<吉祥寺残日録>コロナ患者3000万人突破の今こそ響く「妖怪博士」の言葉 #200919

今日から4連休。

コロナがなければ、三人の息子家族と岡山で大集合してぶどう狩りを楽しむ計画だった。

岡山で暮らす年老いた親たちに、三男のお嫁さんを紹介したり、成長したひ孫たちの顔を見せるいい機会だったのだが、万一の事を考えて中止する決断をした。

世界のコロナ感染者はついに3000万人を突破し、もうすぐ死者の数も100万人を超えると見られている。

インドでは1日9万人のペースで感染者が増えていて、ここに来て再びヨーロッパでも感染が広がり始めている。

私も一時ヨーロッパで生活していたからわかるが、パリでは8月半ば頃から涼しくなり、今頃はもう上着がないと寒く感じるようになっているはずだ。

秋になれば感染の再拡大が懸念されるというのが多くの専門家の見解だが、日本では逆に人の移動を活性化する方向に向かっている。

「GO TO キャンペーン」に当初批判的だったテレビも、いつの間にか積極的にお得なプランを紹介して旅行を奨励するような雰囲気が出て来ている。

実際にこのキャンペーンの効果でホテルの予約状況はかなり改善しているようで、10月から東京発着の旅行が対象に加えられることでちょっとした旅行ブームが起こりそうな気配だ。

そんな4連休、私はといえば、いつもと変わらぬ日常を送っている。

朝起きて、みっちりとストレッチ、そして朝風呂に入った。

午後には、読書と昼寝と相撲観戦。

4連休で賑わう街中には出かけるつもりはない。

そして録画したテレビ番組を見ていると、明治から大正の時代に活躍した「妖怪博士」のストーリーに心を惹かれた。

妖怪博士とは、現在の東洋大学の前身である「哲学館」の創始者・井上円了のこと。

もともと妖怪とかに全く興味のない私は、井上円了のことを知らなかったが、NHKの「歴史秘話ヒストリア」で紹介されたこの人物は、もっともっと広く知られるべき立派な日本人だと感じた。

明治期、文明開化によって西洋文明が日本にもたらされた後も、日本人の心の中には妖怪や不思議がいっぱい棲んでいた。

たとえば、明治期に全国で流行した「こっくりさん」という占い。

多くの人がこの占いを信じて様々な社会問題も起きていた。

円了は、「こっくりさん」の発祥地が伊豆下田であり、アメリカ人たちの間で流行っていた占いが日本伝統の狐や天狗と結びついて生まれた事を突き止めた。

「こっくり」は漢字で「狐狗狸」と書き、狐、天狗、狸の意味だという。

円了は、実際に「こっくりさん」を観察し、そのカラクリを学問的に解明し、「これからの日本人は自分の頭で考え判断すべきだ」として、日本人の「心の近代化」を進めたのだ。

「世の中に妖怪や不思議といわれる現象がたくさんある。それらを神や魔の仕業としてしまわずに、本当の原因を明らかにすることこそ学者の使命である」

そして円了は日本に古くから伝わる「火の玉」や「正夢」といった不思議な現象を一つ一つ科学的に解明、2600ページに及ぶ「妖怪学講義」という著書にまとめ、それを「哲学館」の学生たちにも教えた。

しかし、明治政府が富国強兵政策を強化する中で、自ら自由に考えを巡らせ真理に迫る事を大切にした円了の教育方針は、1902年に起きた「哲学館事件」によって文部省から危険視され、円了は哲学館の運営から身を引く決断をする。

でも井上円了という人物がすごいのは、ここからである。

彼は単身日本全国を回り、近代化が及んでいない村々で哲学の大切さを説いて歩いたという。

都会と違い昔ながらの暮らしをする村民たちを集め、妖怪学の話をした。

根拠のない迷信に惑わされずに真実を見極める力をつけることこそ大切だと語りかけたのだ。

「人間には肉体と精神の二つの面があります。体を鍛える方法として運動や体操がありますが、心も同じこと。ものの見方、考え方を鍛えなければならないのです」

こうして14年、5000回以上の講演を行い、地方に住む140万人もの日本人の考え方に影響を与えていったのだ。

「親たちが迷信深く、夜暗くなると怖かった。狐火、鬼火、人魂の話など円了先生は絶対おっかないものでないと説かれた。私は子供心に気持ちが明るくなった」

そう言われてみれば、私の子供の頃には、テレビでも火の玉や幽霊がよく登場していた気がする。

ドリフターズのコントでは定番であり、ある意味子供たちが真っ先に覚える知識の一つであった。

最近はどうなのだろう?

今の子供たちは、「火の玉」などというものを知っているのだろうか?

新型コロナによって恐怖に支配された世界。

世の中がいくら進歩しても、人は未知の困難に直面すると、根拠のない噂や迷信に惑わされてしまう。

同時に、自らの政治的な思惑や金儲けのために、人々の不安心理を利用して根拠のない楽観論や救済策を吹聴する輩も必ず現れるものだ。

「自ら自由に考え真理に迫る」

妖怪博士の言動は、コロナ禍に生きる私たちにも多くの示唆を与えてくれる。

こういう人の爪の垢こそ、煎じて飲みたいものである。

コメントを残す