岡山への帰省中、アマゾンプライムビデオからダウンロードした映画やドラマを何本か観た。
そんな中に、ウクライナ危機を理解するうえで役立ちそうなロシアの戦争映画も含まれていた。

そのうちの1本が2018年製作の「T-34 レジェンド・オブ・ウォー」。
『全露NO.1メガヒット!』と銘打たれている通り、公開当時ロシア国内で空前のヒットとなり、観客動員800万人、興行収入40億円を記録した戦車アクション超大作である。
片輪走行にドリフト旋回する戦車、着弾・炸裂する砲弾描写、そして爆炎…観客が目撃するのは、もはや映像革命と呼ぶに相応しい超絶VFXの数々。『バーフバリ 王の凱旋』のVFXを手がけた<Film Direction FX>を筆頭にロシア最先端の映像技術を結集し圧倒的なアクションシーンを活写!いまだかつてないダイナミックかつアドレナリン全開の戦車戦を体感せよ。
「T-34」公式サイトより
確かにハリウッドばりのVFXで戦車から飛び出す砲弾をスローモーションで描き、昔の戦争映画とは一味違う。

さらに興味深かったのは、普段あまり目にすることのない戦車車内の様子を見ることができることだ。
登場するソ連軍の“T-34”はすべて本物の車両を使用し、役者自らが操縦する本格的な撮影を敢行。戦車内には小型カメラを複数台とりつけ、閉鎖的な戦車内と兵士たちを克明に映し出すことで観る者をリアルな戦場へと誘う。
「T-34」公式サイトより
特に砲弾が命中した時の車内に反響する音はリアル。
装甲の厚い戦車正面を攻撃する際には、あえて地面を狙い砲弾が跳ね返らせて弱点である床下を狙うなど随所に製作者たちの戦車愛があふれている。

物語の舞台は、第二次世界大戦の独ソ戦。
ドイツによる電撃侵攻によって劣勢だったロシアにとって救世主となったのが新型の「T-34」戦車であり、この映画はソ連を救ったこの戦車を主役とした映画なのだ。
第二次大戦下、ソ連の新米士官イヴシュキンは初めて出撃した前線で惜しくも戦いに敗れ、ナチス・ドイツ軍の捕虜となってしまう。戦車の指揮官であることがわかると、収容所で行われているナチスの戦車戦演習のため、ソ連の最強戦車T-34を操縦することを命令される。イヴシュキンは、同じく捕虜になった仲間たちと隊を組み、T-34の整備と演習への準備期間が与えられた。しかし、その演習では弾を装備することは許されず、ひたすらナチスの戦車軍から逃げ惑うことしかできない。命令に背いても、演習に出撃しても必ず死が待っているのだ。しかし、男は仲間のため、そして収容所で出会った愛する人のため、あまりにも無謀な脱出計画を実行に移す。たった4人の捕虜が、ナチスの軍勢に立ち向かう。果たして、決死の作戦は成功するのか―!?
「T-34」公式サイトより
この映画を見て感じたのは、2018年に戦車を主役とした映画が大ヒットするロシアのお国柄。
そして、戦車に対する崇拝にも似た愛情だった。
日本でも戦車を主役にしたアニメ「ガールズ&パンツァー」が大人気になったこともあり、この映画のヒットがそのままロシアの軍国主義を示すものではないかもしれないが、やはり日本とは異質な文化を感じた。

もう1本見たロシア映画は「AK-47 最強の銃 誕生の秘密」。
こちらは2020年に製作されたばかりの最新映画で、戦後ソ連が採用し世界中に広まった自動小銃「AK-47」、通称「カラシニコフ」とその開発者ミハイル・カラシニコフを主役にした映画である。
冷戦下、カラシニコフは世界中でライセンス生産され各地のゲリラ戦で使用された。
構造が単純で水にも埃にも強いこの自動小銃はゲリラ戦には最適で、その生産数は1億挺を超えて『世界で最も多く使われた軍用銃』としてギネス世界記録に登録されている。
映画の内容はさておき、戦車に自動小銃と、最近になってロシアが誇る伝説的な武器を主役とした大作映画が次々に作られていること自体に、今回のウクライナ侵攻への布石を感じてしまう。
そこに描かれるのは、自らの命を顧みず祖国のために全力を尽くす若者たちの姿。
偉大なロシアの復興と愛国心を訴えるプーチン大統領の意向がこうした映画にも反映されているように感じる。

最後にアマゾンプライムからもう1本、「バトルフィールド クルーティの戦い」。
こちらは2019年製作のウクライナ映画だ。
1918年。ロシア帝国崩壊とともに独立したウクライナ人民共和国にムラヴィヨフ率いるソビエト軍の侵攻がはじまった。大学生の青年・アンドリーは学徒部隊として志願する仲間達を見送りながら、自らを平和主義者だと主張し出征を拒否していた。しかし、軍人である父と兄を持つアンドリーはある晩、ソビエト軍侵攻の記録フィルムを観せられ、学徒志願を決意する。数日間の短い軍事訓練を受け、戦地へと送られる若き新兵たち。その行先には首都・キエフ侵攻を狙うムラヴィエフ大佐の軍勢が待ち受けていた。4000人のソビエト軍と、僅か400人のウクライナの兵士たち。祖国の運命を賭けた激戦がはじまった。
アマゾンプライムビデオより
舞台となった「ウクライナ人民共和国」は、ロシア帝国崩壊後の一時期、コサックの伝統を受け継ぐ国家として建国された。
ソビエト連邦の崩壊によって誕生した現在のウクライナの前身とされる国家である。
建国直後から「ウクライナ人民共和国」は、ボルシェヴィキが政権を握ったソビエトと対立、首都キエフ侵攻を狙うソビエト軍を迎え撃つためにキエフ大学の学生たちが軍隊に志願した。
まさに今ウクライナで起きているのと同じような戦争が、100年あまり前にあったのだということを知る。
映画の内容はいささか情緒的で歴史を知らない者には分かりづらいところもあるが、ある日突然日常を奪われ、若者たちが自ら祖国防衛のために銃を取る物語は、2014年のクリミア侵攻以来ロシアと戦争状態にあったウクライナ人にとって再発見すべき歴史だったことがわかる。
そしてこの映画が製作された3年後、まさに100年前と同じようなロシアによる侵略にさらされているのだ。

では、その後「ウクライナ人民共和国」はどうなったのか?
ウィキペディアによると、内戦、近隣諸国の介入によって1920年11月、最終的には支援を受けていたポーランドに併合される形でその短い歴史を閉じたという。
ウクライナはペトリューラ率いる民族主義派、アントーン・デニーキンやピョートル・ヴラーンゲリ率いる「ロシア人民族主義」の白軍(白衛軍)、「共産主義」であるボリシェヴィキのソヴィエト赤軍、「無政府主義(アナーキスト)」であるネストル・マフノのウクライナ革命蜂起軍(黒軍)など、多くの派が争い互いに潰しあう激しい内戦状態に入った。こうした中で、「ウクライナ人民族主義」のディレクトーリヤ政府はわずか3ヶ月しかキエフを維持できなかった。
その後、一旦ポーランドに撤退したディレクトーリヤ政府は、ポーランド軍と結んでウクライナへ進攻した(ポーランド・ソビエト戦争)。だが、これによりそれまで協力を図ってきた西ウクライナの西ウクライナ人民共和国との合同は不可能となった。ウクライナ人が地域全体60%を占めるに過ぎず、かつ彼らは農村部の住民であり、都市部はほとんどがポーランド人(地域全体では25%)やユダヤ人(同12%)で占められていたこの地域にウクライナ民族主義という排他的な民族主義で建てられた同共和国は、ポーランド、リトアニア、ベラルーシ、ウクライナを合同し(かつて存在した)ポーランド・リトアニア共和国のような多民族国家を打ちたてようとする「多民族主義」の指導者ユゼフ・ピウスツキによって「ミェンズィ・モジェ構想(バルト海と黒海という2つの海の間の多民族国家構想)」を推進するポーランド共和国とは正面から対立、その結果同共和国はポーランドによる軍事侵攻で亡ぼされ、その軍事組織であるウクライナ・ハルィチナー軍はポーランドを駆逐するためソ連に頼り赤軍へ合流することとなった。こうして、ウクライナの東西で分断が起こった。
1920年5月のキエフ攻勢で、ウクライナ・ポーランド連合軍は一時キエフを奪還した。しかし、連合軍は東ウクライナからは撤退した。11月10日、ウクライナにおけるウクライナ人民共和国の命運は尽きた。西欧諸国からの外交的圧力を受けたポーランドは、ディレクトーリヤ以外をウクライナの政府としては認めないというウクライナ人民共和国との協定を破ってウクライナ・ソヴィエト政府およびロシア・ソヴィエト政府とリガ講和条約を結び、自国の軍事的な勢力圏であった西ウクライナを正式に併合したのである。
出典:ウィキペディア
ロシア革命が起きた激動の時代、さまざまな主義主張が交錯し、複雑な民族問題も絡んで「ウクライナ人民共和国」はあっけなく消え去ってしまった。
そして、東部はロシア、西部はポーランドというこの国に存在する二つの顔はこうした歴史の中で形作られていったのだということがわかる。
今回見た3本の映画は、ロシア、ウクライナ双方に流れる現在の気分というものを感じさせてくれるものだった。

第二次大戦当時とは違い、現在の戦争では戦車でさえ最強とは言えなくなった。
アメリカがウクライナに提供した携帯型対戦車ミサイル「ジャベリン」は、ロシアの戦車を次々に撃破している。
今回ウクライナ侵攻に投入されたロシア戦車の主力は「T-72」の改良型だとされ、西側の最新鋭戦車に比べて性能の差は歴然で、イラク戦争の際に米軍に壊滅させられたイラク軍の戦車もこの「T-72」だった。
ロシアは最新鋭戦車「T-14」を開発したがまだ実戦配備されていないという。
こうした中でメガヒットを記録したという戦車映画「T-34」を見ると、「過去の栄光」に対する執着のようなものをつい感じてしまった。
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