今朝、窓から外を眺めると、雲の切れ間から神々しい光が差し込んでいた。
とても厳粛な光景に感じられ、自然にカメラを手にしていた。
季節は進み、今日から二十四節気の「大雪」。
「北風日増しに強く、雪おおいに降る」頃となる。
そして「大雪」の初候は「閉塞成冬(そらさむくふゆとなる)」という。
「冬気強まり、人も生き物も万物みな閉じふさがる頃」という意味だそうだ。
先週まで暖かな日が続いていたが、昨日はこの冬いちばん、1月並みの寒さということで、部屋の中にいても肌寒さを感じる。
人間もそろそろ冬眠の時期か・・・。
そうしてぼんやりと外を眺めていると、井の頭池近くの樹木の上から何やら湯気のようなものが立ち上っているのに気がついた。
白い帯のようなものがゆらゆらと動いている。
それはまるで、樹木から生気が抜き取られていくような、または樹木に宿っていた精霊が天に帰っていくような光景に私には見えた。
「閉塞成冬(そらさむくふゆとなる)」。
万物みな閉じふさがる頃にふさわしい現象だろうか?
カメラを望遠にして動画を撮影してみた。
肉眼ではよくわからなかったが、レンズを通してみると、それが小さな虫の集合体であることがはっきりとわかる。
いったい何の虫だろう?
ネットで調べてみると「蚊柱」という言葉がヒットした。
体長5ミリほどの「ユスリカ」は水温が下がる今の季節に一斉に成虫となり、子孫を残すために集団を作って交尾をするのだそうだ。
蚊柱が形成される理由は交尾のためで、成虫は交尾を済ませ産卵を終えるとすぐに死ぬ。成虫の寿命は長くても1-数日ぐらいである。また、成虫は口器が無く消化器も退化して痕跡化しているので、一切餌を摂る事ができない。
出典:ウィキペディア
交尾のためだけに成虫となるために、口がなく消化器も持たないユスリカたち。
何とも「切ない」生き物ではないか。
しかし、子孫を残すことこそ生物の本質だと考えれば、ユスリカほど潔い生き物はいないとも言える。
1匹のメスに無数のオスが群がって形成されているというユスリカの「蚊柱」。
それに比べて人間はありがたいことに、口や消化器はもちろん、自分で物事を考えることができる頭脳も授けられている。
そのため子孫を残すという生物の本質にすら疑問を抱き、次第に子供を作らないという生き方も世界に広がりつつあるわけだ。
少子化は、人類が一般的な生物から大きく進化してしまった結果なのである。
人類は、技術革新によって自然を破壊し、他の生き物の生存を脅かすまでに数が増えすぎてしまった。
今、世界が直面している「少子化」という問題は、増えすぎてしまった人口を調整のために不可欠な現象であり、これこそが自然の摂理なのかもしれない。
さて、今日12月7日は、認知症のために入院している伯母の誕生日でもある。
伯母は今日90歳となった。
病院に電話してお祝いを伝え、「本当に長いこと生きたなあ」と言うと、「ほんまになあ」と伯母は嬉しそうに答えた。
その声はとても元気そうだ。
「私もそろそろ帰らんとおえんのじゃ」と口にはするが、もうすっかり病院生活になじんだ様子がうかがえた。
あのまま食事も満足にできない状態で自宅に一人で暮らしていたら、冬の寒さできっと病気になっていただろう。
そうして早死にするのが伯母の願いだったのかもしれないが、それを放っておくのはやはり忍びない。
自宅にいる頃、「もう棺桶に両足突っ込んどるんじゃから」とよく口にしていたが、最近その常套句が伯母の口から聞かなくなった。
これはひょっとすると、以前よりも体調がよくなったせいなのだろうか?
老人介護ということでいえば、妻の母親である義母の様子も気がかりになってきたらしい。
義母もすでに89歳となり、会うたびに心身ともに衰えを感じるようになった。
このところの妻の心配は、主に2つある。
一つは、義母が長年利用している生協の宅配サービスの注文が難しくなっていること。
冷蔵庫の中身を確認することもなく、これまでと同じように大量の食品を注文するため、冷凍食品などが冷蔵庫に収まりきらず、それを何度注意してもよくわからないのだという。
もう一つはもっと深刻で、薬の飲み方が危なくなってしまった。
睡眠薬が足りないと義母がいうので医師に相談すると、「もっと寝たいから」という理由で処方された量以上の睡眠薬を飲んでいるので足らなくなるということがわかったという。
睡眠薬を大量に飲むと命を危険に晒すだろうと妻は心配しているのだ。
かかりつけ医からは施設への入居を勧められているようだが、義母はまだ自宅にいることを希望し、妻の兄弟たちもなるべくその気持ちを尊重したいということで、妻にとってはそれが大きなストレスになっていると私に愚痴をこぼす。
人生の最後をどのように終えるのか?
家族はそれをどのように見送ればいいのか?
介護の問題は、死生観の問題でもあり、人によって考え方には大きな違いがある。
事故が起きる前に施設に入ってもらいたいという妻の気持ちもわかるが、たとえ事故が起きるリスクがあっても自宅に留まりたいという義母の気持ちもよくわかる。
私の考えは明らかに後者なのだ。
だから、ことあるごとに妻とは意見が対立するので、義母に関することについては私は一切余計な口出しはしないことに決めている。
ただ兄弟間で介護方針について意見が異なると、今後様々な判断のたびに妻のストレスが高まりそうで、私にはそれが一番心配である。
寒空の下、井の頭公園を散歩する。
還暦を過ぎた私は、植物で言えばそろそろ紅葉シーズンを迎える時期かもしれない、と思う。
実際には枯れ始めているのだが、その有り様によっては人をおおいに楽しませることもできる。
社会人としての責任から解放されて、本当の自分自身と向き合い、好きなことをとことん突き詰めることが許される年頃になったということであり、それが人間にとってまさしく「紅葉」であろう。
ただ枯れ落ちるのではなく、赤や黄色に美しく変化して、まわりの人たちを喜ばせたい。
だとすると、紅葉シーズン終盤の今日あたりは、人間で言うと何歳ぐらいに当てはまるのか?
多くの葉はすでに枯れ落ちてはいるが、まだ随所に美しさを止めている。
むしろ紅葉のピーク時よりも味わいが増したように見える場所さえある。
私の勝手な見立てでは、今日は人間で言えば85歳。
できることならば、このくらいで人生を終えたいなあと私は密かに思うのだ。
私の伯母も義母は、すでにすべての葉を散らしたカツラの木のような感じか。
「もう十分生きたから、いつ死んでもいい」
「早く迎えが来て欲しい」
2人の口からはそんな言葉も聞いたことがある。
もしも自分が90歳まで生きたとすると、どんな気持ちになるのだろう?
今からそれを想像するのは難しい。
63歳になった今の私の心持ちをバリバリ働いていた50代の私が想像できなかったのと同じことだ。
ひょっとすると、すべての葉が落ちて人から見ると枝だけの寂しい姿になったとしても、心の中はすごく満ち足りているのかもしれない。
無理して長生きをする必要はないが、無理に死に急ぐこともない。
その歳になった自分と素直に向き合って、その時にやりたいと思ったことをやり続けていくのが生きるということなのだろう。
話はガラッと変わるが、昨夜こんなことがあった。
夜の12時すぎにベッドに入りちょうど眠りに落ちかけた時、突然びっくりするような大声が部屋に響いた。
「電池切れです 電池切れです」
私はすぐに飛び起きて電気をつける。
いったい何が電池切れなのか?
音のする方を見ると、妻のスマホと携帯電話が置いてある。
確かめると両方ともバッテリーがほぼエンプティー状態になっている。
あわてて充電コードを差し込んだが、冷静になって考えると、スマホってこんな警報音が鳴るものだろうかという疑問に思い当たった。
「電池切れです 電池切れです」という女性の絶叫はすぐに止まり、その後は定期的に「ピッ」という警報音だけが鳴っているのだが、スマホを充電し始めてもその警報音は止まらなかった。
明らかに別の何かが鳴っている。
警報音は30〜40秒間隔で鳴り続けている。
それを無視して寝てしまおうかといったんベッドに戻ったが、定期的に響くその警報音は耳障りな鋭い音でとても寝ていられそうになかった。
仕方なくまた起き出して音がどこから聞こえるのかじっと耳を澄ます。
「ピッ」と音がなる。
台所の方から聞こえた。
炊飯器やレンジをチェックするがどうも犯人ではなさそうだ。
テーブルの下や食料が詰まった箱の中も捜索する。
しかし一向に音の主は見つからない。
せめてずっと鳴り続けていてくれれば判別しやすいだろうが、この警報音は30〜40秒に1回、「ピッ」と鋭い音がするだけ。
警察犬のように一瞬で音の方向を探り当てる能力は、どうやら私には備わっていないようだ。
どれぐらいの時間、台所の中を探し回っただろうか。
おそらく10分、ひょっとすると20分か?
そしてついに・・・私は見つけた!
犯人はコイツ・・・台所の天井近くにぶら下げられていたガス漏れ警報器である。
ずっと下ばかり探していて、ふと視線を上にあげた時、赤いランプが点滅しているのが目に入った。
ガス漏れを検知して音声で知らせるこの小さな器具は普段触ることもないので、この場所に設置されていることさえ私は認識していなかった。
それにしても・・・である。
異常を見つけたらそれを大声で知らせるのは警報器の任務とはいえ、電池切れごときでこんな大騒ぎをしなくてもよいではないか。
しかも人がまさに寝ようとしている真夜中に・・・。
ところが、別室で寝ていた妻はこの騒ぎに全く気づかなかったらしい。
朝、「昨夜は大変だったんだよ」と話すと、「そろそろ電池が切れる頃かなと思ってたの」と妻は平然と答えた。
あまりに反応の薄い妻を見ながら、「さすが主婦、家のことは何でも頭に入っているんだ」と私は妙なところで感心しながら、頭の中で変な想像を膨らませていた。
もしも人間にもこんな警報装置が付いていて、寿命が切れそうになった時、大声で知らせてくれたらどうだろう?
死生観が違う人でも、警報が鳴ったから仕方がないねと諦めて、施設に入ることをすんなりと受け入れるだろうか?
いやいや、私も含めて、人間はそんなに単純なものではない。
歳をとればますます頑固になる。
それが人間、だからこそ人間なのだ。
色づいた葉っぱが頭上からハラハラと落ちてきて、冬の装いに塗り変わりつつある井の頭公園を眺めながら、そんな愚にもつかないことを考えたりした。
【トイレの歳時記2021】
- 七十二候の「芹乃栄(せりすなわちさかう)」に中国と香港について考える #210106
- 七十二候「水泉動(すいせんうごく)」に考えるステイホームの過ごし方 #210110
- 七十二候の「雉始雊(きじはじめてなく)」にキジを見に井の頭自然文化園に行ってみた #210115
- 七十二候「款冬華(ふきのはなさく)」に「大寒」の井の頭公園を歩く #210120
- 七十二候「水沢腹堅(さわみずこおりつめる)」と初場所・初縁日 #210125
- 七十二候「鶏始乳(にわとりはじめてとやにつく)」に紀ノ国屋で二番目に高い卵を買う #210130
- 七十二候「東風解凍(はるかぜこおりをとく)」に立春をさがす #210203
- 七十二候「黄鶯睍睆(うぐいすなく)」に考える「野生のインコ」と「生物季節観測」のお話 #210208
- 七十二候「魚上氷(うおこおりをいずる)」、日本にもワクチンが届いた #210213
- 七十二候「土脉潤起(つちのしょううるおいおこる)」、ワクチン接種も始まった #210218
- 七十二候「霞始靆(かすみはじめてたなびく)」、霞と霧と靄の違いを調べる #210223
- 七十二候「草木萌動(そうもくめばえいずる)」に草木の『萌え』を探す #210228
- 七十二候「蟄虫啓戸(すごもりむしとをひらく)」に早咲きの桜を愛でる #210305
- 七十二候「桃始笑(ももはじめてさく)」、梅と桜と桃の見分け方 #210310
- 七十二候「菜虫化蝶(なむしちょうとなる)」、公園の花見会場は封鎖されていた #210315
- 七十二候「雀始巣(すずめはじめてすくう)」、やっぱり「春はセンバツから!」 #210320
- 七十二候「桜始開(さくらはじめてひらく)」に見回る2021年お花見事情 #210325
- 七十二候「雷乃発声(かみなりすなわちこえをはっす)」、雨上がりの井の頭公園は極楽のようだった #210330
- 七十二候「玄鳥至(つばめきたる)」、伯母の家にもツバメと医者がやってきた #210404
- 七十二候「鴻雁北(こうがんきたへかえる)」、井の頭公園から渡り鳥が消えた #210409
- 七十二候「虹始見(にじはじめてあらわる)」に知る鴨長明の「ひとりを愉しむ極意」 #210414
- 七十二候「葭始生(あしはじめてしょうず)」、水草は生き物たちのパラダイス #210420
- 七十二候「霜止出苗(しもやんでなえいづる)」、岡山の伯母に「要支援1」が出た #210426
- 七十二候「牡丹華(ぼたんはなさく)」に「ツツジ」と「サツキ」と永井荷風を知る #210430
- 七十二候「蛙始鳴(かわずはじめてなく)」、カエルは鳴かずとも夏は来る #210505
- 七十二候「蚯蚓出(みみずいづる)」、三男の結婚式の行方 #210510
- 七十二候「竹笋生(たけのこしょうず)」、緊急事態宣言が出た岡山の竹藪を想う #210515
- 七十二候「蚕起食桑(かいこおきてくわをはむ)」に日本の伝統産業「養蚕」を学ぶ #210521
- 七十二候「紅花栄(べにばなさかう)」に観察するアジサイの花とスッポンの子ども #210526
- 七十二候「麦秋至(むぎのときいたる)」、カワウやカイツブリの子育てもそろそろ終盤 #210531
- 七十二候「螳螂生(かまきりしょうず)」に考える「共食い」という現象 #210605
- 七十二候「腐草為蛍(くされたるくさほたるとなる)」に三鷹「ほたるの里」で蛍狩り #210610
- 七十二候「梅子黄(うめのみきばむ)」、梅雨入りに梅ジャムを食す #210615
- 七十二候「乃東枯(なつかれくさかるる)」、夏至に家族写真を飾る #210621
- 七十二候「菖蒲華(あやめはなさく)」、アヤメとショウブとカキツバタ #210627
- 七十二候「半夏生(はんげしょうず)」、妻のワクチン予約をする #210702
- 七十二候「温風至(あつかぜいたる)」、東京五輪の”無観客”が決定 #210709
- 七十二候「蓮始開(はすはじめてひらく)」、伯母を病院に連れて行く #210712
- 七十二候「鷹乃学習(たかすなわちわざをなす)」、自殺した林真須美死刑囚の娘 #210717
- 七十二候「桐始結花(きりはじめてはなをむすぶ)」、感染拡大の中でオリンピックが始まった #210722
- 七十二候「土潤溽暑(つちうるおうてむしあつし)」、台風とともにコロナ感染者も過去最高2848人に #210728
- 七十二候「大雨時行(たいうときどきにふる)」、コロナと五輪の中で迎えた39回目の結婚記念日 #210801
- 七十二候「涼風至(すづかぜいたる)」、期待の“リレー侍”バトンミスの衝撃 #210807
- 七十二候「寒蝉鳴(ひぐらしなく)」、井の頭公園にもヒグラシが鳴く #210812
- 七十二候「蒙霧升降(ふかききりまとう)」に認知症の伯母が入院した #210817
- 七十二候「綿柎開(わたのはなしべひらく)」、残暑の中に感じる秋の気配 #210823
- 七十二候「天地始粛(てんちはじめてさむし)」、アフガンの混乱とニクソン・ショックから50年 #210828
- 七十二候「禾乃登(こくものすなわちみのる)」、霊園の当選通知が届いた日に妻がワクチンを射つ #210902
- 七十二候「草露白(くさのつゆしろし)」、7日連続の25度未満は113年ぶりの低温記録 #210907
- 七十二候「鶺鴒鳴(せきれいなく)」に鳥たちの空中戦を見る #210912
- 七十二候「玄鳥去(つばめさる)」に考える男の「老い」 #210917
- 七十二候「雷乃収声(かみなりすなわちこえをおさむ)」に妻が2度目のワクチン接種を終える #210923
- 七十二候「蟄虫坏戸(むしかくれてとをふさぐ)」、ウイルスはどこに隠れたのか? #210928
- 七十二候「水始涸(みずはじめてかる)」に気持ちの良い水辺を歩く #211003
- 七十二候「鴻雁来(こうがんきたる)」に感じる首都直下地震のリアル #211008
- 七十二候「菊花開(きくのはなひらく)」にセイタカアワダチソウの黄色い花が満開だ #211013
- 七十二候「蟋蟀在戸(きりぎりすとにあり)」に浮上したシロアリ問題 #211018
- 七十二候「霜始降(しもはじめてふる)」に清々しい秋の公園を歩く #211023
- 七十二候「霎時施(こさめときどきふる)」、健康診断を受けてカレンダーを買う #211028
- 七十二候「楓蔦黄(もみじつたきばむ)」に旧「葡萄屋」脇の道路が陥没した #211102
- 七十二候「山茶始開(つばきはじめてひらく)」、ツバキとサザンカの違いとは #211107
- 七十二候「地始凍(ちはじめてこおる)」に考える来年からの「隠居」計画 #211112
- 七十二候「金盞香(きんせんかさく)」に母を連れて「むらかみ農園」に行く #211117
- 七十二候「虹蔵不見(にじかくれてみえず)」、陰気な雨の中を東京に戻る #211122
- 七十二候「朔風払葉(きたかぜこのはをはらう)」、コロナバブルはいつ崩壊するのか? #211127
- 七十二候「橘始黄(たちばなはじめてきばむ)」に謎のマシーンが水上を走る #211202
- 七十二候「閉塞成冬(そらさむくふゆとなる)」に知る蚊柱とガス警報器の話 #211207