<吉祥寺残日録>デジタル人民元とワクチン外交 #200816

会社を辞めてからのこの1ヶ月ほど、少しずつ、大正から昭和初期にかけての歴史を調べ直している。

第一次世界大戦から第二次世界大戦へ。

日本国内を眺めるだけでなく、世界各国の事情とその繋がりにも注意を払いながら調べていく。

力によって領土を奪い合う帝国主義の時代から戦後の民主主義へと移行する時代、実に多くの人たちの思惑が複雑に絡み合って歴史を紡いでいる。

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なぜ戦争は防げなかったのか?

その答えは、一言では到底言い表すことはできない。

一つ言えることは、この2つの世界大戦を乗り越える中で、「武力によって他国を侵略することはよくないことだ」という原則が生まれたことだ。

それまでは、常に力の強い国が他国を侵略し、領土を広げ、他民族を支配下に置くことが当たり前というルールのもとで人類の歴史は動いてきた。

戦後も各地で紛争は頻発しているが、その多くは独立運動や宗教対立を背景とした局地戦であり、国境を大きく書き換えるような大規模な侵略戦争は起きていない。

これは人類の進歩なのか、それとも一時的なモラトリアムで終わるのか?

その代わりとして、戦後世界を支配してきたのは「ブロック化」という名の戦いである。

米ソ冷戦は半世紀にわたって世界を分断してきた。

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そして今、急速に現実化してきているのが、アメリカと中国の対立を軸とした新たなブロック化の動きである。

トランプ政権は当初、中国に比較的寛大な姿勢を取っていたが、大統領選を前にして一段と中国に対する圧力を強めようとしている。おそらく、バイデン氏が大統領になっても中国に対する強硬な姿勢は変わらないだろう。

それほど、中国の台頭は目を見張るものがあるのだ。

今日ニュースサイトをちょっと眺めただけでも、2つの記事がとても気になった。

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一つはブルームバーグが伝えている「中国のデジタル人民元、北京や香港での試験開始も視野」という記事。

デジタル通貨への注目度はコロナによって一時に比べて静かになっているが、そんな中で中国は着々と自国通貨のデジタル化に向かって進んでいるようだ。

記事を引用する。

中国がデジタル人民元の運用試験を広げる計画の概要を示した。北京や香港など一部の大都市圏での試験開始も目指している。

  14日の商務省発表には実施に向けた日程は盛り込まれていないが、北京市と天津市、河北省から成る「京津冀」、上海を含む長江デルタ地域、広東省深圳や香港、マカオを含む珠江デルタ地域の「粤港澳大湾区」のほか、中部と西部の都市でも条件を満たせば、試験が実施される可能性があるとしている。具体的な都市名は挙げていない。

  発表によれば、深圳と四川省成都、江蘇省蘇州、河北省雄安新区のほか、2022年の冬季五輪の競技会場で試験が行われ、それから他の地域に拡大される。

出典:ブルームバーグ

まだ時期も明示されていない運用試験だが、すでにアリペイやウィーチャットペイが普及している中国が世界で最初に自国通貨のデジタル化を実現させる可能性は極めて高い。

そうなると、現在の世界経済を動かしているドル体制が大きく揺さぶられることになりそうだ。

発展途上国では銀行はなくてもみんなスマホを持っている。

そのスマホさえあれば物を買うことができるデジタル通貨が発展途上国で急速に普及する可能性がある。

先進国でも一時Facebookのデジタル通貨「リブラ」が脚光を浴びたが、その後あまりうまくいっていないように見える。

それに比べて、中国政府が進めるデジタル人民元は、アリババやテンセントをプラットフォームとしてあっという間に中国全土に普及する可能性があると私は考えている。

習近平体制が推し進める「一帯一路構想」と「デジタル人民元」が組み合わさって、驚くペースで中国経済圏が一気に世界に形成されることも夢物語ではない。

もう一つ、私の目に留まった記事は、日本経済新聞の「中国ワクチン、国主導で台頭」という記事である。

日本政府は欧米の製薬メーカーと交渉して、新型コロナワクチンの提供を受けるつもりのようだが、日本製のワクチンの話はほとんど聞こえてこない。

そんな中、中国では自国でワクチンを開発する動きが着実に進んでいるようなのだ。

記事を引用する。

新型コロナウイルスのワクチン開発で中国の存在感が高まっている。9つのワクチン製品候補の臨床試験を進めており、うち5つが最終段階の「第3相」に入った。背景にあるのが国家主導による感染症ウイルス研究の蓄積だ。世界でワクチンの争奪戦が激しくなる中、安全性開示や領土問題を絡めたワクチン外交への懸念も出ている。

今月9日、中国の医薬メーカー、カンシノ・バイオロジクスが手掛ける新型コロナワクチンをサウジアラビアで5000人を対象に最終段階の治験を始めることが新たにわかった。

世界で治験段階にある29の新型コロナワクチンのうち、9つが中国で国別で最も多い。最終段階に治験が進む7つあるワクチンの中でも中国がかかわるのは5つと最多。早ければ秋にも中国産が実用化される見通しだ。

出典:日本経済新聞

中国では、ワクチン開発ももちろん政府主導だ。

ワクチン戦略を描くのが中国政府の科学技術部とされる。

6月に科学技術部が発表した新型コロナ対策を巡る白書の中では、5分野でワクチン開発を同時に進めると強調した。どのワクチンが実用化できるかわからない中、多様なワクチンを自国の企業・組織が開発することで、必要分は自国で調達する狙いがうかがえる。

この記事の中には、こんなグラフも紹介されている。

関連特許の数で中国は世界トップを独走しているのだ

日本経済新聞社が出資する調査会社のアスタミューゼ(東京・千代田)が新型コロナウイルスやインフルエンザなど感染症ウイルス(RNAウイルス)に関する防疫技術の特許を調べたところ、2019年の特許出願件数は106件と米国(61件)の約2倍と08年以降、一貫して世界トップ。不活化技術が中国の感染症防疫の中核だ。

中国ワクチンはほとんど海外に出回っていないため、その実力は不明で、安全性にも疑問があるとこの記事は書いているが、近年中国の研究開発は急速に力をつけていて、日本の方が優れている分野を探すことが難しくなりつつある気がする。

近い将来、中国人研究者がノーベル賞の常連となることは間違い無いだろう。

日本政府が「GO TO キャンペーン」などをしている間に、中国ではコロナ後を睨んだ戦略的な手を次々に打ってきている。

中国の政府系メディアのサイトを見ても、技術大国化を積極的に進めている中国の姿を窺い知ることができる。

新華社のサイトには、「習近平氏、「北斗3号」の正式開通を宣言」。

「北斗3号」とは中国自前の全地球衛星測位システムである。中国は先日、火星探査ロケットも打ち上げたばかりで、精力的に宇宙開発を進めている。

さらに人民日報系のサイトには、経済が順調に回復しているという記事と一緒に、「6月末の時点で中国の5G基地局が40万ヶ所以上に」という記事も目についた。

国際的には、ファーウェイ締め出しの動きが強まっているが、中国には十分な国内市場がある。

疑い深い私は、中国の発表を信用していないし、世界経済が収縮する中で中国経済の先行きにも懐疑的だが、日本と比べると戦略的な印象を受ける。

日本政府はずっと5Gで世界のトップを走ることを目標としていたが、今では5Gを諦めて、6Gとか言い始めている。

「先手先手」の中国を見ていると、「技術立国日本」の未来が本当に心配になってくるのだ。

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太平洋戦争に突入する前、日本の権力の中枢では混乱ぶりが露呈した。

リーダーたちが自分の都合ばかりで何の戦略もないまま日米開戦に突っ込んでいった教訓から、我々はしっかりと学ばなければならないと思う。

作家の船戸与一氏は著書の中で、登場人物にこんな言葉を吐かせている。

『 状況が煮詰まってくると、誰もが疑心暗鬼になる。個人が個人を、組織が組織をまず疑ってかかるようになる。そして、その緊張に耐えきれない時期が来て、状況が破裂を起こす。その時、全体を支配する心理は疑心暗鬼じゃない。もっと危険なものだと思う。

思考の停止だよ。何も考えずに誰もがひたすら突っ走りたがるようになる』

コロナ後の世界。

新たな秩序の中で、私たちは思考停止に陥らず、未来に向かって行動していくことができるだろうか?

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