<吉祥寺残日録>シニアのテレビ📺 「アインシュタイン 消えた“天才脳”を追え」&「運と鈍と根」 #210607

藤井聡太二冠がタイトルホルダーとして渡辺明三冠の挑戦を受ける将棋棋聖戦が始まった。

まさに現在の将棋界のトップを争う二強による頂上決戦、そして藤井くんにとっては初の防衛戦である。

昨日行われた第1戦、鮮やかなブルーの羽織を着て現れた藤井二冠が勝利を収めた。

今年も若き天才の快進撃は止まりそうにない。

そんな天才たちの「ひらめき」にスポットを当てた番組を興味深く見た。

BSプレミアムで放送された『ヒューマニエンス「“天才” ひらめきのミステリー」』。

天才を天才ならしめる「ひらめき」のメカニズムは脳科学における重要なテーマの一つとなっている。

番組に沿って、私が面白いと思った点を書き残す。

まず紹介されたのは天才棋士の一人・羽生善治九段。

羽生は、「直感の7割は正しい」と書き残している。

「このひらめきはどこから来るのか?」理化学研究所では、プロ棋士とアマチュアの高段者を集めて詰将棋を考える際の脳の動きをMRIを使って観察した。

この実験には羽生善治さんも参加した。

その結果、大きな違いがあったのは脳の深いところにある「大脳基底核」の働きだった。

「大脳基底核」は、カンブリア紀には生物に備わっていたという説もある進化的に古い脳であり、場面ごとに一番いい行為を選択したり行為の自動化を学習する際に重要な働きをしている部分だ。

つまり習慣的で無意識の活動をつかさどるのが「大脳基底核」なのだ。

プロ棋士が感じる「気持ちいい一手」というのは、この「大脳基底核」の働きによるものでそれが「直感」や「ひらめき」に通じる。

「大脳基底核」には、「淡蒼球」と「線条体」という直感に関わる2つのパーツがあるという。

大脳皮質から送られてくる情報を「淡蒼球」が一旦ストップし、「線条体」はその情報の一部だけを通して意識に上げてくるという働きをしていると考えられている。

天才の代名詞といえばアインシュタイン。

彼の脳は死後に摘出され、研究のために細かく刻まれて世界中の科学者たちに配られたという。

30年後、アメリカの研究者によって、アインシュタインの脳には普通の人の1.7倍の「グリア細胞」が含まれていたことが明らかにされた。

人間の脳には情報伝達の要である神経ネットワークが張り巡らされているが、その神経細胞のまわりを埋め尽くすように存在しているのが「グリア細胞」である。

アインシュタインの脳によって注目された「グリア細胞」。

神経細胞同士の連絡に使うグルタミン酸が神経から放出されて、それをグリア細胞が受け取って、興奮性信号を増幅しているのではないか?

研究が進むにつれ、脳の脇役と考えられてきた「グリア細胞」が実は重要な役割を担っていた可能性が出てきた。

何度も繰り返し使う記憶については、情報のつながりを強くする決定権をグリア細胞が握っていて、グリア細胞を活性化させることで長期記憶がよくなるという。

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一方で、昔から天才脳と関連して考えられてきた「IQ」は、長期にわたる研究の結果、子供の頃「IQ」が高いこととノーベル賞を受賞するような天才的な業績には関連がないことがわかってきた。

小脳研究の世界的権威で文化勲章を受賞した伊藤正男さんは、「いい研究者になるには、運と鈍と根だよ」と生前話していたという。

すなわち、幸運に恵まれること、ちょっと失敗したぐらいで諦めない鈍感さ、そして根を詰めるこだわりが重要だということだろう。

若くして天才と言われた人たちの多くは飽きてやめてしまう。

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さらに、新しいアイデアを生み出すためには、脳の遊びの状態「デフォルト・モード」が重要だということもわかってきた。

人間が何もしていない時の脳は休んでいるとこれまでは考えられてきたが、実は脳の活動は課題を与えられた時に下がり、休んでいる時にだけ活動が上がる場所が見つかった。

それは、前頭前野の内側。

つまり、「デフォルト・モード」になるとこの「内側前頭前野」と呼ばれる部分が活発に活動するという。

この部分は心や精神をつかさどる。

さらに、後部の帯状回と下部頭頂小葉の一部も盛んに働いて、これらの部分を連携させたネットワークによって、「マインドワンダリング(心の散歩)」という現象が脳の中で起きるのだ。

心がふらふらと思いつくままに散歩する状態。

ニュートンがりんごが落ちるのを見て重力を発見したのも、アルキメデスが風呂に入っている時に物体の体積と浮力の関係に気づいたのもその一例と考えられる。

「考える脳」と「考えない脳」はシーソーのように交互に立ち上がる仕組みと考えられ、目の前の仕事を完全に忘れた「自由空想時間」が重要であり、そこには「何かをしよう」という意識が出たらダメなのだという。

ただブラブラとぼやっと歩くのが「ひらめき」を得るためには大切なのだ。

なんだか、わかる気がする。

そして、とても面白い。

一口にひらめきと言っても、大脳基底核のひらめきと、デフォルトモードのひらめきはどうやら違うようであり、私が求めているのは完全にデフォルトモードのひらめきの方だと感じた。

天才の脳ということでいえば、今年2月に見たドキュメンタリー番組も実に興味深かった。

BS1スペシャル「アインシュタイン 消えた“天才脳”を追え 特別編」。

NHKの公式サイトには、番組内容についてこう書かれている。

天才物理学者アルバート・アインシュタイン。その類いまれな知性はどのようにして生まれたのか、最新の脳科学からその一端が見えてきた!
アインシュタインの脳は、1955年の死後密かに解剖されたが、今どこに存在しているのか、詳しくは分かっていない。今回番組では、新たに発見した手がかりをもとに、日本、アメリカ、カナダ、アルゼンチンなど世界各地を取材。辿りついたのは、切断された100以上もの脳片を持つ人物、解剖時に撮影された数百枚の写真、そして、アインシュタインの脳を手にしたことで数奇な人生を辿ることになった研究者たちの姿だった。番組では、研究者たちの協力を得て、アインシュタインの脳を初めて3DCG化、さらに、相対性理論などを生み出した20代の頃の脳を再現することに成功した。アインシュタインの脳を世界に探し求めるロードムービーと最新の脳科学で、知られざる天才脳の秘密に迫る。

引用:NHK

この番組を見た時、私はアインシュタインの脳が取り出され、細かく切断され、日本人を含む世界各地の研究者に配られている事実をまったく知らなかった。

科学の持つ空恐ろしい舞台裏を見た気分になり、大きな衝撃を受けたドキュメンタリーだった。

こちらも録画してあるので、番組の構成に沿って、私の心に残った部分を記録させてもらおう。

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1955年、アインシュタインは76歳でこの世を去る。

この時、入院先の病院で病理解剖を担当した医師がトーマス・ハーベイだった。

アインシュタインの才能の秘密を解き明かしてみたいと考えたハーベイは、脳の摘出に踏み切った。

ハーベイは行為は遺族を激怒させ社会を騒がせ、大きな成果を出せないまま病院を解雇されたが、ハーベイはその後も脳を持ち去り各地を転々とした挙句、2007年に亡くなった。

ハーベイが保有していたアインシュタインの脳はどこへ行ったのか?

脳の行方を追って番組はハーベイが最後に暮らしていたアメリカ・プリンストン郊外に向かう。

近所の人へのインタビューから、ハーベイが晩年になっても脳を保管していたことが確認できた。

ハーベイの息子も見つけてインタビューをする。

古い顕微鏡以外は何も引き継いでいなかった。

父親は研究に没頭し家族を顧みず、病院を解雇されると妻と離婚、家族はバラバラになったという。

取材を進めると、ハーベイが残した大量の資料が今の残されていることがわかった。

場所を特定しないことを条件に撮影が許可されたが、資料の中には大量の脳の写真があり、アインシュタインの脳はブロック状に細かくカットされていたことが判明する。

さらに、どのブロックが脳のどの部分だったのか、番号をふって脳のイラストに書き込んであった。

アインシュタインの脳は240個のブロックに切断された可能性が高い。

ハーベイは各ブロックから薄い切片を切り取り、スライドも作成していた。

しかし、肝心の脳のブロックはその場所にはひとつも残されていなかった。

番組では、アインシュタインの脳を撮影した300枚の写真からCGを使って脳の映像化も試みた。

その結果、アインシュタインの脳には顕著な特徴があることがわかる。

まず一つは、視覚や聴感の感覚を統合する頭頂葉の部分、上頭頂小葉は右脳の方が大きく、下頭頂小葉は左脳の方が大きい。

左右でこれほど大きく違う頭頂葉は稀で、アインシュタインは普通の人とは違う思考方法をしていたと考えられる。

もう一つは、脳の内部、左右の脳をつなぐ神経線維の束「脳梁」の厚さが若者よりも厚いことがわかった。

左右の脳をつなぐネットワークが人並外れて発達していた可能性があるという。

さらに最も大きな特徴は前頭葉。

計画や推論など高度な知的作業をつかさどる部分だが、普通の人は3つの脳回を持っているのに対し、アインシュタインは4つ目の脳回を持っていたのだ。

もしアインシュタインの脳ブロックがすべて手に入れば、新たな発見が得られる可能性が高いと専門家は指摘する。

取材班はハーベイが残した資料の中から、ブロックを受け取ったとみられる人名やハーベイと一緒に映った写真を見つけ出し追跡取材を行う。

アインシュタインの脳を受け取った35人を特定、送り先はアメリカ、カナダ、南米、ヨーロッパ、日本と広範囲に渡っていた。

認知症などの研究に携わってきた群馬大学の山口晴保名誉教授もその一人、40番の海馬と198番の前頭葉など5つのブロックをハーベイから受け取ったという。

しかし山口さんは、200枚ほどのスライドを作成してすぐに返却したため、ブロックは保管していなかった。

最も多く脳を所有しているのは、ハーベイが信頼するプリンストン在住の医師だった。

医師は当初「そっとしておいて欲しい」と取材に応じなかったが、匿名を条件に取材に受けることを受け入れた。

溶液の入った瓶に詰まった大量の脳ブロック。

80代を過ぎたハーベイは自分が持っていたアインシュタインの脳をこの医師に託したのだ。

ブロックは形が崩れないよう特殊な樹脂で固められていた。

この医師が持っていたのは127ブロック、全体の半分ほどだったが、前頭葉や頭頂葉など天才性に関わる特徴的な部分が欠けていた。

半分近くのブロックの行方は不明だが、医師はすべてを一箇所に集めて管理することが重要だと語った。

なぜなら、脳科学は急速に発展していて、5年か10年もすればアインシュタインの脳を解明できる技術が登場すると考えているからだ。

その後取材班は、カリフォルニアやカナダ、アルゼンチン、ハワイなどを取材する。

すでに死亡している人、取材を拒否する人、DNAを抽出するためブロックをすりつぶしてしまった人など反応は様々。

中には、アインシュタインの脳に例の「グリア細胞」が多いことを突き止めた研究者もいた。

しかし、ブロックの返還に応じたのは2人の研究者だけ、すべての脳ブロックを回収することは至難の技だということがわかる。

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天才はどうやって生まれるのか?

2つの番組は実に多くの示唆を与えてくれる。

脳科学の急速な進展により、アインシュタインの脳の特殊性が解明される日も近いのかもしれない。

しかし、文系の凡人としては、伊藤正男さんが残した「運と鈍と根」という名言を胸に自分なりに努力していきたいと思った。

なるべくボーッとして脳を「デフォルト・モード」にするつもりだ。

エッセイ脳

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