<吉祥寺残日録>西浦教授の会見を聞く #200427

「ウィルスと共存する」。

そんな言葉がなんとなく実感できるようになった気がする。

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世界で、新型コロナウィルスに感染した人の数はおよそ300万人、死者の数も20万人を超えたそうだが、以前のようにいちいち衝撃を受けることもなく、その数字を受け入れるようになっている。

それは私が、ただただ自宅にこもっているだけで、生活の基盤を破壊されるほどの被害を受けていないからだろうが、どうも世界には私のような人が増えているように思う。

中国では、北京や上海で3ヶ月ぶりに学校が一部再開されたという。

ロックダウンが続いていた欧米諸国でも徐々に外出自粛の動きが広がり、心配された発展途上国の感染爆発も今の所目立っていない。それに合わせ奇妙な楽観主義が台頭していて、連日とんでもない経済データが出てきているにも関わらず世界の株式市場では底堅い動きが続く。

人間というものは、環境に適応する動物だということをつくづく感じる。

医療現場の窮状を心配し、仕事を失ったり事業の先行きに苦しむ人たちには心から同情するものの、このウィルスがすぐにはいなくならないことが理解できたことで、逆に一時の悲観論は私の中で大きく後退した印象を受ける。

この先、ひどい事態がいろいろ起きるだろうが、人間はウィルスと共存する方法を見つけるだろう。

ただ、各国の中央銀行が前例のない金融緩和に踏み切ったことで、市場にあふれた巨額のマネーが再び大暴れするのではないかと懸念する。

世界不況の中でインフレが進む「スタグフレーション」の可能性もあるかもしれない。

今の楽観主義も、一時的なものに終わるのだろうか?

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「ステイホーム週間」が始まった東京都では、このところ新規感染者の数が減っていて、昨日は72人、今日は39人と久しぶりに100人を切ったという。

相変わらず検査数が少なく、それも当日には公表されないので、発表される新規感染者数から本当の感染状況は判断できないだろうと私は考えている。

しかし、厚労省クラスター対策班の「8割おじさん」こと北海道大学の西浦博教授は、先日の会見で「東京都内の感染者数は鈍化している」との見方を示した。

政府の専門者会議が政治に押さえ込まれているという印象を受ける中、西浦教授だけは当初から比較的厳しい見解を示していたため、私は西浦さんを比較的信頼できる専門家であると見ている。

その人が「鈍化」を口にしたのだ。

ぜひ理由を聞いてみたいと思っていた。

「8割削減」を提唱したその西浦さんが、24日に報道関係者向けにブリーフィングを開いた。どうも自分たちの考えがうまく国民に伝わっていないと感じているようだ。

その会見の様子を、時事通信が全編動画配信しているのを見つけたので、48分ある動画を聞いてみることにした。

時事通信「東京で感染の伸び鈍化か 大型連休前に緩み懸念も―北大教授」

数式が登場する難しい話を出来るだけわかりやすく話そうとしているのだが、やはり言葉遣いが学者さんなので、テレビのように「素人にもわかりやすく」とはいかない。でも、いくつか理解できたことがあった。

この日のテーマの一つは、PCR検査について。

西浦教授は、記者たちにこの会見で何を伝えたいかをまず語った。

日本では他の国と比べて検査キャパシティーが低いのかもしれない。世界でトップクラスなのは韓国なのでありますが、そういった国と比べたら検査キャパシティーが低くて、実は感染者数が患者として捉えられていないんじゃないかとみなさん考えられるんじゃないかと思うんです。私自身もクラスター対策班の中で分析している上でとってもクリティカルな問題でした。どのようにしてデータを見てるのかという問題を共有したいと思うんです。

「クリティカル」という言葉は一般的に「重大な」「致命的な」という意味だが、批判的なニュアンスが含まれる。西浦さんも日本のPCR検査数が韓国のように増えない現状には問題があると考えているように感じる。

ただ、西浦教授はあくまで統計の担当なので、検査のキャパシティーが低いという現実を受け入れた上で、流行状況をどう解釈しているかについて話を続けた。

テーマは、PCRの検査のキャパシティーが低めであるという、このことは専門家として受け入れなくてはいけないことなんです。低めの時に流行状況に関する解釈が変わるのかいなか?というのが一つ目であります。

先日の専門者会議の後の会見で、私は東京都の新規の患者数が鈍化しているというお話をしました。その後いろんなコメントをいただいたので、一定の回答を示したい。

実効再生産数がPCR検査数が低い中で確実に推定できているのかどうか?という問題について今の段階でわかっていることを共有する。

まず西浦教授が説明したのは、データの解釈についてである。

限られた検査数で今の東京のように感染者が増えてしまうと、「診断バイアス」というものがデータに現れるという。すなわち、「全感染者のうち診断されている率」のことで、これが時刻とともに変動してしまう問題がある。それは、「陽性率が増える」「重傷者率が増える」という形で現れるのだが、「バイアスを補正して解釈を施す」ことによって、実際の感染者数の増減を判断することは可能なのだという。

こうしたデータ処理を施した上で、「東京都の感染者数の伸びは鈍化しているように見える」というのが、24日段階での西浦教授の見解である。

だからと言って、PCR検査が少ないままでいいわけではない。

西浦さんは、次のように続けた。

非常に難しい問題があります。

PCRの検査のキャパシティーに上限があると、確定日別の患者数というのは非常に観察しにくいものになります。確定日別のグラフが平坦になる。何を意味するかというと、報告日や確定日でみるのではなく、発症日で見なければ患者数の自然な増殖度がわかりにくくなる。上限が低いと重傷患者数の全体の捕捉も難しくなる。

実効再生産数を推定してどんな傾きになっているかを私たちが推定する時には、上限で大いに影響を受けてしまうので、発症日や感染日というデータで分析している。

このように、西浦教授が行う分析にもPCR検査のキャパシティーが影響していることを認めた。

そして、西浦教授は私見と断った上で、専門家会議の内部でPCR検査がどのように考えられてきたかという話を打ち明けた。

PCR検査についてどう考えているかを説明しておかなければならない。これまで、説明する機会がなかったので・・・。あくまで私見です。

2月末に本格的な流行対策が始まってから4月最初までは、日本ではクラスター対策やってきました。「三密」という予防が入っているところが特徴で、それに加えて「積極的疫学調査」をしてきました。

その時検査については、検査体制の拡充がすぐできないという日本の状況があって、かつ韓国では「拡大検査」のようなことを積極的疫学調査と重ねてやってたんですけど、それをやれる「FETP(フィールド疫学トレーニングプログラム)」のプロの人は日本には今10人少々しかいません。その人たちが全国飛び回って何とか大車輪でやってくれているというのが今の状況です。

そういう状況で検査に対する姿勢というのがクラスター対策班の中でどうだったのかということに関して、少し誤解があると思うのでこれを述べておく必要があると思う。感染者が少ない中で検査どう進めるか、押谷先生含め対策立案されている皆さんは、感染リスクがある発熱外来をすぐ設置すると、ニューヨークのように二次感染起きるリスクあるかもしれないということで、検査キャパシティーの増強がすぐできない状況では回避しておこうかという判断をしてきた。

そんな中で、4月8日緊急事態宣言のエフェクトが始まって、明確に政策をスイッチしています。

ハイリスクの三密の環境での対策を実行するとともに、社会全体で8割接触を削減することに移行しています。

この背景には帰国に伴う感染者の増加がありました。

従来の対策に頼れなくなりましたし、人口レベルで接触を削減することが必要なほど感染者増えたため政策のスイッチが必要でした。

その時点で、「検査体制に改善してください」と キャパシティの限界がある場所があるので改善をお願いした。

今まででも専門者会議でも求めてきたことなんです。これが成し遂げられて来なくて、4月22日に尾身副座長とかが「このままではいけない」「何も成し遂げられていないじゃないか」ということで、先日の提言の中にやっとエクスプリシット(はっきりと)にそういうものを改善してくださいと入るに至っています。

今後はより有能であろう積極的疫学調査というものを実施しなければいけないんですけど、その時にはよりアグレッシブに検査をするとか、携帯電話のアプリを使うだとかいろんな構想をしているんですが、乗り越えなければならないハードルがたくさんあるというのを見ています。

少なくとも検査については、これまでの帰国者接触者相談センターに頼った状況から少しずつキャパシティーがよくなるようになっていて、まずは重症患者が助かるように、4日間のハードルとかあるが治療が明確になればもっと短くなってもいいので、検査ができると医療としてはより理想的になるんですけど

改善版のクラスター対策をする上では、無症状者への検査はエグジットの時には検討していかなければいけない。感染者が十分に減って、ウィルスを消滅させなければならないという時には検査が必要になると思っている。

西浦教授の話ぶりを聞いていると、純粋に学究肌の人なのだろうと思う。

専門者会議は早くから検査の拡充を求めていたが、一向に進まず、キャパシティーの上限を受け入れながら自分にできることを行ってきたのだろうと思う。

「自分は分析を専門としてここにいるので、政策の私見についてこれ以上の意思はない」というような発言もあり、政府や医療界への批判は避けた。

専門家会議ももっと強く政府に検査の拡充を求めてくれれば、もう少し事態は好転した気がするが、専門者会議を取り巻くいろいろなしがらみがあったのだろうと推察される。

専門家を生かすも殺すも、政治家と官僚次第である。

今ストラテジーとして考えているのは、まず検査の拡充をもう少ししないとキャパシティーが低くてデータに影響を与えるのは困った状態だった、軽症治療が確立し次第に早期診断をしっかりできる態勢に移行できれば、出口戦略としていつか無症状者への検査を入れることによって、より有効なコンタクトトレーシングができるだろう。

西浦教授の会見をダラダラと聴きながら、どれだけ理解できるかは別として、専門家の声を直接聞くことの重要性を痛感した。

外国のように毎日、政策決定に関わる専門家によるブリーフィングの場が設けられ、それを国民も直接聞くことができるようになれば、私たちのイライラも少しは解消されるのではないかと思った。

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