妻の不眠症が移ったわけでもないが、昨夜はあまりよく寝られなかった。
だから、朝からぼんやりしている。

このところ連日、日本のメディアを賑わせている北海道知床の観光船の遭難事故。
乗客乗員26人のうち幼い子供を含む11人が遺体で見つかったが、残る15人については未だに行方がわからない。
潮流の関係で北方領土の方向に流されている可能性も高い。
ウクライナ侵攻に伴って日本政府がロシア制裁を発動したため、日ロ関係が冷え切っているだけに捜索への影響も懸念される。
事故直後から運行会社の対応や安全管理にさまざまな批判が出ていたが、責任者である社長は遺族やメディアの前にも姿を見せず、これは訳ありの会社に違いないと感じた。

事故発生から5日が経ち、昨日ようやく記者会見に臨んだ知床遊覧船の桂田精一社長は、冒頭「この度はお騒がせして申し訳ありませんでした」と述べてカメラに向かって土下座をした。
いかにも日本的な謝罪会見だが、田舎の小さな会社のワンマン社長といった風情で、事故を防ぐという意識も万一事故が起きた時に何をすべきかも考えることなく、観光船の経営に乗り出したのは一目瞭然だった。
定かな情報はあまり出ていないが、桂田社長は、地元の有力者だった父親からいくつかの宿を経営する「しれとこ村グループ」を5、6年前に引き継ぎ社長に就任した。
それまでは陶芸家だったとの情報も。
そこから経営コンサルタントの指導を仰ぎながら事業を拡大、売りに出ていた観光船の会社もこの経営コンサルに言われるままに買い取ってグループに加えたという。
だから海のことはど素人で現場に任せっきりだったが、どういう経緯かベテランの船長らを全員解雇して新たなスタッフを雇った。
コロナ禍で観光業はどこも苦境が続いていた中で、黒字化を目指して無理をしていたとの指摘もある。
事故原因については今後の調査を待たねばならないが、この社長に安全に対する意識が欠けていたことは間違いなさそうで、いずれ刑事事件に発展する可能性も高い。
私もよく旅をする人間だが、旅先では誰が信用できて誰が信用できないか見分けることなどできるはずもない。
白タクの類に引っかかることもよくあるが、偶然乗った船が沈没したらもう運命と諦めるしかないだろう。
旅には危険がつきものということをせいぜい心に刻むことにしよう。

世界的には、世界一の富豪イーロン・マスク氏によるツイッター社買収劇に注目が集まった。
現経営陣はマスク氏からの買収提案に対し当初は防衛策を発動する構えだったが、結局はマスク氏の資金力には抗えず、5兆6千億円で発行済みの全株をマスク氏が買い取ることで決着した。
巨大プラットフォームとなったSNS上では、フェイクニュースやヘイトスピーチの拡散の問題が深刻化し、ツイッターもアカウントの停止を含む対策を強化してきた。
しかしマスク氏はかねてより、こうした規制によって言論の自由が侵害されていると語っていて、25日の声明でも「言論の自由は民主主義が機能するための基盤」と訴えた。
かつてトランプ大統領がツイッターを駆使してフェイクニュースを拡散した苦い反省から現在の欧米のリーダーたちはSNSの規制に積極的な立場で、マスク氏がツイッターをどのように変えていくのか不安気に推移を見守っている。
何と言ってもマスク氏は、電気自動車の「テスラ」と宇宙ビジネスの「スペースX」を創業した革命的な経営者であり、常人が考えもしないような変革をSNSにもたらすことを考えているのだろう。
それは世界に「良い言論の自由」を与えるのか、それとも「悪い言論の自由」をもたらすのか?
ツイッターのトップ交代は、私たち人類全体の未来にも影響を与えるかもしれない。

さらにもう一人、私が注目しているのがこの人物である。
このおっさん、一体誰だ?
私もつい最近まで知らなかったのだが、5月9日に投票が行われるフィリピン大統領選挙で最有力候補と見做されているフェルディナンド・マルコス氏だ。
私が若かりし頃に取材したフィリピンの独裁者マルコス元大統領の長男で、父と同じ名前のため「ボンボン・マルコス」の通称で呼ばれていた。
1986年の民衆革命により、20年にわたって独裁体制を敷いたマルコス政権が崩壊した様は、私のテレビマンとしての人生でも傑出した瞬間だった。
あれから36年が経ち、民衆に追い出された独裁者の息子が再び政権を握るかもしれないのだという。
あの頃も、マニラのような大都市部ではマルコス氏の人気は地に落ちていたが、地方に行けばまだまだ根強い人気があった。
晩年は独裁者になってしまったが、大統領に就任した当初のマルコス氏は地方の貧しい人たちのための政策を推進する革新的な大統領だった。

世論調査の結果を見れば、マルコス・ジュニアが他の候補者に大きく差をつけている。
元大統領の息子として絶対的な知名度を持ち、上下院議員として実績を積み、SNSを駆使して若者にも浸透しているという。
政策的には、今も根強い人気を持つドゥテルテ大統領を継承し、中国からの投資を呼び込んで経済の立て直しに力点を置いている。
劇薬だったドゥテルテ大統領の後にどんなリーダーが現れるのか?
中国と西側の対立が先鋭化する中で、かつてアメリカの植民地だったフィリピンのトップ交代は大きな意味を持ってくると私は考えている。
日本、台湾からフィリピン、インドネシアとつながるラインが西側と歩調を合わせれば中国にとっては厄介な防波堤となる。
一方、フィリピンが中国に接近すれば、南シナ海での中国の覇権がますます確定的となり、台湾にも大きなプレッシャーが掛かることになるだろう。
旧宗主国であるアメリカがそれを黙って許すとは思えない。
政権にしがみつく父マルコスに対し、最後に引導を渡したのもアメリカだった。
マルコス・ジュニアは、果たしてアメリカに対してどんな思いを抱いているのだろう?
トップが変われば、国も変わる。
日本ではまだあまり注目されていないが、来月のフィリピン大統領選挙、日本にとっても目が離せないものとなるだろう。