ちょっと虚しい思いにもなる。

しかし、工事の方は期待した通り、綺麗に仕上がっていた。
裏庭に回ってみると、伯母が寝室に使っていた部屋の外壁がきちんと張り替えてあった。
昔ながらの焼き板の外壁だが、はがれかけて土壁に直接雨が当たる心配も、違和感なく取り除かれたことになり、どうしても外壁を直したいと言っていた妻もこれなら一安心だろう。

大工さんと一緒に外壁をチェックしていたら、裏に住むお婆さんが声をかけてきて、とても丁寧な仕事ぶりで感心したとしきりに大工さんを褒めている。
昔の家は土壁の外側にいきなり焼き板を張ってあったが、今度は二重に防水シートも施してくれていて、これで土壁が崩れる心配はしなくてすみそうだ。

明かり取りの役目を果たしていた古いガラス戸も少し小ぶりなサッシに生まれ変わっていた。
ちょうど元々の母家と裏に建て増した増築部分のつなぎ目に設置されたこのガラス扉は、今にも割れそうで、しかも周囲の壁にも穴が開いていた。
このあたりは日陰でまったく日光が当たらないことに加え、屋根に降った雨水を流す雨樋が無造作に設けてあり、一年中ジメジメとする湿気の多い場所でその分傷みが早いのだろう。

サッシ取り付けの際に、大工さんもその問題点に気づいたらしく、お願いしていなかったが雨樋も新しく付け替えてくれ、おまけに溝への排水ルートもしっかりと作ってくれていた。
これで妻が心配していた雨仕舞の問題も大幅に改善した。
さすがプロの仕事、素人が適当にやるのとはやはりわけが違う。

そして今回の工事のメインとなったのは、日の差し込まない奥の2部屋。
シロアリに床下を食い荒らされ、畳の上を歩くとべこべこした箇所がいくつもあり、特に伯母がよく通っていた座敷への通路部分は男の人が歩くと床が抜けそうなほどに傷みが酷かった。

大工さんが撮影してくれた写真を見ると、畳の下には弱々しい板が間隔をあけて置かれているだけだ。
しかも、100年前のことなので今のようなコンクリートの基礎はなく、大きな石を並べてその上に柱を立てて家を組み上げている。

シロアリに食われた柱を補修または交換し、下がってしまった敷居をジャッキアップして、木や金属の柱で何ヵ所も補強してくれた。
柱と敷居を支える横木を金具で補強し、これ以上敷居が下がらないようにした上で、畳の下の床を土台から今風に作り直したのだ。

写真を見ると、弱々しい板が張られただけだった床は全て取り払われ、新たに断熱材の入った床が出来上がった。
歩くと以前のようなふわふわした感覚がなくなり、カチッとした頑丈な床になった。
それでも古い畳をそのまま戻してもらったので、見た目は以前とほとんど変わらず古いままなので、伯母が帰ってきても工事をしたことに気づかないかもしれない。

しかし、あまり目につかない今回の補修工事によって、安心感と使い勝手は格段に向上した。
柱が下がってうまく開かなかった建具も調整してくれたようで、スムーズに開け閉めできるようになった。
もちろん家全体が歪んでいるので、建具のずれは致し方ないが、これで畳や襖を張り替えて壁を塗ってもらえば見違えるほど綺麗になるだろう。

信頼できる大工さんに出会ったことで、この古い家をどのように蘇らせるのか、いろいろ夢が膨らんでくる。
土間を板張りの部屋に変える工事について大工さんに相談してみたら、「それはできると思いますよ」と頼もしい答えが返ってきた。
この大工さんならきっと綺麗に仕上げてくれるだろう。
まあ、急がない。
ゆっくりと考えて、必要なところから少しずつ直していこう。
夏になる前に、私たちが普段使う部屋にエアコンを取り付けたいとも思っている。
この家は夏は涼しいのだが、冬の寒さ対策も考えるとやはりエアコンがもう1台欲しいところだ。
とはいえ、古民家の良さを失わないよう、手を加える部分は必要最低限にしたいとも思う。

やはり職人さんというのは頼りになる。
それを痛感した今回の大規模修繕工事だった。
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