アフガニスタンで長年支援活動を行ってきたペシャワール会の代表・中村哲さんが、東部の町ジャララバードで複数の男たちに襲撃され命を落とした。
最近海外ネタの扱いが悪いテレビも、大きくこのニュースを扱っている。それだけ、中村さんの活動には誰もが頭が下がる思いを抱いたのだろう。

何より、中村さんの淡々としたキャラクターが素晴らしい。
最近、世界中でネット受けするパフォーマンスが目立ちすぎて私などは正直辟易としている。
SNSで「いいね」をもらうことがその人の評価とみなされ、政治家はもちろん、社会活動家と言われる人たちも過剰にネットを意識するようになった。
でも、本来人間が行う活動というものは地道なものだ。現地の人たちと力を合わせて、課題を一つ一つ改善していく努力の積み重ねだろう。報われないことも多い。単なるきれいごとではない現実とも向き合わなければならない。
ましてや、アフガニスタンである。
ソ連の侵攻以来、ムジャヒディンたちはずっと戦争をしてきた。西側世界では、ソ連と戦っている間は「正義の戦士」と見なされ、たくさんの武器が供与された。しかし、ソ連が撤退した後は、イスラム過激派の巣窟と見なされるようになり、「テロとの戦い」の標的となった。
世界中の矛盾とご都合主義がアフガニスタン社会を歪め、今も未来が全く見通せない国家となってしまった。
中村さんたちが多少支援したからといって、こうした大国の論理を覆すことなどできるはずもない。でも、そこには普通の暮らしを求める普通の人々が暮らしていて、彼らにもより良い平和な暮らしを営む権利があるのだ。
医師として現地を訪れた中村さんは、アフガニスタンの絶望的な現実に接し、医療の限界を感じたという。そして干ばつに苦しむ人々を救うための灌漑事業に取り組む。自ら重機を操り、現地の人々と一緒になって不毛の大地を緑に変えていった。
ものすごい執念の使命感である。でも、中村さんはいつも淡々としていて、世界に向けて激しい言葉を発したり妙なパフォーマンスをしたりしない。
これこそ、真の人道主義者だろう。
私もそんな中村さんの姿勢を少しでも見習えたらと思う。

昨日から風邪をひき、会社を休んで自宅で静養しているのだが、久しぶりにアマゾンプライムで映画などを見ている。
リリー・フランキーさん原作の映画「東京タワー オカンとボクと、時々、オトン」を見ていて、オカン役の樹木希林さんが抗がん剤治療で苦しむシーンがあった。
それを見ながら、病院で抗がん剤で苦しむくらいなら、私は銃撃されて死にたいと思った。不謹慎ではあるが、中村さんにはそのくらいの覚悟はあっただろうと思う。それがあの淡々さの根源だと思うのだ。
ある程度、自分の人生を生きたと思っている人間は、別に長生きをしようとは思わないのではないか? むしろ最後まで自分の使命をまっとうすること、自分らしく死ぬことを望むのではないだろうか?
テレビでは、これだけアフガニスタンに尽くしたのに、さぞ無念であったろうなどとコメントするキャスターも多いが、私は中村さんにとっては想定内の、むしろ覚悟していた最期だったのだと私は思っている。
中村さんは自らの死をもって、多くの人にアフガンの現状を伝え、自らの活動をアピールした。その遺志が少しでも多くの人に引き継がれることを望み、活動の内容は違っても中村さんの生き方を引き継ぐ一人になりたいと思っている。

そんなことを考えながら、アマゾンプライムで一本のドキュメンタリー映画をみた。
「アルマジロ」というタイトルがついたデンマークの映画だ。
国際平和活動に参加する形で、アフガニスタン南部のアルマジロ基地に派遣された、デンマーク兵士たちに7か月間密着した衝撃のドキュメンタリーである。撮影されたのは2010年。「9.11」の同時多発テロを受けてアメリカが始めた「テロとの戦い」もすでに10年目を迎えていた。
デンマークもNATOの一員として、部隊をアフガンに送る。若い兵士たちにとっては初めての戦場だ。戦う敵はタリバン。でも、タリバンと住民の区別は見た目ではつかない。
任務のほとんどは退屈なパトロール。それでも時々、どこからともなく激しい銃声。たちまち銃撃戦が起きる。カメラはその一部始終を撮影している。
仲間たちが負傷し、死者も出る中で、若者たちは次第にタリバンを憎むようになる。そしてある日、5人のタリバン兵を殺し興奮する兵士たち。決して日常生活では味わえない高揚感。興奮して家族にその時の話を伝えた者がいて、それが本国で問題となる。
自分たちが戦う意味もわからず、ただゲームの世界のように戦争にのめり込む若者たち。アフガンでの半年は確実に彼らを変えていく。
そうしたデンマーク兵たちに時折、地元の住民が抗議するシーンが出ていくる。家族を養うはずの牛が殺され、畑が荒らされたと抗議する村人たち。彼らの協力を求めても、「あんたたちはすぐに帰っていくが、自分たちはここに残る。迂闊なことを言えば、自分たちの首が飛ぶ」と長老は答える。村の若者たちも、兵士に「早く自分の国に帰ってくれ」とはっきりと言う。
彼らは母国を離れ、なんのために戦っているのか?
アフガニスタンの現実がとてもリアルにわかる秀逸なドキュメンタリーだった。
私も若い頃、何度か戦場取材をしたことがある。緊張しながら兵士についていくのだが、現場は決まってのどかな村だったり山や野原だったりする。天気が良かったりすると、本当にのどかな景色が広がっている場合が多く、そこが戦場だと言うことを忘れてしまうほどだ。
このドキュメンタリーのエンディングで、取材した初年兵の半数以上は再びアフガニスタンに戻ったと知らされた。一度戦場を経験したものにとって、母国の日常はあまりに退屈に感じるようだ。
アメリカ映画でもよく描かれるそうした戦場の狂気。その狂った誘惑は、国境をこえてゲーム世代の若者たちを惹きつけるのかもしれない。
そんな絶望的なアフガニスタンで、日本人が長年、武力なしで国づくりに貢献したという事実は本当に誇らしいことだと思う。
中村哲さんのご冥福を心からお祈りしたい。
本当に悲しい事件です。先日、留学生に天敵という言葉を教えて、「人間の天敵は?」と聞いたら、「人間」という答えが出ました。本当にその通りですね。