妻が65歳の誕生日を迎えた。
いよいよ前期高齢者の仲間入りである。

朝からとてもいい天気だったので、妻を誘って久しぶりに2人で井の頭公園を散歩した。
イロハモミジの葉が赤く染まり、まさに紅葉真っ盛りである。
寒くもなく、実に気持ちのいい秋の日だ。

前期高齢者になっても特に私たちの呑気な生活には変化はない。
それでも妻の国民年金がもらえるようになるので、元気で過ごしてさえいれば家計的にはプラスになるだろう。
だから誕生日に合わせてどこか旅行でも行きたいと思っていたが、コロナの第8波がやはり気になるようで、旅行も外食もやめておくとあっさりと断られてしまった。

でもこうして秋色に染まった井の頭公園を散歩すると、ちょっとした旅行気分は味わえる。
公園をひと回りした足で、毎年恒例の誕生日プレゼントの花束を購入するために市内の花屋を何軒か回る。

今年は吉祥寺駅の駅ビル、キラリナの1階にある「フラワーショップ京王」に決めた。
妻はとにかく白い花が好きなので、店頭に飾ってあった白い花束が目についた。

花束を持ったまま、アトレの1階、ロンロン市場の魚屋「魚力」へ。
誕生日のランチに妻が選んだのは、日頃からよく利用しているこの魚屋のお寿司だった。

本日のおすすめの「魚力市場寿司」(1290円)と週末特売「生本まぐろづくし」(1990円)を買って家に戻る。
ゾウの絵柄が描かれた大皿に寿司を並べてお祝いランチの装いを整える。

ウニやイクラといった高級食材はことごとく苦手な妻にとって「魚力市場寿司」は白身魚が多くてよかったらしい。
昼食後は前々からの懸案である台所のリフォームについて2人で相談したり、のんびりとした午後を過ごす。
どこに出かけても人でごった返す休日の誕生日は、ジタバタせずにゆっくりと自宅で過ごすのも悪くない。

そして午後3時からは毎日欠かさず見ている大相撲中継。
12勝2敗で単独トップに立っていた高安が平幕の阿炎に敗れ、思わず「あ〜〜!」と声が出た。
そして大関貴景勝と高安、阿炎の3人による優勝決定戦となった。
幕内での巴戦は1994年以来、実に28年ぶり7回目だという。
3人とも私のご贔屓力士なので誰が勝ってもいいのだが、今場所はなんとか高安に勝たせてやりたいと思いながら土俵を見つめる。
まず最初は、高安 vs 阿炎。
立ち会い、阿炎が左に変わり、上から高安の頭を押さえつける。
次の瞬間、高安がガクッと土俵に崩れ、痙攣し始めた。
どうやら当たった瞬間に首を痛めたらしい。
一瞬で勝負は決し、阿炎が勝ち残った。

次の対戦は、阿炎 vs 貴景勝。
今度は阿炎が鋭く突っ込み、立ち遅れた貴景勝を一気に土俵際まで追い詰めた。
結びの相撲で若隆景を破り、力を使い切った貴景勝はあっけなく土俵を割った。
28年ぶりの巴戦は、誰が勝ってもおかしくない興奮しながら見守ったが、拍子抜けするほどあっさりと阿炎の初優勝が決まってしまった。

何度も優勝争いを演じ、その都度メンタルの弱さを指摘されてきた高安は今回もまた優勝には届かなかった。
優勝決定戦に敗れ、控室に引き揚げた高安は悔し涙を流していたという。
今場所は、高安に勝たせたかった。
つくづく、勝利の女神から見放された力士だ。

高安の悲願の初優勝を待ち望んでいた会場に白けた空気が流れる中、優勝会見に臨んだ阿炎。
コロナによる自粛中にキャバクラに出入りして謹慎処分を受け幕下まで陥落するなどそのやんちゃぶりでたびたび迷惑をかけた師匠への感謝を語った。
実力で言えば現在の角界で有数。
千秋楽の連勝で優勝をかっさらった阿炎の初優勝を私は素直に祝福したいと思った。

こうして波乱の大相撲が終わった直後、玄関のチャイムが鳴った。
誕生日の夕食に選んだ「志乃ざき」のうな重が届いたのだ。
「上うな重」(5500円)を2つ。
出前で届いたうな重はまだ温かかくて、いつものように美味しかった。

65歳になった妻の誕生日。
全く派手さのない平凡な1日だったが、特別ではないこうした日が幸せっていうんじゃないか。
穏やかで温かく、妻と2人の生活をできるだけ長くエンジョイしていければと思う。