<吉祥寺残日録>パレスチナ危機🇵🇸 バイデン大統領のイスラエル訪問は世界の分断をさらに深めた #231019

ガザで広がる人道危機。

アメリカのバイデン大統領のイスラエル訪問は事態の好転にはつながらず、完全な失敗に終わったように私には見える。

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18日イスラエルを訪問したバイデン大統領。

イスラエルのネタニヤフ首相は自ら空港まで出向いて最大の支援国であるアメリカの大統領を出迎えた。

来年に大統領選挙を控えるバイデン大統領にとって、ハマスの電撃攻撃によって始まったイスラエルとパレスチナの戦争は解決不能な厄介ごとだっただろう。

ブリンケン国務長官が中東を歴訪して、アラブ諸国の首脳たちとも会談できるよう根回ししていたが、中東訪問直前にガザの病院にロケット弾が着弾し500人近い市民が犠牲になる事件が起きたために、延期に追い込まれてしまった。

アメリカ国内のユダヤ票を最大限意識しつつも、国際世論を意識してアラブ側にも一定の配慮をしようとした狙いはあっけなく吹き飛んでしまった。

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その結果、バイデン大統領の中東訪問は、イスラエルに対して全面的な支持を表明するだけで終わってしまった。

ハマスによる残虐行為を強く非難し、イスラエルの自衛権を認めるとはっきり述べた。

これに対し、ネタニヤフ首相は「アメリカの大統領が戦時下のイスラエルを訪問したのは初めてだ」と最大限の感謝を伝え、両国の同盟関係だけが強調された会談となった。

17日夜にガザ市のアル・アハリ病院で起きた爆発についても、バイデン大統領はイスラエルによる攻撃ではないとの見方を表明した。

この爆発では病院に避難していた女性や子供たちを中心に500人ほどが死亡したとして、世界に大きな衝撃を与えている。

ハマス側はイスラエルによる空爆だと非難しているのに対し、イスラエル側は病院近くからロケット弾を発射していた武装組織「イスラム聖戦」の誤爆だと主張して自らの関与を否定している。

イスラエルは爆発発生時の映像やハマス隊員の会話とされる録音を公開していて、西側メディアではまだ爆発の原因を特定できない状況だ。

それでも、バイデン大統領はイスラエルの関与を否定し、イスラエルに寄り添う姿勢を明確にした。

しかしアラブ諸国では、この爆発をイスラエルによる虐殺だと非難する抗議デモが広がっている。

パレスチナ国内はもちろん、ヨルダンやレバノン、イエメン、トルコ、イランなどで大規模でもが確認され、現地の治安機関との間で衝突も起きている。

デモ参加者たちの間では、イスラエルと同時にアメリカに対する批判も強まっていて、穏健派の国々を中心にこのところ影を潜めていた反米運動がこの爆発事件をきっかけに再び高まる気配だ。

バイデン大統領は国内世論と国際世論を天秤にかけ、国内の声を優先したということだろう。

アメリカのスタンスがより一層はっきりと現れたのは国連の安全保障理事会だった。

議長国であるブラジルが提出した即時停戦案に対しアメリカが唯一反対、3年ぶりに拒否権を行使したのだ。

イスラエルの自衛権に言及していないことが反対の理由だというが、日本やヨーロッパ諸国とも立場の違いが明らかになった。

ロシアの国連大使はここぞとばかりに、アメリカを「ダブルスタンダード」と非難する。

ロシアに言われるのは癪に触るが、確かに明確なダブルスタンダードである。

再び世界のホットイシューに浮上したパレスチナ問題。

ほくそ笑んでいるのはこの二人ではないか。

中国では習近平国家主席が推進する「一帯一路」の10周年を記念する首脳会議が開かれていて、ロシアのプーチン大統領もウクライナ侵攻後初めて中国を訪れている。

ウクライナの戦争で反ロシアの急先鋒であったアメリカがパレスチナの紛争でイスラエルの肩を持ったことでアメリカの威信低下は避けられず、ロシアや中国は漁夫の利を得るチャンスと見てBRICSを中核とした陣営の強化を図る動きが活発になるだろう。

そういう意味で、日本にとっても、パレスチナの危機は他人事ではない。

先制攻撃を仕掛けたハマスと無差別の報復攻撃を続けるイスラエル。

民主主義陣営としては世論を二分する難しい身動きしにくい問題であり、そうした曖昧さを専制国家に責められる局面が当面続くことになる。

アメリカとイスラエルの深いつながりはその建国過程にまで遡る。

第一次世界大戦の際、イギリスがパレスチナでのユダヤ人居住地建設を約束した「バルフォア宣言」も、アメリカ国内におけるユダヤ人の力が背景にあったという。

第一次世界大戦が始まって2年たった1916年夏、戦いは消耗戦の様相を呈し、イギリスが講和を模索していた時、ドイツ在住のシオニストがイギリスの戦時内閣に現れて、「諦めるのはまだ早い。アメリカがイギリスの味方として立ち上がればイギリスは勝つことができる。私たちが、アメリカがイギリスの味方となり、ドイツと戦うよう保証しましょう。約束はただ一つ。戦勝の暁にはパレスチナの地にユダヤ人国家を樹立させることです」ということを提案した。同年10月、イギリスはこの条件を呑んだ。ユダヤ人はロシアから強い迫害を受けており、アメリカに逃れたユダヤ人はロシアに勝ってほしくなかったので、それまでのアメリカの新聞はドイツに好意的な報道をしていた。しかし、この取引が成立すると、アメリカの新聞論調は一変し、あらゆるプロパガンダが開始されて、邪悪なドイツをやっつけろという世論がアメリカで醸成されていった。反独プロパンダによる反ドイツのアメリカ世論、ツィンメルマン電報、ドイツ潜水艦によるアメリカ艦船撃沈などにより、1917年4月6日、アメリカはドイツに宣戦布告した。アメリカ参戦が決まると、シオニストはイギリスに行き、約束の履行を迫った。同年10月にアメリカ合衆国大統領のウッドロウ・ウィルソンも宣言の発表に賛同し、同年11月2日、ユダヤ人にアメリカ社会を動かす力があることを認識したイギリスは、ユダヤ人がパレスチナの地で自治政府を作ることをイギリス政府が承認し、その目的のために最大限の努力を払うとしたバルフォア宣言を発表した。

引用:Wikipedia

今でも、ユダヤ人はアメリカ最大級のロビー団体を維持している。

ポピュリストであるトランプ前大統領がアメリカ大使館を突然エルサレムに移転させたのも、今回バイデン大統領が拒否権を行使してまでイスラエルの自衛権を主張するのも、国内にいるユダヤ人の影響力を意識した者なのだ。

中でも最大の規模を誇るユダヤ人ロビー団体が「アメリカ・イスラエル公共問題委員会(AIPAC)。

全米50州に10万人の会員を抱え、その年間予算は5000万ドルとも言われる。

彼らの政治目標はは以下の6つ。

  1. ハマスに率いられたパレスチナ自治政府を孤立化させる。
  2. イランの核兵器保有を防ぐ。
  3. イスラエルを支援し、中東における唯一の民主主義国家を守る。
  4. イスラエルを、将来の脅威から守る。
  5. (アメリカにおいて)次世代の親イスラエル政治指導者を育成する。
  6. アメリカ合衆国議会に対し、米-イスラエル関係に関する宣伝活動を行う。

こうして見てみると、アメリカの大統領が変わっても、イスラエルをめぐる政策はAIPACの主張に沿ったものとなっていることがわかる。

バイデン大統領は訪問の成果として、エジプト国境からガザへの支援物資搬入が近く始まると発表した。

しかしたとえわずかな援助物資が届いたとしても、現在の人道危機を前にその効力は知れている。

それよりも、バイデン大統領のお墨付きを得てイスラエルが近日中にガザへの地上侵攻を開始する可能性がさらに高まった。

ハマスを壊滅するまで続けるとされる今回の地上作戦。

想像を絶する悲劇が待ち受けている。

バイデン大統領のイスラエル訪問はそのスタートの号砲に過ぎず、世界の分断をますます深くして、アメリカの影響力を大きく損なったことは間違いない。

2国家共存

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