『おじいさんは山へ柴刈りに、おばあさんは川へ洗濯に・・・』。
昨日も書いたが、昔話に登場するこのフレーズには、夫婦円満の秘訣が隠されているように感じる。
2週間に及ぶ今回の帰省中、妻は精力的に古民家の片づけに励んでいる。
朝4時に起き出して、まだ暗いうちから家中をゴソゴソ始めるのだ。
今日は、押し入れで眠っていた和箪笥の補修。
土間に仮置きしてある古い家具の見栄えを良くしようというのである。
ホームセンターでこげ茶色の塗料を買ってきて、引き出しがなくなった箇所や表面の化粧板が剥げて白くなった部分を丁寧に塗っていく。
これまで塗料売り場に足を運んだことがなかったが、実にさまざまな塗料が売られていた。
その中からどの色の塗料がこの箪笥には合うか夫婦であれこれ迷った末、この絵の具のようなこげ茶色の塗料を選んだ。
どうやら違和感のない仕上がりになりそうだ。
白い部分が気になった和箪笥が・・・
落ち着いた印象に変わった。
全体に表面が白っぽくなり古びて見えた和箪笥だが、妻がオリーブオイルを塗って艶出しをしたおかげで少し天板の朱色も鮮やかになったようだ。
先祖が残した古い箪笥は、妻の手作業で古民家の玄関を飾る大切な家具として復活した。
伯母の農作業関係の道具が眠っていた納屋も、妻がコツコツと片付けた。
乱雑に置かれていた道具類を、ハサミ、クワなどジャンル別に整理整頓したので、どこに何があるのか容易に見つけることができるようになった。
納屋の中にはいつ誰が持ち込んだのかわからないような骨董品もたくさん置かれていたが、妻が要らないと判断した物は容赦なくゴミとして捨てられた。
私も負けじと古い農機具の再利用を画策した。
倹約家の伯母が使っていた道具はどれも古い。
しかも新しいものを買っても古い道具はそのまま置いてある。
とりあえず草刈りに使えそうな農具を選んで、サビを落として刃の部分を研磨してみようと考えた。
果たして切れ味は蘇るのか?
まず選んだのは「三角ホー」。
立ったまま雑草を刈ることができるほか、穴を掘ったり土をならしたりすることができる便利な道具だ。
しかし、全体が錆びている。
もう一本は「立鎌」。
こちらも文字通り、立ったままで鎌のように草を刈り取ることができる道具である。
こいつも刃まで錆び付いて、とても雑草を刈れる状態ではない。
伯母の家には砥石はあったものの、刃を研ぐ前にこの錆をどうにかしなければならないだろう。
ネットで錆落としグッズについて調べていると、こんなものが私の目に止まった。
ファンキーなネーミングの「さびとりアフロ君」。
電動のインパクトドライバーなどに取り付けて使うこの商品が評判良さそうだ。
ホームセンターで見つけて、衝動的に買ってしまった。
家に帰り早速インパクトドライバーに取り付けて、立鎌に試してみる。
しかし、錆が少し薄くなった程度でほとんど効果が見られない。
そんな時、伯母が使っていたものと思われる錆とり液を妻がどこからか見つけてきた。
「AZサビアウト」という比較的ポピュラーな商品で、錆と化学反応して金属を痛めずに防錆するという。
三角ホーと立鎌に「サビアウト」を塗って一日放置することにした。
液体には粘着性があり、使い古しの歯ブラシを使って「サビアウト」を金属部分全体に塗っていく。
翌日、刃先の錆が落ちてわずかではあるが金属の光が蘇っていた。
錆び取り液、なかなか強力だ。
実は「サビアウト」は金属を痛めない程度にマイルドな錆落とし剤だそうで、もっと強力な商品も売られていることを後で知った。
ここまでやれば「アフロ君」も頑張ってくれるはずだ。
そう信じて、再び「アフロ君」で立鎌を磨いてみた。
しかし・・・
いくら磨いてもほとんど効果が見られない。
期待した「さびとりアフロ君」、結局全然役に立たなかった。
しかし諦めがつかず、納屋の中にあった昔の手動式回転研磨器を持ち出してきて、それで立鎌の刃を研いでみる。
すると、接点から火花が散って、刃先の錆が少しとれた。
アフロくんよりもずっと強力ではないか。
そうして研いだ三角ホーだったが、実際に庭の雑草を削ってみると、残念ながら切れ味は至って悪く使い物にならない。
おまけに、草に引っかかって柄の部分が抜けそうになってしまった。
これほど苦労して磨いても、古い道具はやはり使いにくい。
1本1000円から数千円ぐらいで買える道具なので、本当に必要になったら新しいものを買った方がいいのではないか。
悪戦苦闘の末、私はそう判断した。
伯母も同じような道具を何本も持っていた。
切れなくなったら新しいものを買っていたのだろう。
せめて使えなくなった道具は、鉄屑として有効利用することにしよう。
とまあ、私の方の再生計画は頓挫したが、妻の断捨離は毎日順調に進められた。
仏壇がある部屋には、かつて家で宴席をする時に使ったのであろう大量の食器類が眠っていた。
近頃家で大勢の人が会食する機会も無くなったので、妻はこれらの食器も一つ一つ吟味して再利用できるものと捨てるものに分類した。
その結果、不燃ゴミの袋がどんどん増えていって納屋のスペースを占領していく。
ちょうど明日が月に一度の不燃ゴミの日なので、今日夕方、ゴミの集積場まで車で2往復して二人で大量の不燃ゴミを捨てにいった。
食器ゴミは重い。
明日の朝、収集に来る作業員の方には申し訳ない限りだ。
食堂の上にある開かずの屋根裏部屋も、妻がせっせと片付けている。
昨日は何十年分の埃をかぶったむしろやゴザを持って降り・・・
今日は、大昔に炭で暖をとった火鉢やあんかも運び出した。
重い物を運ぶのが私の役目だ。
これらは骨董品的な魅力もあるので、植木鉢や灯りとして利用できないか検討することになった。
妻は屋根裏部屋に掃除機を持ち込み、何十年分の埃を吸い取った。
不用品を捨て、使えるものだけ選り分けるうちに、こんな宝箱のようなものを発見した。
中を開けると、アルファベットで書かれた大量の手紙が出てきたのだ。
どうやら、私の父方の祖父がアメリカに行っていた時のものらしい。
祖父は私が生まれた時には既に亡くなっていて、どんな人だったのか私は全く知らない。
父は祖父のことをほとんど話さなかったが、明治の時代に農学と英語を勉強しアメリカで仕事をしていたらしい。
旅行好きな私の血は、どうやらこのおじいさんから受け継いだものだと確信した。
妻が見つけてくれた宝箱。
一体これらの手紙には何が書かれているのか、祖父はどんな人物だったのか、私の好奇心がメラメラと燃え上がった。
いずれ時間がある時に、祖父が残した遺品を整理してみよう。
私の先祖の中で、この祖父は最も面白そうな人間である予感がする。