政府提案の法案すべてが可決される無風の通常国会が閉幕した。
その最終日に可決成立したのが子ども行政の司令塔となる「こども家庭庁」の設置関連法だった。

こども家庭庁は首相の直轄組織で、専任の閣僚や長官を配置する。厚生労働省や地方自治体などからも職員を集め、300人規模の体制となる見込みだ。厚労省や内閣府の子ども関係の部局はほぼすべてを新組織に移管する。
厚労省所管の保育所と内閣府の認定こども園を担う一方で、幼稚園や義務教育などの教育分野は変わらず文部科学省が担当する。長年の検討課題だった幼保一元化は見送る。
岸田文雄首相は子ども関連予算の倍増を掲げる。
引用:日本経済新聞
政府が子ども政策に本腰を入れるのは大歓迎だが、果たしてどのような実効性があるのか来年4月に予定される「こども家庭庁」の実態を見てみないと何とも言えない。
防衛予算も子ども関連予算も倍増するという岸田総理。
しかしこの借金まみれの日本政府のどこに財源を見つけるのだろう?

「こども家庭庁」の設置が決まる一方で、ちょっと驚くべき数字を耳にした。
内閣府が発表した男女共同参画白書。
これによれば、20代女性のおよそ5割、男性のおよそ7割が「配偶者や恋人がいない」と回答したという。
20代男性の場合、40%が「一度もデートしたことがない」のだそうだ。
結婚しない若者が増えているということは随分前から大きな問題になっているものの、ここまで深刻な状態とは正直思っていなかった。
うちの3人の息子たちはみんな20代で結婚してそれぞれ家庭をもっているので気づかなかったが、これって今や3割の少数者に属する現象なんだという事実に愕然とさせられる。

昨日、大学時代の友人と吉祥寺で飲んだのだが、その友人の2人の娘もまだ未婚だという。
30歳と28歳。
上の子は結婚する気はあるが出会いがなく、下の子はまったく結婚する意思がないそうだ。
昔ならば未婚のまま30歳を迎えると、周囲がどんどん結婚していくので焦りの気持ちも芽生えただろうが、今ではむしろ結婚する方が少ないのだから急いで相手を探そうという気が起きないのも無理はない。
日本人は昔から同調圧力の強い国民性であり、マジョリティに属していた方が居心地がいいという文化があるのだ。

それにしても、結婚はともかくとして恋人もいない、デートしたこともないというのはどうしたことだろう。
子どもの頃から親や学校に管理され、生物としての本能である生殖能力が著しく退化してしまったのだろうか?
子どもの周囲から性的な刺激を徹底的に排除してきた現代の日本社会が、中性化した子どもたちを量産している。
私が子どもだった頃には街の至るところにロマンポルノのポスターが貼られ、キャバレーの呼び込みも堂々と行われていた。
テレビでも深夜には「11PM」に代表される大人の時間があって、ドラマも王道はラブストーリーだった。
こうした環境に育っていると、自然と性的な好奇心が育まれ、大学生ともなれば女の子をゲットするために一生懸命コンパに精を出したものだ。

結婚するかしないかは別にして、男女の交際がなければ子どもは生まれない。
1人の女性が生涯に産む子ども数を示す合計特殊出生率は昨年1.30となり、6年連続で下落したという。
その背景としてよく指摘されるのは、若者たちの貧困。
高齢者が個人資産の大半を所有し、再雇用制度の義務化によってシニア社員が長く会社に居座り、若者たちの多くが非正規やフリーランスの低賃金労働に追いやられているという悪循環がある。
生まれた時から同世代の数が少ないため、どうしても高齢者に比べて彼らの声は政治に届きにくい。
政府はずっと少子化対策の重要性を訴えてきたが、世代間格差の是正に本気で取り組もうとはしなかった。

私個人は、少子化自体がさほど悪いとは思っていない。
少子化を国力の衰えとして嘆く政治家が多いが、子どもは国内マーケットを支えるために産むものではないだろう。
幸福度の高い北欧諸国はどこも人口は少ないが、一人当たりのGDPは日本よりも高い。
問題なのは、子どもや若者に十分なチャンスが与えられることである。
そのためには、学校教育はもっと子どもたちの個性や能力を引き出し伸ばすものであるべきだし、社会も若者たちの声を聞き、彼らを既存の枠組みに押し込むのではなく、新しい発想でチャレンジすることを応援する環境を整えるべきなのだ。
日本から世界的なイノベーションが生まれなくなっているのは、いつまでも年寄りが会社にしがみつき昔ながらのアナログな発想から抜け出せないからである。
経験値の足りない若者は失敗する可能性が高い。
でも彼らが失敗しないよう先回りして無難な道を大人が用意するのはやめるべきだ。
若者は馬鹿者。
失敗してもまだ立ち直れる時間が彼らにはある。

私のささやかな成功体験を話すとすれば、高校を卒業した息子たちを強制的に家から追い出し限られた仕送りで一人暮らしをさせたのは本当に良かったと思っている。
彼らは風呂なしの安アパートから自分の人生をスタートした。
アルバイトをして風呂のあるアパートに引っ越し、学生時代にいろいろと不便な暮らしを経験したわけだ。
家にいれば母親が家事をしてくれて、高校時代までと何も変わらない。
大学生は大人の入り口である。
大人として自分の足で歩まなければならない代わりに、親の干渉から離れて自分の自由になる住処を手に入れたのだ。
するといつの間にか女の子の影がチラつくようになる。
たまに覗くと、乱雑だったアパートの中がきれいになっていたり、身なりが少しおしゃれになったり変化が現れるのだ。
そうして親が結婚相手を探さなくても、いつの間にか彼女を作って家に連れてくるようになった。
子育てを妻に任せっぱなしだった私が唯一自慢できる経験談である。
息子たちに言わせると、そんなことは関係ないと言うかもしれないが、親や学校の過干渉が子どもたちをいつまで経っても大人にさせない最大の要因だと私は考えるのだ。

「こども家庭庁」を作ったからといって、少子化問題が解決するとは思えない。
コロナ禍で羽目を外す若者を社会がバッシングしたように、若者たちが馬鹿な行動を取ることを私たちはもっと許容し、むしろ奨励するぐらいでなければ何も変わらないだろう。
少子化問題を解決したいのであれば、まず大人たちが自らの行いを改める必要がある。
もっと子どもの好きなようにさせてやればいいのだ。
政府がやるべきことは新たなルールを作ることではなくチャンスを与えることであり、子どもや若者がもっと自由に発言し挑戦できる環境を整えることだと私は思う。