<吉祥寺残日録>頑張れテレビ! NHK-BS1「中国デジタル統治の内側で〜潜入新疆ウイグル自治区」が怖い #201210

テレビドキュメンタリーはやはり刺激が強い方がいい。

その意味では先日、NHK-BS1「BS世界のドキュメンタリー」枠で放送されたイギリスのドキュメンタリー、「中国 デジタル統治の内側で〜潜入・新疆ウイグル自治区〜」は出色だった。

「Hardcash Productions」が2019年に制作したこの番組は、今年の国際エミー賞で最優秀時事番組に選ばれた。

中国北西部にある新疆ウイグル自治区では、イスラム教徒であるウイグル人による独立運動を押さえ込む目的で、習近平政権によるITを駆使した監視体制が張り巡らされ、外国人による取材はほぼ不可能な状況にある。

しかし漢民族であれば比較的行動の自由が許されるため、この制作プロダクションでは漢民族の男性に依頼して新疆ウイグル自治区の今を撮影してもらった。

その潜入映像を中心に構成されたドキュメンタリーからは、ピリピリとした現地の緊張感が伝わってくる。

2014年、総書記に就任した習近平氏が新疆ウイグル自治区を訪問した際、中心都市のウルムチで爆発事件が起きた。

これを受けて習氏はチベットで辣腕をふるった陳全国氏を自治区のトップに送り込む。

ここから自治区の治安状況は一変した。

中国の都市ではお馴染みの監視カメラ。

新疆ウイグルの都市は、中国のハイテク企業が集まり、最新技術を競っているという。

中でも重要な役目を担っている企業が「リアン・テクノロジー」と「ファーウェイ」だ。

5Gネットワークが急速に整備され、町中に設置された監視カメラから送られてくる膨大な映像はAIによって分析されて、政府にとって危険な人物がスクリーニングされる。

しかしもっと物理的な支配も着々と進んでいる。

新疆ウイグル自治区の中心都市ウルムチでは、200m間隔で交番が建設されているという。

市内を威圧的に行進する警察官たちを隠しカメラで撮影する。

私もかつて、旧共産国で隠しカメラでの撮影を何度もやった経験があるため、その時のドキドキ感は身に染み込んでいる。

中国政府は、新疆ウイグル自治区への漢族の大量移住を奨励していて、イスラエルがパレスチナの土地で行っているのと変わらない方法でウイグル人の土地を飲み込もうとしているのだ。

さらに、イスラム教のモスクは再開発の名目で次々に取り壊されたり、子供たちを親から引き離して中国式の教育を叩き込んだり、ウイグル人の伝統文化を根こそぎ消し去ろうとしている。

中でも私が恐ろしいと感じたのは、ウイグル人の家のドアに貼られたQRコードである。

かつてナチスドイツがユダヤ人の住居にダビデの星を目印として描いたことが知られているが、中国政府はウイグル人の家にこのようなQRコードを貼り付け、警察官はこの家に住む人の個人情報をすべて把握できるようになっているのだ。

警察は定期的にウイグル人の家を回り、登録されていない人間がいないかをチェックする。

個人情報はすべて当局に握られているのだ。

必要があればスマートフォンの提出を求められ、拒むことはできない。

監視カメラとスマートフォンで個人の行動が全部丸裸にされてしまうので、ウイグル人たちはトラブルを避けて、今ではモスクにさえ寄り付かないのだという。

こうして当局によって少しでも危険と判断された人物はある日突然連絡が取れなくなる。

番組では海外に暮らすウイグル人で中国に住む家族と連絡が取れなくなったという人たちを取材していた。

あるウイグル人女性は、夫と子供を海外に残したまま両親に会うために中国に戻り連絡が取れなくなった。

連絡が途絶えた後、その女性は短い動画を夫に送ってきたが、その動画には窓から写した収容所と思われる建物が写っていた。

新疆ウイグル自治区では、こうして行方不明となり収容所に入れられていると見られる人が100万人以上いるとされる。

しかし、私がこの番組の中で最も怖いと感じたのは、民族宥和のため、ウイグル人家族ごとに漢族の親戚が強制的に割り当てられ、定期的に交流しなければならないという措置だ。

中国政府は、ウイグル人と漢民族が親戚のように交流していると、まるで日本が満州国で掲げた「五族協和」のような宣伝を行っている。

そしてウイグル人たちはこの漢民族の「親戚」をスパイだと信じ恐れているのだ。

もし日本が中国の影響下に置かれ、ある日知らない漢民族の家族が親戚だと言って家にやってきたらどう思うだろう。

その恐怖感は、普通のホラー映画の比ではない。

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こうした中国式のITを駆使した監視システムは世界中の強権的な国家に輸出されようとしている。

トランプさんが負けた今、世界の最大の脅威は習近平体制だと私は思う。

香港だけじゃない、ウイグルでもチベットでも、中国の色に染まらない少数派は完膚なきまでの弾圧され、外国からの批判は「内政干渉」だとして一切受け付けない。

隣国である中国との関係は良好な方がいいに決まっているが、習近平が将来ヒットラーやスターリンのようになるのであれば、早く手を打たなければいけない。

中国国内の動きをもっと注意深く見守っていきたいと思った。

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