私にとって、今年の新たな挑戦は桃である。
去年はたびたび害虫が発生し、結局小さな実が一つ収穫できただけだった。
伯母が残してくれた桃の木はもうかなりくたびれた老木であまり元気がなさそうだが、今年は農協が出している「ももの作業防除暦」を参考にしながら、少し本腰を入れて収穫に挑戦してみようと思っている。

この農協の暦の3月上旬の欄に「石灰硫黄合剤」の散布と書かれている。
ハダニ類、縮葉病、黒星病などに効果があるという。
その意味や効果はよくわからないが、ちょうど納屋の中でこの「石灰硫黄合剤」の箱を見つけ、「これは何だろう?」と去年妻と話していたことを思い出し、このタイミングで使ってみることにした。

これが、納屋に残っていた「石灰硫黄合剤」の箱。
中は液体で、結構重い。
ネットで調べてみると、殺菌・殺虫の効果があり、特に春先の季節に越冬害虫の駆除に使用するらしい。
ただし、メーカーのホームページを見ると、安全使用上の注意としてこんなことが書かれていた。
『本剤は強アルカリ性のため、取扱には十分注意する。特に皮膚、眼などをおかしやすいので皮膚にふれないように、又、眼に入れないよう十分注意する。』
使用している農家のサイトでも、皮膚の露出を極力少なくするよう完全防備で臨むようアドバイスされていた。

そこで私もホームセンターで装備を整えた。
上下の雨合羽に農業用のゴーグル、さらに高性能マスクとゴム手袋だ。
これからも年に何度かは農薬の散布をしなければならないため、この雨合羽は農薬専用とすることにした。

こうして身支度を整えた上で、石灰硫黄合剤をいよいよ扱う。
水で7倍に薄めて使用すると書かれているため、1リットルの計量カップで水を6杯タンクに入れた上で石灰硫黄合剤を1杯加える。
初めてみる石灰硫黄合剤は、黄色と赤の中間色でいかにも毒々しい。
嫌な匂いがすると書かれていたが、高性能マスクのおかげでほとんど感じない。

こうして7倍に薄めた石灰硫黄合剤の入ったタンクをぶら下げて、いざ桃の畑に向かう。
畑の向かう途中タンクが揺れて、薬剤と水がうまく混ざってくれそうだ。
本当は、バケツか何かであらかじめよく混ぜてからタンクに移すと書かれていたが、これは面倒なので一番安易な方法を選んだ。

この日は快晴、実に気持ちのいい朝だ。
この季節、桃の木はまだ芽が動き出していない。
石灰硫黄合剤は発芽前に散布しないと、薬害が生じる可能性があるのだという。
去年害虫が大量発生した木の分かれ目付近を中心に全体にまんべんなく散布していく。
これまで何度か経験してはいるが、やはり農薬を撒くという作業は気持ちのいいものではない。

それでも桃の木は4本だけなので、丹念に撒いても20分ほどで散布を終えた。
雨合羽のせいだろう、もう汗びっしょりである。
まだ相当量がタンク内に残っていたので、捨てるのももったいないと思いブドウの木にも散布することにした。
ブドウも幹や枝の表皮の中にカイガラムシなどが越冬していて、石灰硫黄合剤はその対策として効果があるらしい。

近所のおばさんにアドバイスされ、ブドウの幹の皮を剥がす。
こうするとカイガラムシ被害を軽減できるという。
妻は何故かこの作業がお気に召したらしく、嬉々としてブドウの皮を剥いていく。

こんなにざらざらしていたブドウの幹が、表面の皮を剥ぐとこんなにすべすべに変身していく。

そのうえで、石灰硫黄合剤を幹と枝に撒いていく。
途中でタンクが空になったので、今年はこれで終了。
薬剤を撒いたところと撒いていないところで違いが出るのか、見比べてみようと思っている。

伯母が何の目的で石灰硫黄合剤を使っていたのかは不明だが、農薬は勝手に処分することもできないため、こうして実際に畑で使ってみるのが最善の処理方法だろう。
それで去年のような害虫被害が少しでも防げるのであれば、来年以降もまたこの薬剤を使うことになるだろう。
農薬を使うことにはまだ抵抗があるが、メーカーのサイトには『有機農産物の日本農林規格(有機JAS)に適合する農薬です』とも書かれているので、それほど神経質になる必要もなさそうだ。
雑草と病害虫は農家の大敵である。
精神論だけではなかなか太刀打ちできないので、こうした薬剤をうまく活用しながら自分なりの栽培方法を見つけていきたいと思っている。
今年こそは、自分で栽培した美味しい桃を食べたいものである。
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