<吉祥寺残日録>トイレの歳時記🌻七十二候「鷹乃学習(たかすなわちわざをなす)」と自殺した林真須美死刑囚の娘 #210717

我が家のトイレにかかっている歳時記カレンダーには、7月17日の欄に「京都祇園祭 前祭」と書かれている。

梅雨が明けて、京の都に夏の訪れを告げる祇園祭のハイライト「山鉾巡行」は、コロナのために2年連続の中止となった。

そして今日は、「小暑」の末候「鷹乃学習(たかすなわちわざをなす)」にあたる。

「タカの幼鳥が飛ぶことを教わり覚える頃」という意味だそうだ。

ほぼ2週間ぶりに井の頭公園を一回りするついでにオオタカの巣の様子も見てこようと思い、朝から散歩に出かけた。

井の頭公園の南西端に位置する「第二公園」。

井の頭池周辺の賑わいとは縁遠いひっそりとしたエリアだが、今朝は高齢者の集団が木陰に集まり体操をしていた。

夏の太陽が朝から照りつけているが、木陰に入るとまださほど暑くない。

この第二公園の木立の中に、オオタカが巣を作ったと聞いたのは今年の春のことだった。

その頃には大きなカメラを抱えた愛鳥家たちの姿をこの公園で見かけ、少し離れた場所からも大きな巣を見ることができたのだが、今はカメラマンの姿もなく、樹木にも葉が生い茂り何も見えない。

木立の中に踏み入ると、高い木の枝の分かれたところにオオタカの巣が残っていた。

しかし鳥の姿はない。

たくさんの小枝を集めて作られたオオタカの巣。

どうやら今年はここでの子育ては行われなかったようだ。

こちらは、5月に放送されたNHK「さわやか自然百景」から拝借した。

おそらく去年、井の頭公園で撮影したオオタカの勇姿であろう。

井の頭公園の生態系の頂点に君臨するオオタカだが、残念ながら私はまだ一度もお目にかかったことがない。

また来年以降の楽しみとしよう。

さて、オオタカとは何の関係もないが、昨夜偶然見たテレビ番組の話を書いておこうと思う。

NHKの「クローズアップ現代+」。

昨日のテーマは「カレー事件の子どもたち 闇に追われた23年」、1998年7月に発生した「和歌山毒物カレー事件」の容疑者として日本中の注目を集め、死刑が確定している林真須美死刑囚の子どもたちのその後を追った番組だった。

和歌山カレー事件から23年。先月、林眞須美死刑囚の長女が自ら命を絶った。家族とも連絡を断っていた長女に何が?足跡から事件に関わった家族の「心の闇」が見えてきた。 1998年7月、夏祭りで小学生を含む4人が死亡した和歌山毒物カレー事件。連日、報道が過熱し、日本中の関心が“事件の家族”に集まった。あれから23年。林眞須美死刑囚の長女が4歳の娘と共に自ら命を絶った。いったい何があったのか…突然の死をきっかけに、長年連絡が途絶えていた長女の「空白期間」を弟がたどり始めている。見えてきたのは、素性を隠して別の人生を探り、事件を断ち切ろうとし続けていた姉の姿だった。

引用:NHK

「和歌山カレー事件」は、私が夕方ニュースの編集長をしていた時代に起きた。

ワイドショーが連日センセーショナルな報道合戦を繰り広げる中で、どのようにこのニュースを扱うのか頭を悩ませたことを思い出す。

林真須美死刑囚の長女が自殺したのは先月のことだったが、私は昨夜この番組を見るまで知らなかった。

その概略を、週刊誌の記事から引用する。

6月9日午後、大阪府泉佐野市の関西国際空港連絡橋(関空連絡橋)から母子が飛び降りて亡くなった一件が、急展開を見せた。橋の近くの海上で浮かんでいるところを発見され、その後、搬送先で死亡が確認されたのは、37歳の女性とその次女と見られる 4歳女児。この37歳女性が、1998年に起きた和歌山毒物カレー事件の林眞須美死刑囚の長女だったことが報じられたのだ。

橋から飛び降りる約2時間前には、和歌山市内にあるこの女性の自宅で、16歳の長女が心肺停止の状態で発見され、病院に搬送されたものの、その後死亡が確認されていた。

37歳女性は、6月9日午後2時20分ごろに自宅から119番。「家に帰ってきたら娘の意識と呼吸がない。血みたいな黒いものを吐いている」と通報した。消防が駆けつけると、倒れている16歳女児のほかに、この37歳女性と4歳の次女、そして女性の夫の4人がいたという。

救急車には夫が同乗。取り乱した様子だった女性は、4歳次女とともに行方がわからなくなっていた。その後、午後4時頃に関空連絡橋から飛び降りたとみられている。

引用:NEWSポストセブン

自宅で死んでいた16歳の女の子は、林真須美死刑囚の長女が最初の夫との間で設けた子どもで、離婚後いったんは親権が夫側に渡ったが、ある時期から引き取って同居していたようだ。

一方、長女が一緒に橋から飛び降りて無理心中した4歳女児は、2番目の夫との間の子供で、前夫との間に生まれた16歳長女を今の夫が虐待していたとの噂も流れている。

死んだ女の子たちは、2人とも林真須美死刑囚の孫にあたり、カレー事件が残された家族の人生にも強い影響を与えたことを窺わせた。

「メディアスクラム」という言葉がまだ問題視されていなかった時代、多くのメディアは事件の当事者たちを執拗に取材した。

私は直接この現場に足を運んではいないが、スタッフを派遣する立場としてそれに加担したのは事実だ。

報道陣にホースで水をかける林真須美の映像は、お茶の間の視聴者の関心を呼び、林夫婦の一挙手一投足を多くのカメラが追い回した。

和歌山毒物カレー事件は、メディアの取材合戦が長期にわたって繰り広げられ、私たちNHKを含めた報道のあり方が大きく問われた事件でもありました。

 事件から1か月後の8月25日、「林夫婦がヒ素を使った保険金詐欺で容疑者として浮上している」という新聞スクープをきっかけに報道が一気に過熱。塀に沿って報道陣の脚立が置かれ、大勢のマスコミが一家の行動を監視し続ける状況は、実際に逮捕される10月4日まで40日にも及びました。

 取材される人に心理的な苦痛を与えたり、平穏な生活を妨げたりする集団的過熱報道=メディアスクラムに対しては、和歌山地方裁判所の一審判決の中でも「報道取材に問題があった」と異例の言及がなされました。その後、メディア側がみずから課題解決に動きだし、取材にあたって最低限守るべき項目をまとめたり、報道検証の第三者機関を設ける試みを広げたりするなど、事件報道のあり方が見直されるきっかけのひとつになりました。

引用:NHK

メディアが自宅を取り囲み、外出も学校にさえ行けなくなった4人の子供たちは、保護された養護施設でも壮絶ないじめにあったという。

それでも、事件当時中学生だった長女は、弟や妹たちを勇気づけ守ろうとして頑張ったが、その後の就職や結婚でも苦労した長女は、苗字を変え、母である真須美死刑囚との絶縁を決意する。

先月の自殺がカレー事件と直接関係があるとは言えないが、長女の人生にとって、あの事件は決定的な転機であったことは間違いない。

あの事件報道の時、私は林家の中にいる子どもたちのことを考えたことはなかった。

昨夜の番組で自殺のことを知り、メディアの一員だった者として心の痛みを感じた。

<吉祥寺残日録>小鳥の「さえずり」を聴き分けようとして、自らの聴力の欠陥に気づく #210504

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