田舎暮らしというのは、思いもしない体験をさせてくれるものだ。
ご苦労さんにも納屋の中を片付けてくれた妻が、要らない金属類を処分したいと言い出した。

たとえば、これ。
大昔、米の重さなどを測るのに使った秤だ。
今時だとデジタルで重さが表示されたりするのだが、針が振れて重さを測る旧式のものでもない。
さらにその前、分銅を使って重さを測る時代の秤である。
いかにも重そうで、自分で運ぶのも大変そうだ。

そのほか、古い工具類や・・・

謎の金属の壺・・・

何かの構造物か大型機械に使われていたと思えるやたらに大きくて重いネジ。
得体の知れぬご先祖様の遺品が次から次へと出てきたのだ。
これはとても自分の手には負えないと、ネットで金属の買取をしている業者を探してみた。

岡山市中心部にある業者に電話すると、量や物によっては引き取りに行くという。
ただし現物を見てからの判断で、引き取れないものもあり、無料になるかもしれないと電話口の女性は言った。
こちらとしては、タダでもいいから持っていってほしい気分なのでお願いすることにした。
今朝、トラックで引き取りに来てくれると思っていたら、女性が一人でやってきて、「車を出すと人件費や車両代がかかるので、逆に5000円ほどいただくかもしれない。持ち込みなら買取りが可能だ」と言う。
そして「会社で相談してまた連絡する」と言って女性は屑鉄を残したまま帰っていった。
今日には要らない屑鉄が消えると思っていたのでガッカリ、おまけに屑鉄を買い取ってくれるどころかこちらが支払わないと引き取ってもらえないとは話が全く違うではないか。

仕方なく、妻が行政に相談し粗大ゴミとして引き取りに来てもらえないかと聞いてみたが、どうも金属ゴミは業者に相談してくれと言われたようだ。
そこで私が別の業者に電話する。
家から一番近くにある金属買取業者のようだ。
引き取りにはいけないが持ち込んでもらえれば買取はできるとのこと。
意を決して、自分たちで屑鉄を車に積み込んでこの最寄の業者まで運ぶことにした。

その会社は「岡山金属」という名前で、その本社が家から直線で2〜3キロのところにあった。
そこはまさにスクラップの山。
どこにいけばいいのか戸惑いながら事務所らしき建物を見つけた。

「公認40t 計量所」と大きな文字で書かた看板が立っていた。
事務所の前に車を停めると中から女性が出てきて、車の中を覗き込み「ちょっと待ってて」と言ってスクラップの山の方へ歩いていく。
女性は社長らしきおじさんを連れてやってきた。
おじさんは「車こっちに持ってきて」と手招きするので、後をついていくと鉄屑が無造作に置かれた場所に案内された。

「これって大丈夫ですかね?」と聞くと、あまり細かく吟味することなく「OK」と言って、車の中に積んでいた雑多な屑鉄をどんどん下ろしてくれた。
「あれっ? これってタダなの?」と疑問に思っていたら、おじさんが「いくらかにはなるから」と声をかけてきて事務所に行くように促す。
事務所に行くと先ほどの女性が「車をここに停めて」と言う。
事務所の前に置かれた鉄板は巨大な秤になっていて車両の重さを測っていたのだ。
屑鉄を下す前の重さと下ろした後の重さの差が買い取ってもらった屑鉄の重量というわけだ。
「計量所」という看板の意味がようやく理解できた。

結局、1回では全部の屑鉄を車に積むことができなかったので、この業者まで2往復して、処分したかったもののほとんどを引き取ってもらった。
金額は1回目が1980円、2回目が770円で合計2750円ということになった。
自分で重い金属を車に乗せて運ぶ手間はかかったが、不要な物を引き取ってもらって2750円ももらえたのだから文句はない。

それにしても、世の中にはいろんな商売があるものだ。
社長らしきおじさんはなかなか愛嬌のある人物で、本来は金属以外のものは受け付けてくれないのだが鎌など柄のついた農機具も「どうせ返されても困るんだろう」と言って受け取ってくれた。
ハスラーの荷台には乗りそうにない物干し台は残ってしまったので、これは粗大ゴミとして有料で行政に回収してもらうつもりだ。
今後、金属のゴミが大量に出ることはないかもしれないが、もしあれば迷わず「岡山金属」に持ち込むことにしよう。
おかげで納屋の中も少し広くなった。
知らないことはどんなことであっても私に取っては面白い体験である。