<吉祥寺残日録>コロナ禍はテレビで日本映画三昧 #210416

今月初めの岡山への帰省から戻り、撮り溜めた録画を見続けている。

去年コロナの騒ぎが始まった頃には、少しでも情報を得たいと報道・情報番組をはしごしていたのだが、最近では目新しい話は何もなく、テレビマンたちもすっかりルーティーン作業に陥ってしまった。

コロナに関してももっと取材するテーマがあるだろうと思うのだが、毎日新規感染者数を伝え、変異ウイルスの脅威を煽り、緊急事態宣言が必要だとか、オリンピックは中止すべきだとか同じような議論をああでもないこうでもないと繰り返しているだけで、とても見るに堪えない。

そのため、最近では事前に番組表をチェックして1週間先まで興味のある番組を録画する習慣がついた。

そうしてみると、結構役に立つ番組があるものだ。

私の場合どうしてもドキュメンタリー番組が多くなるのだが、最近では映画やドラマ、さらにはEテレの教養番組まで録画するようになった。

そんな中から、最近録画して見た映画をいくつか書き残しておこうと思う。

「スパイの妻」

2020年・日本映画 / 監督・黒澤清 / 主演・蒼井優、高橋一生、東出昌大

去年のヴェネチア映画祭で銀獅子賞(監督賞)を受賞したことがニュースとなったため、一度観たいと思っていた作品がNHK-BSで放送された。

しかし、この作品はもともとNHKがBS8K用のドラマとして制作したものだということをエンドロールを見て知った。

舞台は戦前の日本、貿易会社を営むリベラルでリッチな夫婦がある国家機密を知ったことから憲兵隊に追及され、アメリカへの亡命を決意するストーリーだ。

その国家機密というのが、満州で行われていた731部隊による人体実験である。

映画のタイトルと高橋一生の持つ雰囲気から、この男がスパイなのだなと思いながら、何も知らない妻の蒼井優に思い入れながら見ていると、その先入観が見事に裏切られる。

そういう意味で、私は面白く拝見した。

そして何よりも、安倍政権による圧力を受け続けてきたNHKがこのような作品を制作したということが私には嬉しかった。

どこの組織にも上の意向を忖度しない「天邪鬼」がいる。

それこそがメディアの健全性であり、頼もしく感じた。

「柘榴坂の仇討」

2014年・日本映画 / 監督・若松節朗 / 主演・中井貴一・阿部寛・広末涼子

ジジイになると、どういうわけか時代劇が面白くなってくる。

BSテレ東で放送していたこの映画を録画したのも、単なる直感であり、映画について何の予備知識も持ち合わせていなかった。

中井貴一演じる主人公は、大老井伊直弼を警護していた彦根藩の侍。

普段は悪役の井伊直弼がこの作品では、誰よりも国のことを思う政治家であると同時に、ウグイスの初鳴きを楽しみに和歌を読む文化人として好意的に描かれる。

とかく薩長側からの視点から語り継がれる維新史を江戸幕府側から問い直す視点は、中井貴一主演の映画「壬生義士伝」に通じる。

原作は同じ浅田次郎であり、「壬生義士伝」同様、重厚で心に残る人間ドラマとなっていた。

主君を殺された主人公は藩の命を受け、暗殺に関わった男たちへの仇討に一生を捧げる。

時代が明治に変わり、彦根藩がなくなってしまっても、主人公は自らに課されたミッションを諦めず、ついに俥夫になっていたかつても水戸藩士を突き止める。

追う方も追われる方も、自らの人生を棒に振り、時代の流れとは無縁の貧しい生活を続けてきた。

そんな2人による仇討は観る者の胸を打つ。

社会的な評価ではなく、自分はどう生きるか、自分に嘘をつかない生き方とは何かを考えさせる映画である。

「序の舞」

1984年・日本映画 / 監督・中島貞夫 / 主演・名取裕子、岡田茉莉子、佐藤慶、風間杜夫

宮尾登美子原作の東映映画ということで、どうもドロドロのイメージで公開時には観る気になれなかったのだが、明治から大正にかけての物語だという点が気になってBS日テレでの放送を録画した。

結果から言えば、ある程度予想通りの映画ではあったが、主人公のモデルとなった女流画家・上村松園を知ることができたのは私にとって成果であった。

上村松園は、明治から昭和にかけて活躍し、戦後には文化勲章も受賞した日本画の大家だが、明治期の日本女性の地位の低さや未婚の母が受けた差別の激しさは、今から見ればおぞましいほどだ。

名取裕子の初ヌードで観客動員を狙った作品でもあり、どこまでが史実なのかは定かではないが、映画の中で子供を堕す部屋の壁に主人公が描いた絵がとても印象に残った。

それがこの作品で、上村松園作の「焔」という絵だということを後で知った。

1918年(大正7年)の「焔」の題材、謡曲『葵上』は、『源氏物語』に登場する六条御息所の生霊を桃山風俗にて描いた、松園言うところの「数多くある絵のうち、たった一枚の凄艶な絵」である。誇り高い六条御息所は、光源氏の正妻葵の上への屈辱と嫉妬から生霊になり、葵の上を取り殺してしまう)。後れ毛を噛む女の着物には藤の花と蜘蛛の巣が描かれている。189×90cmの大作で、大変な迫力をもって見る者に迫る絵である。

出典:ウィキペディア

日本画についても私は無知だが、歳をとると西洋画よりも日本画になぜか惹かれる。

上村松園やその子、孫の作品を収蔵した「松伯美術館」というのが奈良にあるそうなので、機会があればぜひ本物を見てみたいと思った。

私は中学時代、映画にすっかりハマってしまい、テレビで放送するすべての映画を見て自分なりに採点ノートをつけたりしていた。

当時の将来の夢は映画会社に入ること、部屋の壁は映画雑誌「スクリーン」や「ロードショー」の付録ポスターで埋め尽くされていたのだ。

若い日の夢は、少しずれてテレビ局で働くことになったが、退職した今気楽な気分で映画を再び楽しめるようになった。

「ネットフリックス」などで簡単に映画を見られる時代だが、それではあまりにも際限がない。

テレビという制約の中で放送される映画の中から見たい作品をピックアップして観る程度が、ちょうど今の私にはあっている気がする。

コロナ禍はテレビで映画三昧、ちょっといいかもしれない。

<きちシネ>#13 「金子文子と朴烈」(2017年/韓国映画)

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