バカの壁

今年のお正月休みはどこへも行かずゆっくり過ごすことにしている。

そのため図書館で本を9冊借りてきた。適当に気になった本を選び、数冊を気が向くままに同時並行で読んでいる。

キリスト教の本はゆっくり丁寧に読みながら、きのう一気に読んだのが養老孟司著「バカの壁」。2003年に出版されベストセラーになった本だ。私もタイトルは知っていたが読んだことはなかった。

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正直な感想としては、なぜこの本がそこまで売れたのかよく分からなかった。「まえがき」で養老さんが書いている通り、この本は口述筆記の形で、養老さんが話した内容を編集者の人がまとめて本になったらしい。そのため、一番しっくりきたのは養老さん自身が書いた「まえがき」。ここに養老さんのメッセージがわかりやすく書いてある。

「あるていど歳をとれば、人にはわからないことがあると思うのは、当然のことです。しかし若いうちは可能性がありますから、自分に分からないかどうか、それがわからない。だからいろいろ悩むわけです。そのときに「バカの壁」はだれにでもあるのだということを思い出してもらえば、ひょっとすると気が楽になって、逆にわかるようになるかもしれません。その分かり方は、世間の人が正解というのと、違う分かり方かもしれないけれど、もともと問題にはさまざまな解答があり得るのです。そうした複数の解を認める社会が私が考える住みよい社会です。でも多くの人は、反対に考えているようですね。ほとんどの人の意見が一致している社会がいい社会だ、と」

このメッセージには私も100%共感する。しかし、編集者さんがまとめた本文の方はなぜか今一つ心に響いてこないのだ。

しかし読み進んで最終章「一元論を超えて」、ちょっと偶然に驚いた。私が今調べている一神教と多神教の話が出てくるのだ。そういう目的にこの本を手に取ったわけではなかったので、本当の偶然だ。

「私の考え方は、簡単に言えば二元論に集約されます。普段の生活では意識されないことですし、新聞やテレビもそう言う観点からの議論をしませんが、現代世界の三分の二が一元論者だということは、絶対に中止しなくてはいけない点です。イスラム教、ユダヤ教、キリスト教は、結局、一元論の宗教です。一元論の欠点というものを、世界は、この150年で、嫌というほど叩き込まれてきたはずです。だから、21世紀こそは、一元論の世界にはならないでほしいのです」

「もともと日本は八百万の神の国でした。『方丈記』の「ゆく河の流れは絶えずして、しかももとの水にあらず」というのも一元論ではない。我が国には、単純な一元論は無かった。ところが、近代になって、意識しないうちに一元論が主流になっている。大した根拠や、そこにつながる文化が無いにもかかわらず、です。一元論と二元論は、宗教でいえば、一神教と多神教の違いになります。一神教は都市宗教で、多神教は自然宗教でもある」

養老さんの話は、戦争やカルト、経済、教育とさまざま飛ぶが、言わんとしているのは一元的になってはいけないということ、考えることを楽にしようとすると一元的になってしまう、ということを終始伝えようとしていると感じた。

ついでながら、養老先生の専門である脳についての記述も少し引用させていただく。

「賢い人と賢くない人の脳は違うのか。外見はまったく変わりません。脳みそのシワが多いといい、という俗説もありますが、これも関係ない。では、利口、バカを何で測るかといえば、結局、これは社会的適応性でしか測れない」

「脳は人によってそんなに違うものではない。脳を構成しているのは、神経細胞とグリアと血管、それだけ。グリアというのは脳の機能として直接には何もしておらず、神経細胞を生かすために働いているものです。神経細胞とグリアの集合体のようなものが脳を作っていて他に必要な血管が入っている。脳を構成しているものはそれだけしかない。脳というものは複雑かというとそんなことはなくて、組織としては極めて単純なものなのです」

「脳にある神経細胞はどう働いているのか。神経細胞自体は興奮するかしないかのどちらかしかない。しかも、興奮しているのは非常に短い時間、10ミリセカンド以内に起こる。その興奮が、大体、音の速さくらい、1秒間に200〜300メートルという速度で線維を伝わって次の細胞に刺激を与える。ひとつの神経細胞に1000から1万のシナプスがあります。このシナプスには興奮性と抑制性と二種類があって、必ずしも興奮するだけではなく、逆にマイナスに働く場合もあります」

やはり自分がまったく知らないことは面白い。脳の話はテレビでも何度も見たはずなのに、自分に興味が無ければ頭に残らない。この本では、養老さんの主張が私が普段思っていることに近いので、それほど新鮮に感じなかったのかもしれない。むしろ、私がこれまで意識を払ってこなかった脳の話の方が興味深く感じたのだろう。面白いものだ。

それにしても、ベストセラーになった本は私に響かないことが多い気がする。なぜか。私が世の中とずれているからなのだろうか。

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