東京市場の株価がこのところ好調だ。
3万円の大台を突破してからはほぼ一本調子で上げ続け、あっという間に3万2000円台に乗せた。
もちろんバブル後の最高値である。

背景には円安とともに日本経済の好調ぶりがあるようで、海外の投資マネーがここに来てドッと流れ込んでいるという。
日本も遅ればせながらコロナ禍の自粛ムードから抜け出して個人消費も好調に推移している。
広島サミットの高評価を受けて衆議院の解散総選挙が近いとの思惑も株価を上げる要因となっているのだろう。
私はずっとコロナ対策で世界的にダブついたマネーが収縮する過程で株価の急落があるのではと思っているので、株高の恩恵は全く受けることができなかった。
まあそれならそれでいい。
景気が良ければ失業する人も減り、賃上げで生活に明るさが見える人も少なくないのだろう。
とはいえ、問題は広がる一方の格差である。
株高はNISAで投資を始めた若者たちにも恩恵があるとはいえ、大きな利益を手にするのは圧倒的に富裕層に限られる。
しかも株価対策として安倍政権の時代に税率を引き下げられた株式の譲渡課税は今も通常の半分のままで、金持ちをより金持ちにさせる税制が野放しとなったままだ。
子育て支援の財源確保が大きな議論になっても、富裕層を対象とした資産課税の強化、優遇税制の見直しなどの議論は出てこないのはなぜだろう。
かつて「1億総中流」と言われた日本社会の美徳は、グローバルスタンダードの名の下に弱肉強食の経済システムに置き換えられてしまった。

そんな昨今、私の心に刺さっているドラマが日曜日の夜に放送されている。
NHKの大河ドラマ、TBSの日曜劇場という定番のドラマを見た後に、この春からは朝日放送制作のドラマが加わった。
岡田恵和さん脚本のドラマ「日曜の夜ぐらいは…」。
清野菜名、岸井ゆきの、生見愛瑠演じる3人の若い女性たちが主人公の友情物語なのだが、3人とも絶望なほど不幸な人生を歩んできた。
ラジオ番組が募集したバスツアーで偶然出会った3人は互いの境遇を知り友達になる。
そして旅先で1枚ずつ購入した宝くじの1枚が大当たりして、彼女たちは宝くじの賞金3000万円を元手に一緒にカフェを始めるのだ。
バスツアー、宝くじ、カフェの開業と並べるとドラマならではの夢物語のようにも聞こえてしまうが、岡田さんのシナリオは不幸慣れしてしまった3人の心の動きを細かく描き、ストーリーに強烈なリアリティーを持たせていく。
娘に土下座して金を無心する父親、娘を置いて遊び歩き金がなくなると帰ってきて預金通帳を取り上げる母親、一方的に相続放棄を要求してくる兄弟。
さらには職場や友人との人間関係にも悩み孤独で単調な毎日の繰り返し。
そんな彼女たちが初めて手にした幸運に戸惑いながら、悩んだ末に3人で新たな幸せをつかもうともがく姿は胸が締め付けられるようだ。

自分の人生には決していいことは起こらない。
そんな諦めの中で生きている若者がたくさんいる社会は、本当にクソである。
お金はなくても夢があり、大人たちが作った社会を批判して新しい技術や文化を生み出しながら社会を変えていくのが若者の特権である。
もしも日本の若者の多くが彼女たちのように絶望の中で生きているとすると、私たち大人の罪は深い。
しかしこのドラマの救いは、新しい友達を得て、一緒に夢を追うようになった3人の表情がどんどん明るくなっていくことだ。
ドラマを見ながら、思わず3人を応援したくなる。
私自身、彼女たちのような若者にもしも実際に出会ったら絶対に応援してあげたくなるだろうと思う。
若者たちが幸せで元気な社会はいい社会である。

昨日放送された第7話では、ついにカフェ開業に向けて動き出す。
200万円を支払ってコンサルタントと契約し、敷居の低いカフェに適した不動産も見つけた。
200万円は彼女たちにとって人生で動かしたことのない大金。
社会経験の乏しい3人の行動は見ていてハラハラすることばかりだが、信じる仲間と未知の世界に踏み込んでいくワクワク感が半端なく伝わる。
ただ、このまま単なるサクセスストーリーで終わるとは思えない。
きっとさまざまなトラブルが彼女たちを待ち構えているのだろう。
でもこのドラマだけは、ぜひハッピーエンドになってほしい。
それほど私は3人に感情移入してしまっているのだ。

もがく若者たちといえば、日曜日の夜10時半から放送の日本テレビのドラマ「だが、情熱はある」もとても面白い。
これは南海キャンディーズの山里亮太とオードリーの若林正恭を主人公にした青春物語。
芸人として成功したいと必死でもがく2人の下積み生活を、ジャニーズの2人、SixTONESの森本慎太郎とKing&Princeの髙橋海人が好演している。
特にメガネをかけた森本慎太郎は山里そっくりで、知らず知らずのうちにドラマだということを忘れて彼らの葛藤が胸に刺さってくる。
2人の共通点は個性的な相方の影に隠れて目立たないこと、だが同時に2人がコンビのネタを書き売れるための作戦を日夜考え続けてきたということだ。

山里にはプロデュースの才能があり、別のコンビにいたシズちゃんに目をつけて必死で口説いて何回キャンディーズを結成する。
自分が面白く見えるようにボケをやりたい気持ちを抑え、シズちゃんにボケを譲ったところから独自の芸風が生まれテレビ出演も増えてくる。
しかし注目されるのはシズちゃんばかりで、山里はシズちゃんへの嫉妬を募らせていく。
自意識の強い山里の焦りと負のオーラを、森本が実にうまく表現している。

一方のオードリー。
ものまねパブで前座を務める2人はとにかく全然売れなかった。
オーディションはことごとく落ち、仕事はほとんどない。
それでも能天気な春日を見ながら若林は一人でネタを書き試行錯誤を続けていく。
テレビはもちろん劇場の仕事もない2人は春日が住んでいたアパートの部屋でライブを始めた。
ネットで募集した10人ほどの客を前にトークを磨く2人。
それを録画して見直す中で、若林は春日のずれたリアクションを活かす新たなツッコミ漫才に辿り着く。
長い下積みの末、ついに「M1グランプリ」の決勝に進出しテレビへの道を開いたオードリーだが、それ以前に2人が歩んだ先の見えない生活はまさに青春そのものである。

個人的には、オードリー春日役を演じる戸塚純貴がお気に入りだ。
どんなに売れなくても腐ることなく貧乏生活を楽しみながら若林についていく春日のズレた逞しさをとても上手に演じている。
どんなに努力しても面白くなければ誰も振り向いてくれない芸人の世界。
そこには剥き出しの青春ドラマがある。
一昨年日テレで放送された「コントが始まる」も売れない芸人を描いた秀逸なドラマだった。
「まだ何者でもない自分」に不安を感じつつも、売れる未来を信じて夢に向かって努力する姿。
人気が出れば有名人、人気が出なければ誰からも見向きもされない芸人という仕事には、若者だけが持つ不安と夢がきっと凝縮されているのだろう。
大学を卒業して就職した私は、彼らと比べれば安定した青春だったと言える。
それでも自分の将来がどうなるのか、常に不安を抱えて生きていたことを思い出す。
仕事でキャリアを積み、家族を持ち、少しずつ社会の中で「何者」かになっていく。
でもその形が決まれば決まるほど、夢の範囲は狭まっていくのだ。
私は青春ドラマが好きだ。
若いということは、それだけで価値がある。
若者たちが自分の選んだ道で精一杯努力できるような自由でおおらかでなるべく平等な社会を作っていかなければならない。
それが私たち、遠い昔に青春を経験した大人たちの務めだと私は改めて思っている。