今日は義父の誕生日。
昨年末を超えられるかと医者からも言われていたが、どうやら持ち直したらしくめでたく94歳の誕生日を迎えられた。
医療と介護サービスが発達した今日、日本人の寿命はますます伸びようとしている。

こうした中、岸田政権は新型コロナウィルス感染症の扱いをこれまでの「2類相当」からインフルエンザ並みの「5類」に引き下げることを決定した。
5類と言っても公費負担は一定期間続けるつもりらしいので「5類相当」ということになりそうだ。
移行の時期はゴールデンウィークが明けた5月8日から。
マスクの着用についても個人の判断に委ねる意向だ。

ピークは越えたとはいえ、まだ8波の流行は続いているし、これから花粉症の季節にもなるし、5月からというタイミングは悪くないと思う。
マスクについても海外ではずっと以前からつけないのが当たり前のようだが、日本人は世界一心配性な国民性なので、個人の判断に任せる以外に方法はないだろう。
問題となるのは医療の体制である。
5類に引き下げられることによって、原則どこの医療機関でもコロナに対応してもらえるはずなのだが、開業医を中心にコロナには対応しないという医者が相変わらず多そうなのだ。
本来は率先してコロナ対応を担うべき医師会は後ろ向き、開業医の利益を代表する組織は一貫してコロナ治療には及び腰である。
医者という職業は本来公的な性格を帯びていて、コロナのような緊急時には人命を救うために率先して活動すべきだと考えるが、実際にはコロナ患者を受け入れるほど儲けが少なくなるとして職務を放棄して逃げ通している医者が多い。
まったく許されざる背信行為だと私には思える。
いっそのこと、コロナに対応しない医者には医師免許を停止するとか、診療報酬を引き下げるとかのペナルティが設けられてもいいぐらいだ。
医師免許を持つもの以外、治療には当たれないのがルールであり、それによって通常よりも多額の報酬を得ているのだから、こういう時ぐらい義務が課せられるのが当然だろうと思えてしまう。
しかし、そういうことは絶対に許さないのが医師会だ。

コロナ患者が日本で初めて見つかってから、この1月でちょうど3年になる。
コロナよりもはるかに多くの日本人が死んだ100年前のスペイン風邪でも、だいたい3年で流行は終息していったという。
3年経てば、亡くなる人はだいたい亡くなり、いわゆる社会免疫を獲得する。
しかし、日本の場合、徹底した感染対策を続けていることにより、まだコロナに罹患した人は人口の3〜4割だとも聞く。
ゼロコロナ政策を解除した中国で、あっという間に8割の人が感染したというのとは対照的である。
ひょっとすると、世界一心配性な国民性が災いして、逆にいつまで経っても日本だけがコロナ禍から抜け出せない事態も考えておいた方がいいかもしれない。
まあ、私自身はもうそろそろコロナ前の生活に戻るつもりなので、花粉症の季節が過ぎればマスクもほとんどしなくなるだろう。

さて、そんなウイルスとの共生を考える時期に、まさにタイムリーな番組と出会った。
先日放送されたNHKスペシャル『超進化論 第3集 すべては微生物から始まった〜見えないスーパーパワー〜』である。
正直、考えたこともなかったが、もともと人体の中には膨大な数の微生物が暮らしていて、その微生物の働きによって私たち人類はさまざまな能力を獲得してきたのだということを知った。
最新の研究に基づいた微生物と人間の関係について、この番組の中から大変興味深い研究成果を書き残しておきたい。
たとえば、人の体内で暮らす微生物の数。
口の中だけで実に2000億もいるそうで、歯のぬめりの正体は「フソバクテリウム」や「ストレプトコッカス」といった微生物だ。
ニキビの原因である「アクネ菌」は病原菌の攻撃から肌を守る役割を果たしてくれている。
よく耳にする「腸内細菌」に至ってはその数、実に100兆。
「ビフィズス菌」が整腸作用、「バクテロイデス・フラジリス」が免疫力アップ、「プレボテラ・コプリ」は血糖値の上昇を抑える役割を果たしている。

こうした無限に広がる微生物の世界が、最新科学によって少しずつ解明されている。
そしてさまざまな特性を持つ微生物を利用して、ガンの治療に役立てようという研究も進んでいるのだ。
利用されるのは「クロストリジウム・ノビィ」という微生物。
普段は土の中に住み脂肪分解酵素を出す微生物だが、酸素を嫌うという特性がある。
クロストリジウムを血管の中に送り込むと、酸素の多い血管から逃れて酸素の少ないガン細胞に逃げ込む。
そしてガン細胞の脂肪を分解するため「リパーゼ」と「ホスホリパーゼ」という酵素を出して、結果的にガン細胞を破壊するのだという。
環境問題の解決にも微生物の力が・・・。
「PET分解菌」にはプラスチックを食べる特性があり、菌が出す酵素をプラスチックと混ぜるとわずか1日程度で分解してしまうのだそうだ。
プラスチックが生まれたこのわずか50年でそれを分解する微生物が生まれたのだという。

さらに、微生物が他の生物の脳を操っているのではないかという研究も進められている。
「トキソプラズマ・ゴンティイ」という寄生性原生生物は、哺乳類や鳥類に感染する微生物で人間に感染しても胎児以外にはほとんど影響がない微生物だという。
ただこのトキソプラズマが感染した生き物を巧みに操っていることがわかってきた。
トキソプラズマにはネコ科の生き物の体内でのみ子孫を残せるという特徴があるため、トキソプラズマに感染したネズミは行動が大胆になり天敵であるネコに自分から近づいていくのだという。
人間の場合でも、トキソプラズマに感染した人が交通事故にある確率が高くなったという研究もある。
感染者の行動や振る舞いは体内にいる微生物に左右されていると考える研究者が現れているのだ。
人間性の中核をなす性格や人格は、遺伝や環境によって形作られるが、実は微生物もそうした遺伝や環境の一部だというのである。
実に興味深い。
種子島にいる「キタキチョウ」という蝶は、その細胞の中に暮らす「ボルバキア・ビビエンティス」という細菌が染色体を操ってメスが多くなるそうだ。
メスが産む卵を通じて細菌も子孫を残すためだという。
ただ驚くことに、こうした微生物の働きはその微生物を宿す他の生き物たち、人類の進化も促しているというのだ。

20億年前の海。
微生物たちがひしめく海の中に、人類をはじめ、すべての動植物の祖先である微生物「アーキア」もいた。
当時はアミノ酸などをエネルギーにしていた。
この頃、急速に増殖していたのが「光合成細菌」、地球を覆っていた二酸化炭素を吸収して酸素に変えることで地球環境は激変していく。
こうした変化に対応したのが酸素をエネルギーにできる微生物「好気性細菌」。
アーキアはこの好気性細菌を自らの体内に取り込むことによって環境の激変に対応し進化を遂げたとの仮説が浮上している。
取り込まれた好気性細菌は「ミトコンドリア」となって、今でも私たちの細胞の中にあって酸素を処理するとともに免疫機能などを司っているというのだ。
これぞまさに微生物との共生、人類はその進化の最初から微生物のさまざまな能力を取り込んできたのである。

4億年前、海中で暮らしていた私たちの祖先が初めて陸上に上がり、新たな進化を遂げたのも微生物の力を借りたものだという。
それまで硬いバリアーで微生物を寄せ付けなかった腸が進化し、たくさんの微生物が住める環境に変化したのである。
たとえば、植物の繊維を分解できる微生物を腸内に宿すことで草食の動物が生まれたと考えられているのだ。
植物もその根に微生物を宿すことによって、地中の窒素やリンを栄養に変えることができるようになった。
昆虫も微生物を体内に取り込むことにより、草の汁からエネルギーを得ることができるようになった。
さらに、地球の環境も微生物によって作られたもので、ドーバー海峡の白い崖は1億年前の微生物たちの化石、イエローストーンの色鮮やかな間欠泉はそれぞれ違う温度で生きる微生物たちによって描かれたものだ。
「シアノバクテリア」など光合成する微生物も多数見つかっていて、地球の酸素の50%はこうした微生物によって生み出されているという。
「リゾビウム」は空気中の窒素を植物の栄養に変える微生物、自然界にあるアンモニアや硝酸のほとんどを作り出している。
つまり私たちが生きるのに欠かせないこの大気は微生物によってコントロールされていたのだ。
さらに、砂漠に多く暮らす砂粒を分解してミネラルに変える微生物「バチルス・サブチリス」。
砂漠から舞い上がる黄砂に乗ってバチルスとそれが作り出したミネラルが遠く太平洋まで運ばれて、そのミネラル分は海に暮らす微生物の餌となり、豊かな生態系を支える重要な役割を担っていることも最近わかってきた。
微生物についての研究はまだ始まったばかり。
ほとんど何もわかっていないのに、私たちは「菌」を排除しようと安易に抗生物質などを使い過ぎているのではないか?
研究者たちはそんな問いを投げかけている。
世界中をパニックに陥れた新型コロナウイルスも、驕れる人類に目に見えない微生物の世界を教えてくれる機会だったのかもしれない。
この番組は、私の微生物に対する認識を大きく変えてくれた。
「殺菌」「除菌」「抗菌」という言葉が乱れ飛ぶ日本で、本当の意味でウイルスとの共存が進むのかどうか、今後の成り行きを興味深く見守りたいと思っている。