<きちたび>2泊3日杭州の旅  アリババ城下町と銭塘江の大逆流

連休を利用して、中国の杭州に行ってきた。

全日空のマイルを使った2泊3日の旅だ。

杭州は、白楽天らの歌でも知られる風光明媚な西湖の畔に発展した町だ。

人口は800万人。南宋時代には150年に渡って都が置かれた。

西湖の畔には柳の木が植えられ、夕方に少し涼しい風が吹き抜けると実に気持ちがいい。

湖畔の茶館で名物の龍井茶をいただく。

実に風流なはずなのだが、周囲には常に中国人がいて、彼らは常に騒がしい。

中国人さえいなければ、本当に中国は素晴らしいと、いつものように思う。

世界遺産「京杭大運河」を水上ボートで走ったり・・・

昔の風情が残る路地裏を歩いたり・・・

杭州は今でも多くの観光客が訪れる中国人憧れの街なのだが、最近では中国有数のITの町にもなった。

その理由は、アリババがこの街にあったからだ。

今回の旅の目的の一つは、世界最大のネット通販企業アリババの本拠地を訪ねること。今月10日に、カリスマ経営者ジャック・マー氏が会長職を退き、引退したばかりだ。

マー氏は、引退セレモニーを兼ねた創業20周年のイベントにこんか格好で登場し、歌を披露した。

20年前、マー氏が十数人の仲間とともにアリババを創業したのが、マー氏の生まれ故郷でもあるここ杭州だった。

アリババは世界企業となった今も、北京や上海ではなく、杭州に本社を構えている。それだけではなく、今や杭州全体がアリババを中心とする壮大なIT実験場になっていて、深圳に対抗するような中国の一大ハイテクパークとして注目されているのだ。

今回、杭州の街を歩いてみて気になったのが、至る所で大規模工事が行われていることだった。

中でも目立つのが、地下鉄の工事現場だ。

杭州の地下鉄「杭州地鉄」は部分開業を含めて現在4路線。

他の中国の大都市に比べると、路線が少ない気がした。

しかし・・・

地下鉄の車内でこんな表示を目にして驚いた。

「3号線、6号線、7号線、10号線、16号線はまもなく開業」

そう、杭州では今、同時並行的にものすごい数の地下鉄を掘っているのだ。しかも、全線の工事終了を待つことなく、できたところから順次開業するのが中国流のようだ。

だからガイドブックが間に合わない。ネット情報ですら、古いと思って現地でチェックした方がいい。

アリババの本社は、杭州市の西部、かなり郊外にある。

今回私が利用したのは、部分開業したばかりの地下鉄5号線。

正確なことはわからないが、今年6月に開業したらしい。ただ、どこを走っているのか、駅がどこにあるのか、ネットで検索しても詳しいことはわからない。

地鉄の駅に行って初めて5号線が走り始めていることを知ったというのが正直なところだ。

降りたのは、「杭师大仓前站」。

日本人にわかりやすく書くと、「杭州師範大学前駅」ということになる。この駅で降りたのも、私の山勘である。杭州師範大学をグーグルマップで調べると、アリババの中心地と思われる「阿里巴巴西渓園区」から比較的近いと思われたのでこの駅で降りることにした。

杭州師範大学は、ジャック・マー氏の母校である。

彼は大学受験に2度失敗し、定員割れしていた杭州師範大学の英語科に何とか滑り込んだと本には書いてあった。

彼は自分を拾ってくれた母校の近くの何もない場所に、アリババの城下町を築いていたのだ。

アリババの本社を探して不必要に歩き回ったが、結果的には杭州師範大学前駅からまっすぐ南に20−30分ほど歩いたところにあった。

正直な話、ここが本社なのかどうか私には自信がない。

ただ確実なのは、このエリア全体がアリババの敷地だということだ。

敷地内には川が流れていて、田園風景のような緑の中にいくつもの建物が建っている。

深圳で見た「ファーウェイ」の本社と似た広大なキャンパスである。

道路を隔てた南側のエリアにも同じ規模の巨大キャンパスを現在建設中だった。

さらに、本社キャンパスの北側でも大規模な工事が行われていて、ここもアリババと書かれている。

これは一企業の事業レベルではない。

街を何個も同時に作るという日本ではちょっと想像できない壮大なプロジェクトが進行しているように見えた。

アリババ城下町ともいうべきこの再開発エリアはとにかく敷地が広大で、道路の幅もめちゃめちゃ広い。

私は歩いて回ったのだが、とても全体像を掴むことはできなかった。

私が訪れたのは、中秋の連休だったこともあり、街に人影はまばら。そんな街を軽快に乗り回していたのがシェア自転車だ。

この白と水色の可愛い自転車は、アリババの電子決済アリペイで使える電動アシスト付きの自転車であり、この街の主役だった。

利用者がとにかく多く、見ているとほとんどペダルを漕いでいない。私たちがイメージする電動アシスト自転車よりも電動スクーターに近いイメージなのだろう。シャア自転車の課題と言われたペダルの重さが完全に克服されているように見えた。

そのほか、この一帯を歩くとアリババが手がける様々なビジネスの試みを見ることができる。

小売から、ホテルまで・・・。

でもアリババが目指すのは、そんなレベルではない。

アリババは今、都市問題を総合的に解決するためのプロジェクトを手がけている。杭州市と組んで未来の都市作りの実験だ。

「ETシティブレイン」というAIを使いリアルタイムの都市データを分析、渋滞解消などの都市の問題解消を目指している。

2017年から実証実験を始め、今では市内3600箇所の交通監視カメラを「ETシティブレイン」につなぎ、1300箇所の信号をコントロールしているという。

中国の街ではつきものの交通渋滞だが、今回の杭州旅行ではほとんど気にならなかった気がする。

これも「ETシティブレイン」のおかげなのだろうか?

ジャック・マー氏は、ベンチャー企業や起業家の育成にも熱心だ。

彼が大学卒業後、一時期教師をしていたことも関係しているかもしれない。

来年2020年には、杭州に「湖畔大学」というビジネススクールを開業するという。

「ジャック・マー アリババの経営哲学」という本の中に、彼が杭州師範大学で行った講演の内容が書かれていた。

その中に、自分の子供にも伝えたい「人生で大切な3つのこと」を話しています。

  1. 世界を楽観的な目で見ろ
  2. 自分の頭で考えろ
  3. 必ず本当のことを言え

シンプルだが、とても示唆に富んだ教訓だ。

私はビジネスマンとして成功したいと思ったことがないので、こうしたビジネス書をほとんど読んでこなかったが、この本は面白かった。

ジャック・マー氏はまだ55歳。今後彼が何をするのか、興味を持って見守っていきたい。

今回の旅行で、もう一つ興味深い経験をした。

それは中秋の名物ともなっている「銭塘江の大逆流」を見ることができたことだ。

銭塘江は、中国大陸に切れ込んだ杭州湾に流れ込む大河で、月の満ち欠けによって世界的にも珍しい大逆流が起きることで知られる。

たまたま杭州でテレビを見ていて、中秋である今の時期が一年のうちでも最も激しい逆流が起きることを知り、せっかくだから見にいきたいと思った。

ネットでいろいろ調べた結果、杭州から上海方向へ車で1時間ほどの海寧市にある観潮公園がベストポジションだと知り、急遽タクシーで向かった。

銭塘江のほとりには、数万とも数十万とも思える人が詰めかけ河岸を埋め、ようやく端の方に場所を確保して逆流を待つ。

時折、その大群衆の前を赤旗を先頭にした兵士たちが行進する。

時には逆流に飲み込まれる人もいるのか、ダイバーたちも行進している。

でも彼らを見守る群衆は、兵士たちに声援を送り写真を撮る。

軍が人々に近く、強い中国を守る頼りになる存在として尊敬されているように見えた。

香港での抗議活動とはかけ離れたこれが中国の現実なのだろう。

上空で監視にあたるヘリにも、人々は手を振り大騒ぎだ。

事前の予想時間がすぎると、遠くに逆流が現れる。

群衆のどよめきが公園を覆った。

結果から言うと、逆流は予想したよりもはるかにしょぼく、岸壁に波が激しく打ち付けるようなこともなかった。

どうやら中国人の多くも私と同じ感想を持ったようで、警備に当たっていた警察官に「これで終わりか?」と問い質しているようだった。

逆流見物を終え、大群衆が一斉に帰路につく。

どこに行っても、人・・・人・・・人・・・。

この国と対峙する香港の人たちのことを思った。

杭州市内、西湖のほとりでも軍用車の車列に遭遇した。

これだけの軍事車両と膨大な人。

この中国がどこへ向かっていくのか?

隣国で暮らす私たちも意識せざるを得ないと、改めて感じさせられた今回の旅であった。

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