今回初めて高野山を訪れるにあたり、お寺の宿坊に泊まることにした。
宿坊は本来、氏子や参拝者のために用意された宿泊所だが、高野山では多くの寺院が宿坊を広く観光客や外国人にも解放している。
中には1泊10万円を超える超リッチな宿坊もあるが、私たちが選んだのは2人で1泊2食付きで3万4000円というものだった。

昨日、土砂降りの雨の中でたどり着いたのは「別格本山 普門院」。
「別格本山」とは、本山に準じる特別な格式を持つ寺院のことで、高野山の場合、総本山である「金剛峯寺」を中心にいくつもの別格本山が存在する。
宿を選ぶ際にはあまり深く考えなかったが、場所は高野山のど真ん中にあたる「千手院橋」の三叉路近く、とても観光には便利なところにあった。

私たちが到着したのは午後2時。
大雨なのですぐにも宿に入りたいところだったが、チェックインの3時までは入れてもらえず荷物だけ預かってもらって、近くの金剛峯寺に行ったり食事をしたりして時間を潰した。
土砂降りの金剛峯寺。
その質素な外観のせいもあって特に心に響くものもなく、境内をちょこっと覗いただけですぐに退散する。

午後3時を回り再び普門院を訪ねると、受付のお坊さんが宿坊に案内してくれた。
部屋は2階にある10畳の和室。
宿坊にはエレベーターも付いていて重い荷物があっても大丈夫だ。
風呂トイレは部屋にはなく、地上波だけ映る小さなテレビが置いてあった。
お茶とお菓子のサービスもあり、質素ではあるがとても清潔で感じのいい宿坊である。

床の間には托鉢する弘法大師と思われる像が置かれ、その横に何やら似つかわしくない緑の箱が置かれている。
触ってみると中からジャラジャラ音がする。
どうやら賽銭箱のようである。

窓の障子を開けると、通りの向こう側にあるお寺が見え、とても落ち着いた景色に満足。
バスも通る幹線道路沿いなのだが、さすが高野山、車の音が気に触るようなことは一切ない。

案内の僧侶は、廊下の月上がりにある洗面所やトイレも案内してくれた。
どこも清潔で全く問題ない。

お風呂はエレベーターを降りた1階にあり、入浴時間は夕食後の午後6時半から9時半までの3時間と決められている。
湯船も大きくて、ゆったりと足を伸ばして入れるお風呂だった。

夕食は午後5時半から。
廊下突き当たりの階段を降りた中2階の広間が食事をする場所に決められていた。
私たちが案内された部屋には、私たちと外国人の4人組だけ。
広い部屋にぽつんとお膳が置かれていて、外国人たちとはパーティションで区切られていた。

こちらが昨夜出された夕食。
もちろん精進料理だが、お膳が2つも並んでいて、鍋や天ぷらもある。

ただちょっと残念だったのは、天ぷらもお椀も少し冷えていたこと。
昔の旅館の料理を思い出す。
この日の高野山は冷え込みがキツく、大勢の料理を一度に作るためどうしても冷めてしまうのだろう。

救いだったのは鍋があったことで、妻は天ぷらなどを鍋に入れて温めて食べていた。
なるほどその手があったかと思った時にはすでに私は天ぷらを食べてしまっていた。

お寺だがお酒を飲むことはできる。
チェックインの時に、「夕食の際お酒を飲まれるのでしたら、今支払いをお願いしたい」と言われ、熱燗を1本注文しておいた。
こちらも多少冷めてはいたが、やっぱり注文しておいてよかったと思った。

食事を済ませ、歯も磨き、お風呂に入ったら夜はもうすることはない。
夕方5時には門が閉まり、夜9時には消灯である。
ただ部屋の中は9時以降も電気をつけても大丈夫だそうで、眠たくなるまで音楽を聴いて過ごした。
ありがたいことに、部屋は暖房がよく効いていてとても暖かい。
布団に入ると暑いぐらいだったが、明け方にはちょうどいい温度になっていた。

朝は6時半までに本堂に行く。
住職が行う朝のお勤めに参加するためだ。
チェックインの際に「義務ではないですがぜひ参加してください」と念を押されるので、宿泊した外国人客もみんなまだ薄暗い早朝の本堂に集まってくる。

本堂に向かう途中、お寺の中を少し拝見した。
こちらは本堂の手前にあるロビー。
庭が見えるなかなか気持ちのいいお部屋だ。

廊下から見えるお庭はとても立派で、高野山でも随一との評判があるそうだ。
まだ季節が早く、緑は少なかったので、いずれ別に機会に改めて見てみたいお庭である。

本堂の中は残念ながら撮影禁止。
だが、これがなかなか立派な本堂で、たくさんの位牌や厨子が壁一面に並べられている。
所々に置かれたロウソクが暗い本堂の中を照らし、神秘的な空気感を演出する中、住職が真言宗の読経を重々しく始める。
この日の宿泊客は日本人4人と外国人7人。
希望者は順番にお焼香をして、後はただ読経が終わるのをじっと見守るのだ。

朝のお勤めが終わるとそのまま朝食。
昨夜と同じ広間に行くと、すでに朝ごはんのお膳が用意されていた。
もちろん精進料理だが、夕食と違いお膳は一つだけだった。

若い頃だったが肉や魚が食べられないのは耐えられなかったかもしれないが、この年になると精進料理も悪くない。
全体に淡白なので、煮たがんもどきや煮豆がとても濃厚に感じられる。
やはり人間の感性というものは相対的、不思議なものである。

このように簡素な部屋と精進料理というイメージ通りの宿坊に泊まってきたわけだが、実はこの「普門院」には最近設えた豪華な洋室の宿坊があることを後から知った。
部屋にはベッドが置かれ、窓からは自慢のお庭を見下ろすことができる。
トイレも部屋に付いていて、貸切の家族風呂も利用できると書かれている。
さらに食事についても「特別精進料理」というのがあって、食事する場所も分かれているらしいので、豪華な宿坊をお望みならば普門院の立派なホームページから予約すればいい。
でも、高級な宿に泊まりたければ温泉旅館にでも行けばいいのであって、高野山に来たからは私は昨夜泊まったようなシンプルな宿坊で十分満足である。

朝食を済ませ顔を洗ったら、荷物をまとめチェックアウト。
荷物を預かっておいてもらって、昨日できなかった高野山観光に出かける。
まずは空海が今も生きているとされる奥之院、そして高野山のシンボル的建物「壇上伽藍」へ。
そして今回の訪問の目的だった永代供養の相談のため、別の別格本山「西室院」を訪ねた。
雨のせいもあって駆け足の高野山見学になってしまったが、その話はまた次の記事でまとめたいと思う。
「別格本山 普門院」 住所:和歌山県伊都郡高野町高野山608 電話:0736-56-2224 https://www.fumonin.net/