<吉祥寺残日録>トイレの歳時記❄️七十二候「閉塞成冬(そらさむくふゆとなる)」に知る蚊柱とガス警報器の話 #211207

今朝、窓から外を眺めると、雲の切れ間から神々しい光が差し込んでいた。

とても厳粛な光景に感じられ、自然にカメラを手にしていた。

季節は進み、今日から二十四節気の「大雪」。

「北風日増しに強く、雪おおいに降る」頃となる。

そして「大雪」の初候は「閉塞成冬(そらさむくふゆとなる)」という。

「冬気強まり、人も生き物も万物みな閉じふさがる頃」という意味だそうだ。

先週まで暖かな日が続いていたが、昨日はこの冬いちばん、1月並みの寒さということで、部屋の中にいても肌寒さを感じる。

人間もそろそろ冬眠の時期か・・・。

そうしてぼんやりと外を眺めていると、井の頭池近くの樹木の上から何やら湯気のようなものが立ち上っているのに気がついた。

白い帯のようなものがゆらゆらと動いている。

それはまるで、樹木から生気が抜き取られていくような、または樹木に宿っていた精霊が天に帰っていくような光景に私には見えた。

「閉塞成冬(そらさむくふゆとなる)」。

万物みな閉じふさがる頃にふさわしい現象だろうか?

カメラを望遠にして動画を撮影してみた。

肉眼ではよくわからなかったが、レンズを通してみると、それが小さな虫の集合体であることがはっきりとわかる。

いったい何の虫だろう?

ネットで調べてみると「蚊柱」という言葉がヒットした。

体長5ミリほどの「ユスリカ」は水温が下がる今の季節に一斉に成虫となり、子孫を残すために集団を作って交尾をするのだそうだ。

蚊柱が形成される理由は交尾のためで、成虫は交尾を済ませ産卵を終えるとすぐに死ぬ。成虫の寿命は長くても1-数日ぐらいである。また、成虫は口器が無く消化器も退化して痕跡化しているので、一切餌を摂る事ができない。

出典:ウィキペディア

交尾のためだけに成虫となるために、口がなく消化器も持たないユスリカたち。

何とも「切ない」生き物ではないか。

しかし、子孫を残すことこそ生物の本質だと考えれば、ユスリカほど潔い生き物はいないとも言える。

1匹のメスに無数のオスが群がって形成されているというユスリカの「蚊柱」。

それに比べて人間はありがたいことに、口や消化器はもちろん、自分で物事を考えることができる頭脳も授けられている。

そのため子孫を残すという生物の本質にすら疑問を抱き、次第に子供を作らないという生き方も世界に広がりつつあるわけだ。

少子化は、人類が一般的な生物から大きく進化してしまった結果なのである。

人類は、技術革新によって自然を破壊し、他の生き物の生存を脅かすまでに数が増えすぎてしまった。

今、世界が直面している「少子化」という問題は、増えすぎてしまった人口を調整のために不可欠な現象であり、これこそが自然の摂理なのかもしれない。

さて、今日12月7日は、認知症のために入院している伯母の誕生日でもある。

伯母は今日90歳となった。

病院に電話してお祝いを伝え、「本当に長いこと生きたなあ」と言うと、「ほんまになあ」と伯母は嬉しそうに答えた。

その声はとても元気そうだ。

「私もそろそろ帰らんとおえんのじゃ」と口にはするが、もうすっかり病院生活になじんだ様子がうかがえた。

あのまま食事も満足にできない状態で自宅に一人で暮らしていたら、冬の寒さできっと病気になっていただろう。

そうして早死にするのが伯母の願いだったのかもしれないが、それを放っておくのはやはり忍びない。

自宅にいる頃、「もう棺桶に両足突っ込んどるんじゃから」とよく口にしていたが、最近その常套句が伯母の口から聞かなくなった。

これはひょっとすると、以前よりも体調がよくなったせいなのだろうか?

老人介護ということでいえば、妻の母親である義母の様子も気がかりになってきたらしい。

義母もすでに89歳となり、会うたびに心身ともに衰えを感じるようになった。

このところの妻の心配は、主に2つある。

一つは、義母が長年利用している生協の宅配サービスの注文が難しくなっていること。

冷蔵庫の中身を確認することもなく、これまでと同じように大量の食品を注文するため、冷凍食品などが冷蔵庫に収まりきらず、それを何度注意してもよくわからないのだという。

もう一つはもっと深刻で、薬の飲み方が危なくなってしまった。

睡眠薬が足りないと義母がいうので医師に相談すると、「もっと寝たいから」という理由で処方された量以上の睡眠薬を飲んでいるので足らなくなるということがわかったという。

睡眠薬を大量に飲むと命を危険に晒すだろうと妻は心配しているのだ。

かかりつけ医からは施設への入居を勧められているようだが、義母はまだ自宅にいることを希望し、妻の兄弟たちもなるべくその気持ちを尊重したいということで、妻にとってはそれが大きなストレスになっていると私に愚痴をこぼす。

人生の最後をどのように終えるのか?

家族はそれをどのように見送ればいいのか?

介護の問題は、死生観の問題でもあり、人によって考え方には大きな違いがある。

事故が起きる前に施設に入ってもらいたいという妻の気持ちもわかるが、たとえ事故が起きるリスクがあっても自宅に留まりたいという義母の気持ちもよくわかる。

私の考えは明らかに後者なのだ。

だから、ことあるごとに妻とは意見が対立するので、義母に関することについては私は一切余計な口出しはしないことに決めている。

ただ兄弟間で介護方針について意見が異なると、今後様々な判断のたびに妻のストレスが高まりそうで、私にはそれが一番心配である。

寒空の下、井の頭公園を散歩する。

還暦を過ぎた私は、植物で言えばそろそろ紅葉シーズンを迎える時期かもしれない、と思う。

実際には枯れ始めているのだが、その有り様によっては人をおおいに楽しませることもできる。

社会人としての責任から解放されて、本当の自分自身と向き合い、好きなことをとことん突き詰めることが許される年頃になったということであり、それが人間にとってまさしく「紅葉」であろう。

ただ枯れ落ちるのではなく、赤や黄色に美しく変化して、まわりの人たちを喜ばせたい。

だとすると、紅葉シーズン終盤の今日あたりは、人間で言うと何歳ぐらいに当てはまるのか?

多くの葉はすでに枯れ落ちてはいるが、まだ随所に美しさを止めている。

むしろ紅葉のピーク時よりも味わいが増したように見える場所さえある。

私の勝手な見立てでは、今日は人間で言えば85歳。

できることならば、このくらいで人生を終えたいなあと私は密かに思うのだ。

私の伯母も義母は、すでにすべての葉を散らしたカツラの木のような感じか。

「もう十分生きたから、いつ死んでもいい」

「早く迎えが来て欲しい」

2人の口からはそんな言葉も聞いたことがある。

もしも自分が90歳まで生きたとすると、どんな気持ちになるのだろう?

今からそれを想像するのは難しい。

63歳になった今の私の心持ちをバリバリ働いていた50代の私が想像できなかったのと同じことだ。

ひょっとすると、すべての葉が落ちて人から見ると枝だけの寂しい姿になったとしても、心の中はすごく満ち足りているのかもしれない。

無理して長生きをする必要はないが、無理に死に急ぐこともない。

その歳になった自分と素直に向き合って、その時にやりたいと思ったことをやり続けていくのが生きるということなのだろう。

話はガラッと変わるが、昨夜こんなことがあった。

夜の12時すぎにベッドに入りちょうど眠りに落ちかけた時、突然びっくりするような大声が部屋に響いた。

「電池切れです 電池切れです」

私はすぐに飛び起きて電気をつける。

いったい何が電池切れなのか?

音のする方を見ると、妻のスマホと携帯電話が置いてある。

確かめると両方ともバッテリーがほぼエンプティー状態になっている。

あわてて充電コードを差し込んだが、冷静になって考えると、スマホってこんな警報音が鳴るものだろうかという疑問に思い当たった。

「電池切れです 電池切れです」という女性の絶叫はすぐに止まり、その後は定期的に「ピッ」という警報音だけが鳴っているのだが、スマホを充電し始めてもその警報音は止まらなかった。

明らかに別の何かが鳴っている。

警報音は30〜40秒間隔で鳴り続けている。

それを無視して寝てしまおうかといったんベッドに戻ったが、定期的に響くその警報音は耳障りな鋭い音でとても寝ていられそうになかった。

仕方なくまた起き出して音がどこから聞こえるのかじっと耳を澄ます。

「ピッ」と音がなる。

台所の方から聞こえた。

炊飯器やレンジをチェックするがどうも犯人ではなさそうだ。

テーブルの下や食料が詰まった箱の中も捜索する。

しかし一向に音の主は見つからない。

せめてずっと鳴り続けていてくれれば判別しやすいだろうが、この警報音は30〜40秒に1回、「ピッ」と鋭い音がするだけ。

警察犬のように一瞬で音の方向を探り当てる能力は、どうやら私には備わっていないようだ。

どれぐらいの時間、台所の中を探し回っただろうか。

おそらく10分、ひょっとすると20分か?

そしてついに・・・私は見つけた!

犯人はコイツ・・・台所の天井近くにぶら下げられていたガス漏れ警報器である。

ずっと下ばかり探していて、ふと視線を上にあげた時、赤いランプが点滅しているのが目に入った。

ガス漏れを検知して音声で知らせるこの小さな器具は普段触ることもないので、この場所に設置されていることさえ私は認識していなかった。

それにしても・・・である。

異常を見つけたらそれを大声で知らせるのは警報器の任務とはいえ、電池切れごときでこんな大騒ぎをしなくてもよいではないか。

しかも人がまさに寝ようとしている真夜中に・・・。

ところが、別室で寝ていた妻はこの騒ぎに全く気づかなかったらしい。

朝、「昨夜は大変だったんだよ」と話すと、「そろそろ電池が切れる頃かなと思ってたの」と妻は平然と答えた。

あまりに反応の薄い妻を見ながら、「さすが主婦、家のことは何でも頭に入っているんだ」と私は妙なところで感心しながら、頭の中で変な想像を膨らませていた。

もしも人間にもこんな警報装置が付いていて、寿命が切れそうになった時、大声で知らせてくれたらどうだろう?

死生観が違う人でも、警報が鳴ったから仕方がないねと諦めて、施設に入ることをすんなりと受け入れるだろうか?

いやいや、私も含めて、人間はそんなに単純なものではない。

歳をとればますます頑固になる。

それが人間、だからこそ人間なのだ。

色づいた葉っぱが頭上からハラハラと落ちてきて、冬の装いに塗り変わりつつある井の頭公園を眺めながら、そんな愚にもつかないことを考えたりした。

<吉祥寺残日録>トイレの歳時記❄️七十二候「地始凍(ちはじめてこおる)」に考える来年からの「隠居」計画 #211112

【トイレの歳時記2021】

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  4. 七十二候「款冬華(ふきのはなさく)」に「大寒」の井の頭公園を歩く #210120
  5. 七十二候「水沢腹堅(さわみずこおりつめる)」と初場所・初縁日 #210125
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