<現場へ>川崎19人殺傷事件〜中高年ひきこもり61万人の衝撃

川崎登戸殺傷事件

事件は、小田急線とJR南武線が交差する登戸駅の近くで起きた。

5月28日午前7時45分ごろ、子供たちが登校する時間帯だった。

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カリタス学園のスクールバスを待っていた小学生ら19人が包丁を持った男に次々に襲われ、6年の女子児童と子供を送りに来ていた父親の2人が死亡した。

事件を起こした直後、犯人の男は自分の首を刃物で切って自殺したため、いまだに動機など事件の核心部分はわかっていない。

やりきれない事件だ。

登戸の現場へ

NHKの「技研公開」を視察するため、小田急線の成城学園前に行く用事があったので、事件現場となった登戸まで足を伸ばした。

犯人は、岩崎隆一容疑者。無職の51歳だった。

岩崎容疑者は、自宅近くの読売ランド駅から登戸駅に移動した後、南武線沿いの裏道を通って現場に向かったと見られる。

ファミリーマートの駐車場に鞄を置き、持ってきた包丁を両手に握りしめて無言で犯行に及んだ。

事件現場には、今日もマスコミが張り付き、献花に訪れる人々を取材していた。

今回の事件では、犯人がその場で自殺し、動機につながる情報もほとんど出てこない。

現場には、多くの花が手向けられ、今日も多くの人が手を合わせていた。

私もコンビニでお菓子を買って、現場にお供えさせてもらった。亡くなったお子さんはもちろん、ケガをした女の子たちに事件がどんな傷を残すのか、とても心配だ。

今回の事件では、学校側の安全対策に問題がなかった。

駅近くにスクールバスの乗り場を設け、教頭先生が毎朝現場で子供たちが安全に乗り込むのを見守っていた。

それにも関わらず、事件を防げなかった。スクールバスの列に並んでいた子供たちを、男は無差別に刺した。ケガの程度から考えると、「刺した」というよりも包丁で子供たちを切りながらその脇を走り抜けたというのが正確なのではないかと思っている。

「どうやったら子供たちを守れるのか?」

そんな無力感が社会に広がっている。

子供たちを刺した後、男はこのバス停で自殺した。事件のことを知らなければ、ごく普通のバス停でしかない。

男は、80代の伯父と伯母の家で、ひきこもりの生活を続けていた。ニュースで使われる岩崎容疑者の写真は、中学校時代のものしかない。成人してから彼が何をして51歳まで生きてきたのか、まったく情報がないというのも異常なことである。

警察が男の自宅を捜索したが、岩崎容疑者の自宅にはネット環境がなかった。押収されたのはテレビとゲーム、そして大量殺人を扱った古い雑誌だ。

まるで昭和の事件。

長く家から一歩も出なかった容疑者がなぜ50歳を過ぎてから凶行に及んだのか? 謎は深まるばかりだ。

そのため、メディアやネットでは、自殺しようとする人が他人を巻き込む「拡大自殺」といった言葉がもてはやされている。

犯罪心理学の専門家がテレビに出演し適当な解説をしているが、何一つしっくりこない。「ひきこもりと犯罪を結びつけるな」とかもっともらしい主張をする解説者もいるが、今回の事件のキーワードはどう考えても「ひきこもり」だろう。

8050問題

今からわずか2ヶ月前に、事件とも関係する初めての調査結果が内閣府から発表されていた。

「40~64歳のひきこもり状態の人が全国に61.3万人いる。」

ひきこもっている中高年がなんと60万人もいると言うのだ。

15〜39歳までの「若年ひきこもり」の数は2015年の調査で、54.1万人とされる。中高年の方が多いのだ。ひきこもりと言えば、若者と思っていたが、実態はそうではないらしい。

そんな中、「8050問題」という言葉も、にわかに注目を集めるようになった。

ひきこもりの子供が50歳になり、世話をしていた親たちが80歳を迎えているという現実だ。親たちは、自分たちが死んだ後、子供がどうやって生きていくのか悩んでいる。

就職氷河期と呼ばれる世代は現在40代。この世代には就職できず長くひきこもってしまった人が多いと言われる。8050問題は、これからが本番かもしれない。

岩崎容疑者がなぜひきこもったのか、正確な情報はこれまでのところ出ていない。家庭にはいろんな事情があり、一概に決めつけることはできないが、日本の親子関係がひきこもりを生みやすい土壌となっていると私はずっと考えている。

100万人とも推定される日本のひきこもり人口だが、親に責任があるケースが多いのではないか?

ここからは、まったくの私見だ。

今回の事件とも引きこもりの原因ともストレートにつながるとは思っていないが、まったく無関係でもないと私は考えている。

私が問題だと思っているのは、近頃の日本人の親たちが我が子を家から追い出さないことだ。特に大都市圏に住む親子に見られる深刻な現象である。

親と暮らす未婚者急増

女性セブンのネット記事に、気になる数字が出ていた。

『2015年に厚生労働省が行った調査によれば「50才まで一度も結婚したことがない人」の割合を示す生涯未婚率は男性23.4%、女性14.1%。つまり男性の約4人に1人、女性の約7人に1人が一生結婚しない。さらに、未婚者のうち、親と同居する20~50代は約1430万人で、未婚者全体の約7割を占める。この人数は1980年からの35年でおよそ3倍に急増したという。』

20〜50代の未婚者のうち、親と同居している人が7割を占めると言う。そしてその数は、過去35年で3倍に増えていると言うのだ。

これこそ、私の感覚を裏付けるデータだと思った。記事には、こんな興味深いことも書いてあった。

『不思議なもので、『社会人の息子が家を出ない』と悩んでいる親でも、10年くらい経って自分が年を取ると、子供がいる方が便利になる。たとえば、ちょっと車を出して病院に行ったり、力仕事が必要だったりする場合、若い力があるとすごく助かります。

 こうした場合、親と子供が互いに依存し合い、切っても切り離せない関係になる『共依存』に陥りやすい。口では『子供が出て行かなくて困っているのよ』と言っても、本音では『ずっといてほしい』ということになるんです。しまいには子供が家を出ようとしても、親が『頼むから一緒にいてほしい』とすがるようになります』

子供も親も相互に自立できない甘えた親子関係ができあがってしまうのだ。

それを断ち切るには、親の覚悟が必要だと私は思っている。我が家の例をご紹介しよう。

高校出たら家から出す

私は子育てはほとんど妻に任せっきりだったが、一つだけ断固としてこだわったことがある。

「高校を卒業したら息子たちを家から出す」

これが我が家の家訓だった。家訓といっても、私が勝手に作った家訓だ。

我が家には3人の息子がいた。

私は、息子たちが高校を卒業すると、「風呂なしのアパートから始めろ」と言って家から追い出した。上の2人は、安いボロアパートを見つけてきてそこで暮らした。末っ子だけは、安い風呂付きのアパートをちゃっかり探してきて、風呂なしというルールを破ったがそれでも一人暮らしを始めた。

全員、学校は都内、自宅から通える距離だったが、あえて一人暮らしをさせた。

家賃と生活費として月10万円を仕送りした。家賃が安ければそれだけ生活費が増える仕組みだ。

風呂なしのアパートに住み、多少の貧乏を経験することはいい経験だと思った。そこから始めればお風呂が付いたアパートに引っ越しただけで嬉しい。人生のステップアップを味わうには、出発点は出来るだけ低い方がいい。

結果的に息子たちはきっちり自立し、結婚も早かった。やはり、自宅に比べて何かと不便だったからかもしれない。

貧しくても最高の時

もちろん自宅から通わせる方が家計は楽だ。でも、私にとって重要な経験だった学生時代の一人暮らしをぜひ息子たちにもさせてやりたいと思った。

息子たちを家から出したのは、私自身の若い頃の経験に基づくものだ。

私は高校まで岡山で育ち、大学で初めて親元を離れて東京で一人暮らしをした。仕送りは月4万円でお金はなかったが、私にとっては人生で最高の時間だった。

親から離れ、自分の力で新しい人間関係を築き、生活を切り盛りしなければならない。大変だが、これは試練ではなく楽しみだった。1年もすれば、見違えるほどたくましくなる。自分で生きる自信が持てるようになった。

居心地の良い自宅にずっと暮らしていては、ダメなのだ。

今の親たち、特に首都圏に住む親たちは、「お金がかかるし子供も出て行こうとしない」とすぐ口にするが、それは親たちに子離れする覚悟がないためだ。親の手元に置いておくことで、子供の自立を妨げていると言う意識を持つべきである。

昔の日本はまだ貧しかったが、それでも親たちは子供を家から送り出した。子供の人生を最後まで親が世話することはできないし、するべきでもない。子供たちには自分で自分の人生を築かせなければダメなのだ。

親たちよ、子離れせよ

自宅暮らしで全てこれまで通り母親がやってくれる環境だと、子供は生活に不便を感じない。今時の子供たちにとって、優しい両親が住む実家は居心地が良すぎるのだ。また同時に、子供から離れようとしない母親も多すぎる気がする。

だから私は、「子供がなかなか結婚しない」とぼやいている人を見ると、必ず早く家から追い出しなさいと話してきた。多くの人は「へえ」とびっくりしたような反応をする。子供を家から出すと言う選択肢をそれまで考えたこともなかったと言う人が多いのだ。

そして、「そんな簡単なことじゃないでしょう」と私の言うことに耳を貸そうとしない人が実に多い。こうした親子は、ひきこもり予備軍だ。

昔の日本の家族制度がいいとは全く思っていない。親子の仲がいいのは、良いことだ。

それでも親は成長した我が子を家から追い出さなければならない。

我が子をひきこもりにさせないためには、親の覚悟が必要だ。そう私は確信している。

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