今日から10月。
秋の高気圧が日本列島をすっぽりと覆い、今日は珍しく北海道から九州まで一斉に晴れマークが並んでいた。
朝から自転車を走らせて農協まで伯母の通帳記入に行ってきた。
そして毎月の習慣となった我が家の残高チェックも妻と行い、この先のスケジュールを2人で共有した。
隠居生活ももう2年が経ち、いろんなルーティーンが出来上がってきた。

そんな平和な日本からウクライナのことを考えている。
西側諸国がどれだけ「茶番」だと非難しようとも、プーチン大統領の決意を変えることはできず、見えすいたシナリオをただ着々と進めていく。
昨日9月30日は、冷戦崩壊後の世界が歩んできた民主化の動きが、今まさに逆戻りし始めていることを私たちに痛感させた歴史的な1日と言ってもいいだろう。

プーチン大統領は30日、モスクワのクレムリン宮殿で軍事侵略によって占領するドネツク、ルハンシク、ザポリージャ、ヘルソンの4州をロシアに併合すると宣言した。
先に4州で実施した「住民投票」により90%以上の住民がロシアの一部となることを望んだのだとその正当性を主張したうえで、4州の親ロシア派のリーダーたちと共に「編入」の文書に調印した。
これにより、ロシア政府はウクライナ国土の15%にあたる地域をロシア領の一部とみなすこととなり、ウクライナ側の反撃はロシア領内への攻撃だとして核兵器の使用を含むより一層激しい攻撃を仕掛けるための口実に使うことが懸念されている。

ロシアが主張する「住民投票」は今回併合を宣言した4つの州で、9月23日から27日にかけて行われた。
しかし、現地から送られてくる投票の映像を見ると、なんと投票箱は透明で、イエス・ノーの二択なのに不必要に大きな用紙を使い、外からどちらに投票したか簡単にチェックできてしまう。
おまけに住所氏名を記入させられるらしいので、我々が考える民主的な投票とは土台から違っているようだ。
さらに、住民が自主的に投票所に足を運ぶのではなく、銃で武装した兵士を伴った親ロシア派が投票箱を持って戸別訪問するのだというから話にならない。
でもそんな投票の様子をロシアのテレビも堂々と放送するのだから、ロシアにおける選挙とはそういうものなのだろう。

30日の演説でプーチン大統領は、独自の論理を展開した。
私もライブの配信でそれを見たが、嘘で嘘を塗り重ねたその内容にある種の狂気を感じ、我々が相手にしているのは「フェイクニュースの権化」だと確信するしかなかった。
BBCのニュースサイトからその一部を引用しておこう。
「編入」文書の調印に先立ち、ロシアが「住民投票」と呼ぶものについてプーチン氏は、その「結果は知られている、広く知られている」とした上で、これは投票した住民の「自然権」だと述べた。さらに、「ロシア連邦議会は、ロシアに新しい4州ができることを、ロシア連邦に4つの自治体が加わることを承認するはずだと確信している(中略)これは数百万人の人の民意だからだ」と述べた。演説に集まった政府幹部らはこれを拍手で迎えた。
プーチン氏はさらに、この4州をめぐり歴史上、何世代ものロシア人が戦ってきたのだと述べた。また、ウクライナにおける「特別軍事作戦」のために命を落とした「勇敢な兵士」たちのために、黙祷(もくとう)を呼びかけ、会場に集まった全員がそれに応じた。
プーチン氏は、「特別軍事作戦に参加している兵士たちに呼びかけたい」と述べ、さらに兵士たちの妻や子供たちにも、「我々が何のため戦っているか」理解しなくてはならないと呼びかけた。
プーチン氏は、ルハンスク、ドネツク、ザポリッジャ、ヘルソン4州の「ロシア編入」はもはや交渉対象になるものではないと述べた上で、ウクライナに停戦交渉に応じるよう呼びかけた。
プーチン氏は37分続いた演説でこのほか、ソヴィエト連邦の崩壊以降、西側諸国がロシアを屈服させ、ロシア文化を否定しようとしてきたという、従来の主張を繰り返した。
プーチン氏はロシアが豊かな天然資源などを持つ強力で広大な国だと強調し、西側は「これほど豊かな国が存在するというのが、受け入れがたいのだ」と述べた。
プーチン氏はさらに、西側諸国がロシアを「植民地化」しようとしており、そのためにロシアに対して「ハイブリッド戦争」を仕掛けて、ロシアを解体させようとしているのだと主張した。
「我々が自由な社会でいるのを(西側は)見たくないのだ。連中は我々を、奴隷の集まりとみなしたいのだ」とプーチン氏は述べた。集まった政府幹部が拍手すると、プーチン氏は「(西側は)ロシアを必要としていない。我々にはロシアが必要だ!」と述べた。
さらに、核兵器の使用については、「アメリカは世界で唯一、核兵器を2度も使用した国だ」として、アメリカがかつて第2次世界大戦の終盤に広島と長崎に原爆を投下したことに言及。「日本の広島と長崎を破壊した時、アメリカはそれによって前例を作ったのだ」と述べた。プーチン氏はこれまでの演説で、「あらゆる手段」を使う用意があると述べ、「はったりではない」と強調してきた。
ウクライナ4州の「ロシア編入」文書調印が終わると、クレムリン宮殿の大広間に集まった政府幹部らは、「ロシア! ロシア! ロシア!」と叫び、式典を締めくくった。
引用:BBC
正直、ロジックにもなっていないプーチン大統領の演説を拍手とともに聞くロシアの高官たち。
私たちから見れば違和感しかない光景だが、人類の歴史を振り返ればむしろこちらの方が普通であり、我々が当たり前だと思っている「民主主義」の価値観はほんの最近一部の国に普及しただけに過ぎないことも知っておく必要があるだろう。

歴史の針は確実に逆戻りしている。
欧米では他国の領土を併合した例としてナチスドイツと比較する報道が見られるようだが、他国を武力で屈服させその領土を併合するという行為は地球上に国家というものが生まれて以来、営々として繰り返されてきた極めて普通の出来事なのだ。
強いものが弱いものを飲み込む。
自然界では日常的に行われている本能は人間にも備わっている。
戦争に勝利すれば国民は熱狂し、権力者は国民の支持を得る。
そして他国から奪った土地は分配され、そこに暮らしていた住民は奴隷のように酷使されたのだ。

プーチン大統領は、4州の併合プロセスに入るタイミングで、ロシア国内で予備役の部分動員に踏み切った。
ロシア各地では招集の対象外の人たちにも召集令状が届き混乱や反発が伝えられているが、招集を拒否すれば懲役刑が待っている国では不満を持ちながらも家族のために軍務につく決断をする人が多いようだ。
ただし、詳しく見ていくと、モスクワやサンクトペテルブルクのようなロシア人の多い都市部では招集率が低く、少数民族が暮らす地方では遥かに招集率が高いという露骨な振り分けが行われているという。
シベリアやコーカサスに住むロシアの少数民族は、プーチン大統領が復活を夢見る帝政ロシア時代に征服し国土に加えていった人々である。
あれから数百年の年が経っているにもかかわらず、ロシア人と少数民族の一体化は進まず、国内に明かな差別が存在しているのだ。
今回併合したウクライナの4州では、早速ロシア人として戦争に加わるよう州内に残っている男性たちのもとに召集令状が届いているそうだ。
ひどい話である。

占領地のウクライナ人を召集してウクライナ軍と戦わせるというニュースを聞いて、「督戦隊」という言葉を思い出した。
確か塩野七生さんの「コンスタンティノープルの陥落」で読んだのだと記憶しているが、15世紀オスマントルコが東ローマ帝国を滅ぼした時、セルビア人ら占領地で捕虜にした男たちを使って難攻不落とされた首都コンスタンティノープルの城を攻めさせた。
当然のことながら戦意の低い捕虜たちの背後にはトルコの精鋭部隊「イェニチェリ」が配備され、逃げようとする捕虜たちを容赦なく殺した。
トルコは自軍の被害を最小限にとどめるため、最も厳しい戦場に捕虜を送り込んで西ローマ帝国が滅亡した後も長く東ローマを守っていた鉄壁の城壁を打ち破ったのだ。
捕虜たちにすれば、自分たちが生き残る道は前進して東ローマに勝つしか方法がなかった。
人間の残酷さをこれほど感じさせた記述を読んだことがないと感じた。
でもきっと人類の歴史を調べれば、似たような事例は古今東西いくらでもあったに違いない。
プーチンはそれを真似ようとしているに過ぎないのだろう。

私たち日本人の祖先も同じように他国に対してひどいことをしてきた。
日本経済新聞は『ロシア、時代錯誤の領土「併合」 大戦前を想起』という記事の中で、20世紀以降の主な「併合」事例を表にまとめていた。
一番最初に出てくるのは日本による韓国併合である。
欧米列強の植民地とならないために富国強兵を進めた明治政府は、自国の安全保障のために朝鮮半島を緩衝地帯として自らの支配下に置くことを画策し、日清日露の戦争を通じて朝鮮の主権を蝕んでいく。
その過程では王宮内で王妃を殺害するひどい事件も起きたが、こうした歴史は学校では全く教わらない。
もしも現在のようにSNSによってさまざまな内部映像がアップされる時代だったら、日本が行っていたさまざまな謀略も、見るに堪えないものだっただろう。
韓国や中国が日本に対して歴史を直視せよとことあるごとに繰り返すのも、少し歴史を学んでみれば無理もないと思えてしまうほど、戦前の日本はアジアの各地でとんでもないことを行ってきたのだ。

ロシアによる一方的な併合宣言を受けて、ウクライナは直ちにNATOへの加盟申請を行うことを発表した。
NATOの加盟には30の加盟国全ての承認が必要となり、現実的にはすぐに加盟できないことを承知で申請をすることをゼレンスキー大統領自らが動画で発信したのだ。
本来であれば、占領された4州を今すぐにでも取り返したいところだが、現実には難しい。
それはアメリカをはじめとするNATO諸国がロシアとの全面戦争に発展することを明確に避けているためだ。
イラクやアフガニスタンとは違い、ロシアとの戦争となれば人類初の全面核戦争を視野に入れる必要がある。
ウクライナのために自国を危険に晒すことはアメリカもヨーロッパ諸国も全く考えていない。
だからバイデン大統領もロシア領内を攻撃できるような射程の長い兵器の供与には応じてこなかった。
4州が新たに“ロシア領内”と宣言されたことで、西側による武器支援にどのような変化が現れるのか?
ウクライナも疑心暗鬼になっているに違いない。

中国やインド、ブラジルなども棄権に回った。
日本はウクライナ侵攻以来、アメリカやEUと足並みを揃えロシアを非難してきたが、世界を広く見渡すと反ロシアの世論は残念ながらほどんど広がっていない。
なぜなのか?
日本経済新聞に興味深い分析が載っていた。
『民主主義国の人口、世界で3割未満に 新興国が離反』という記事を引用しておく。

米ニューヨークで開催中の国連総会は3年ぶりの対面会議となったが、国連改革など具体的な成果は見えない。混迷の背景に強権国家の攻勢に加え、民主主義の劣化とそれに失望した新興国の離反がある。
世界の10人に7人が強権国家に住み、民主主義はいまや3人未満――。英オックスフォード大の研究者らが運営する「アワー・ワールド・イン・データ」の調査でこんな傾向がわかった。
強権主義の台頭で、民主主義国家に住む人口はこの10年間で2割以上も減った。いまでは全体の29.3%と、強権国家70.7%の半分に満たない少数派に転じた。
スウェーデンの民主主義・選挙支援国際研究所(IDEA)によると、2016年以降、ジンバブエやベネズエラなど20カ国が権威主義に変わった。民主化した国の3倍のペースで増え続けており「こうした傾向は(冷戦全盛期の)1975年以来だ」という。
引用:日本経済新聞
過去10年で民主主義国家に住む人口が2割も減ったという数字は衝撃的である。

民主主義が後退している理由の一つが、歴史だという。
9月の国連総会の一般討論演説では、欧米首脳から民主主義の「退潮」に懸念が相次いだ。
「欧州連合(EU)の仲間に、今後は中南米やアフリカに積極的に関わるよう呼びかけた」。EUの外相にあたるボレル外交安全保障上級代表は9月24日、危機感をあらわにした。「我々はナラティブ(物語)の戦いに挑まなければいけない」。
歴史的、文化的な背景からいかに自陣営が正しく、敵対勢力が間違っているかを説く。これがいま、国際外交の場で注目を集めるナラティブだ。国際世論を動かす力となり、ときに侵略や虐殺をも正当化してしまう。
ナラティブに力を入れるのがロシアや中国など強権国家。欧米の植民地支配を受けてきたアフリカ諸国に、ロシアは旧ソ連時代から独立を支援した経緯を訴える。欧米勢は「自分たちが正しいと思い込み、他国を説得すらしない」(ボレル氏)
国連投票の結果でも民主主義陣営は押され気味だ。3月にはウクライナに侵攻したロシアを非難する決議に、加盟193カ国中141カ国が賛成した。しかし9月のウクライナによるビデオ演説を認める決議では賛成が101カ国にまで減った。とりわけアフリカ勢の「造反」が顕著だ。
米欧日はウクライナ支援は「民主主義を守る戦い」と強調するが、新興国には響いていない。新型コロナウイルスの大流行で、先進国が自国優先でワクチンを買い占め、新興国に配慮しなかったことも一因だ。
「13億人以上が住むアフリカは数百年にわたって植民地支配や搾取、軽視、そして開発不足を経験してきた」。南アフリカのパンドール外相は9月21日の演説で強調した。欧米に対する根強い不満にロシアや中国のナラティブが重なり、新興国の心は離れつつある。
引用:日本経済新聞
アフリカやアジア、中南米には、他国によって自国を蹂躙された苦い歴史がある。
それを行ったのは、今頃になってウクライナ支援を訴えて善良な顔をしている欧米の国々ではないかというのだ。
プーチン大統領が昨日の演説で、ことさらに歴史の話に言及したのはこういった背景があったのだ。
アフリカ諸国にとってヨーロッパは、自分たちを植民地にして先祖を奴隷として売り飛ばした憎き相手なのである。
中南米諸国にとってアメリカは、我が物顔で長年自分たちを子分扱いし、資源や富を奪い取っていった相手なのだ。
その点中国は、同じように列強の食い物となり、隣国の日本にも好き放題に国土を荒らされた仲間だとも言える。
さらに、決して民主主義が根付いていない発展途上国に対して、民主主義国は人権や汚職でうるさいことを言ってくるが、中国やロシアはそんなことは気にせず投資をし武器を売ってくれるのである。
独裁的な指導者たちが西側の言うことを聞かず、中国やロシアとの関係を重視するのか、そこにはそれなりの理由があるのだ。

ロシアが行っている目を疑うようなひどい出来事を目の当たりにして暗澹たる気持ちになる一方で、世界はもはや私たちが慣れ親しんだ論理では動いていないという事実にも目を向けるべきだろう。
世界の捉え方は一通りではない。
プーチンが語る世界観、習近平が語る世界観、彼らはそうした独自の世界観を鍛え上げ国際世論に訴えかける武器として使っているのだ。
「フェイクニュース」という言葉がごく普通になった時代。
インターネットとSNSの誕生により、どんなに国境を閉ざしても、戦略的に作り上げられた嘘が直接人々に送り届けられる。
メディアリテラシーの低い人たちにとって、何を信じればいいのか難しい時代である。
トランプが大統領になったのも、イタリアで極右政権が誕生するのも、アフリカでロシアや中国の影響力が強くなるのも、根っこの部分では繋がっている。

バルト海で起きた海底パイプラインの破壊事件。
ロシアからヨーロッパに流す天然ガスのパイプライン3か所が破壊されたこの事件は誰の仕業なのかをめぐり、アメリカとロシアが激しい非難の応酬をしている。
西側諸国はロシアの仕業だと決めつけてメディアでもまたロシアが出鱈目を言っていると報道しているが、私はまだ確信を持てていない。
海底を通るパイプラインを破壊するのは潜水艦でも使わないと無理なような気もするが、ロシアの反抗だとすれば何が目的なんだろう?
ロシアはいつでもガスの供給を止められる。
わざわざ破壊して使えなくする意味があるのだろうか、との疑念が拭えないのだ。
ロシア側は、ロシア産のガスが止まれば代替となるアメリカのガス業者が儲かるとしてアメリカの犯行だと主張しているが、さすがにバイデン政権はそんなことはしないだろう。
私が疑っているのはヨーロッパの過激な団体。
今回のエネルギー危機を利用して一気に自然エネルギーに転換させようという活動家が破壊に関わったというのが一番納得がいく。
もちろん彼らに海底パイプラインを破壊するような能力があるのかどうかは疑問だが、ヨーロッパのNGOは日本では考えられないような資金力やネットワークを持っているので、不可能ではないのではないかと思ってもいる。
これは単なる私の思いつきだが、与えられた情報に疑いを持ちながらニュースを見ることは今後ますます重要になると思う。

民主主義国の政府から流される情報だって疑ってかからなければならない。
特に領土の問題は、歴史を遡れば簡単に我々の常識をひっくり返すことが可能で、いくつもの見方ができる厄介なものだ。
たとえば、日中の火種となっている尖閣諸島。
日本固有の領土であるとする日本政府の見解は、何度聞いても根拠が弱いと思ってしまう。
所詮は明治時代の一時期に日本側から見た正当性を主張しているにすぎず、長い歴史を紐解いてその島が誰のものであったのか解明したものとは言い難い。
現在の国境線は、植民地時代に列強が散々掻き回してぐちゃぐちゃにした後の境界線を固定化したものであり、新たな研究によって過去の歴史が次々に塗り替えられる現代において、その正当性は極めて疑わしいのだ。

結局のところ、ある時代に強かった国が他国から領土を奪い、その民族にとっての英雄として名前を残した。
それが人類の歴史である。
日本では、どこから来たのかさえ解明されていない天皇家が不可侵の英雄となり、その天皇を中心として武力で日本列島を統一していった。
本来は、さまざまなルーツを持つ人たちが何千年という長期にわたって渡来してきた多民族国家だったはずだが、明治以降は単一民族国家として学校で教えられることとなった。
世界最多の人口を持つ漢民族だって、中国大陸で暮らす多様な民族が長い戦乱によって掻き回され混血していつの間にかなんとなく同一の巨大民族という塊ができあがっていったにすぎない。
ウクライナの人たちの味わっている不条理に強い怒りを感じ、なんとかロシアの手から解放させてあげたいと願いつつも、世界の歴史が逆戻りするのはある意味、人間の本性への回帰なのかと諦めにも似た感情も抱いてしまう。
私たちはますます難しい時代に生きていくことになる。
これからは、巧妙に作り上げられた無数の嘘の中で生きていくしかないのだ。
真の民主主義とは、正しい情報に接する環境がなければ成立しない。
どれが正しい情報で、どれがフェイクなのかを見極める目利きがますます重要になっていくだろう。
既存のメディアを簡単に「フェイク」と攻撃する風潮が日本でも目立ち、メディアの信頼が急速に弱まっていることを私は憂う。
確かにメディアも誤報を流すことがあるが、意図的にフェイクニュースを流そうとしているというのは悪質な作り話だ。
政府から離れた立場でプロとして情報に向き合う意思を持つ人々を排除すれば、やがてロシアや中国のような政府による情報統制と意図的に嘘が拡散されるフェイクの世界が広がってしまう。
結果的に、わたしたちが当たり前だと思っている民主主義社会はあっけなくこの世から消え去っていくだろう。
もしも自由にものが言える社会で暮らしたいのであれば、独立したメディアが誤報を出してしまうことと、国家権力が明確な意図を持ってニセ情報を流すことは全く次元の違うということを理解しなければならない。
テレビの世界で生きてきた一人の人間として、権力から独立したメディアの重要性をつくづく感じるロシアによるウクライナ併合の暴挙である。