<吉祥寺残日録>女性裁判長が出した同性婚にまつわる画期的な違憲判決 #210318

菅総理は昨日、首都圏に出されている緊急事態宣言を今週末で解除する意向を明らかにした。

リバウンドの兆候が出始めているが、再々延長はないだろうと見越して、私は4月1日に岡山行きの飛行機をマイルを使って予約していた。

2ヶ月半にわたる緊急事態宣言によってストップしていた岡山での用事がようやくできそうだ。

しかし、予想されていた菅さんの会見よりも、私にとって興味深かったニュースは札幌地裁で出された一つの判決だった。

『同性どうしの結婚が認められないのは憲法に違反する』

3組の同性カップルが起こした集団訴訟で、札幌地裁は「合理的な根拠を欠いた差別的な扱いだ」として、初めて「違憲」との判断を下した。

G7諸国の中で同性婚を認めていないのは日本だけだが、逆にアジアで同性婚を認めているのは台湾だけ、日本ではまだまだ同性婚に対する理解が進んでいない中での画期的な判決である。

私が特に注目したのは、この判決を出したのが女性の裁判長だったこと。

何か新しい風が吹き始めている感じがしたのだ。

NHKの記事からその判決の内容を確認する。

17日の判決で、札幌地方裁判所の武部知子裁判長はまず「憲法24条の『婚姻は両性の合意のみに基づく』との規定は、『両性』など男女を想起させる文言が使われるなど異性婚について定めたものだ」として、婚姻の自由を定めた憲法24条には違反しないと判断しました。

一方で「同性愛者と異性愛者の違いは人の意思によって選択できない性的指向の違いでしかなく、受けられる法的利益に差はないといわなければならない。同性愛者が婚姻によって生じる法的利益の一部すらも受けられないのは合理的な根拠を欠いた差別的な取り扱いだ」などとして、法の下の平等を定めた憲法14条に違反するという初めての判断を示しました。

国に賠償を求める訴えについては、「国会で同性カップルの保護に関する議論がされるようになったのは最近のことで、憲法違反の状態であると直ちに認識するのは容易ではなかった」として退けました。

出典:NHK

つまり、判決のポイントは3点・・・

  1. 婚姻の自由を定めた憲法24条には違反しない
  2. 法の下での平等を定めた憲法14条に違反する
  3. 国に対する賠償は認めない

原告の訴えをすべて受け入れたわけではないが、とても合理的で腑に落ちる判決だと思った。

さらに、判決要旨の全文を読んでみると、同性婚に対する差別の歴史もしっかり踏まえて出された判決だということがわかるので、引用しておきたい。

当裁判所が,証拠等に基づき認定した事実の概要は,次のとおりである。

(1) 性的指向とは,人が情緒的,感情的,性的な意味で,人に対して魅力を感じることであり,このような恋愛・性愛の対象が異性に対して向くことが異性愛,同性に対して向くことが同性愛であるが,人の意思によって,選択・ 変更し得るものではない。

(2) 明治期において,同性愛は,精神疾患であって治療すべきもの,絶対に禁止すべきものとされていた。また,明治民法における婚姻とは,終生の共同生活を目的とする, 男女の,道徳上及び風俗上の要求に合致した結合関係であるなどとされたが,同性婚が認められないことは当然であるとされた。このような明治民法における婚姻の目的は,男女が夫婦の共同生活を送ることにあり,必ずしも子を残すことのみが目的ではないと考えられていた。

(3) 戦後から昭和55年頃までの間においても,同性愛は,精神疾患であって治療すべきものとされ,教育領域においても,健全な社会道徳に反し,性の秩序を乱す行為となり得るものとされた。昭和22年には現行民法に改正されたが,婚姻とは,社会通念による夫婦関係を築く男女の精神的・肉体的結合であるなどと解され,同性婚は当然に認められないものとされた。

(4) しかしながら,昭和48年以降,米国精神医学会や世界保健機関が,相次いで同性愛は精神疾患ではないことを明らかにし,我が国においても,昭和56年頃から同様の医学的知見が広がり始めた。

(5) 諸外国において,同性婚又は登録パートナーシップ制度を導入する国が増え,同性婚を認めない法制度が憲法に違反するとの司法判断が示される国もあった。我が国においても,平成27年以降,登録パートナーシップ制度を導入する地方公共団体が増加している。

(6) 平成27年以降に行われた意識調査によれば,同性婚又は同性愛者のカップルに対する法的保護に肯定的な者は,おおむね半数程度であることが示されている。しかし,年代別にみたときには,50代までの世代においては,肯定的な回答が多いものの,60歳以上の世代においては,否定的な回答が多いことが示されている。

出典:HUFFPOST

私が特に気に入ったのが、この部分だ。

『性的指向とは,人が情緒的,感情的,性的な意味で,人に対して魅力を感じることであり,このような恋愛・性愛の対象が異性に対して向くことが異性愛,同性に対して向くことが同性愛であるが,人の意思によって,選択・ 変更し得るものではない』

同性愛について異常なもの、不健全なものとする従来の考え方から踏み出して、同性に魅力を感じる人がいるという前提に立って見解を示した点は、法曹界にも女性が進出した良い変化だと感じる。

武部知子裁判長がどのような人なのかまったく知らないが、今回の判決は大したものだと思う。

女性だから同性愛に理解を示すというわけでないことは、自民党の保守派に女性が多いことを見ればわかるが、あくまで「婚姻の自由」ではなく「法の下での平等」という一点で違憲と判断したのは実に見事だった。

確かに、同性婚カップルは異性の夫婦が受けられる当たり前の権利を認められていない。

どんなに長く一緒に生活していても、パートナーとしての権利が何も認められないというのは、どう考えても平等ではない。

世界的にみると、同性婚を認めた国や地域は現在29。

2001年のオランダから始まって、南アフリカ、メキシコ、アルゼンチン、ブラジル、コロンビア、コスタリカ、エクアドル、ウルグアイ、オランダ、ベルギー、スペイン、ノルウェー、スウェーデン、ポルトガル、アイスランド、デンマーク、フランス、イギリス、ルクセンブルク、アイルランド、フィンランド、マルタ、ドイツ、オーストリア、オーストラリア、ニュージーランド、アメリカ、カナダ、台湾、とヨーロッパと南北アメリカ大陸の国が中心だ。

日本では、男女が結婚し子供を産み育てることこそが正しいというある種の「べき論」が高齢者を中心に根強く、安倍さん周辺のような自民党保守派が考える「正しい家族像」が長い間まかり通ってきた。

私は決して同性愛運動を支援するほどの理解者ではないが、夫婦別姓すら認めようとしない保守派の頑なな主張には危うさを感じてきた。

安倍総理が去った今、一方的な価値観の押し付けではなく、一人一人の人権、社会的な平等を大切にする自由な日本社会に変わっていって欲しいと願っている。

組織委員会の森さんの問題からも見えたように、裁判官のような社会を方向づける重要なポジションに、女性や若者、多様な価値観を持った人たちが増えることによって、社会の流れは少しずつ変わっていく。

今回の判決が、その第一歩になってくれればと思いながら、女性裁判官による英断を驚きを持って受け止めた。

<吉祥寺残日録>森会長辞任!そもそも日本人の女性差別の根っこはどこにあるのか? #210212

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