成田からホーチミンに向かうベトナム航空の機内で一本の映画を見た。
1980年公開のベトナム映画「無人の野」だ。
ちょっと、ショックを受けた。
舞台はベトナム戦争末期1972年のメコンデルタ。
1972年と言えば、アメリカ国内の反戦運動が激化し、「ベトナム化」という言葉の下でアメリカ軍が大規模な撤兵を進め、南ベトナム政府軍が作戦の前面に出てきた時期だ。
解放戦線の兵士として政府軍と戦う夫婦を描いた作品だ。2人には幼い子供がいて、水上に立てた粗末な小屋で暮らしている。小屋の周囲は一面の水、出かける時は小舟が必要だ。
そこに現れる政府軍のヘリコプター。ゲリラの掃討作戦を行なっている。
低空で飛行し人影を見つけると、必要に銃撃する。主人公の夫婦は、ヘリの音を聞くとすぐに舟を降り、水中に身を隠す。無人の舟に銃撃が加えられる。
何という戦争か。これまで見たどの戦場とも違うヘリ対人間の戦いが、淡々と描かれる。セリフはほとんどない。泣く子供を抱え逃げる夫婦。子役も実際に水中に沈められる迫真の撮影だ。
ラストシーン。
夫を殺されたヒロインが銃でヘリを撃ち落とす。燃えるヘリをバックに銃を担ぎ子供を抱いたヒロインが力強く前に進んでいく。
これまで見たベトナム戦争の映画の中でも、最もリアリティのある作品だと思った。
こんな土地では、戦車は使えない。水草の下に隠れると上空から発見するのは不可能だ。当時の近代兵器では手に負えない戦場がそこにはあったのだ。
ベトナム戦争でのゲリラ戦を体感できる場所がある。
ホーチミン市の北西50キロほどの所にある「クチトンネル」だ。
クチトンネルには、ホーチミンからのツアーに参加した。
多くの観光客が集まる人気の観光スポットだ。
入場料を払ってトンネルへ。ただ、このトンネルがクチトンネルではない。
トンネルを抜けると、そこはベトナム戦争のテーマパークだった。
まずは、戦争のビデオを見てから林の中へ・・・。
森の中に人垣ができていた。
一人の少年が穴に足を入れている。
一人ずつ、次々と、小さな穴の中へ・・・
そして、私も入ってみた。
穴の中にすっぽりと身を隠し、上から葉っぱでカムフラージュした蓋を・・・。
蓋は、ガイドさんの足の下。
ベトコン兵士は、こうして地中に身を隠した。見事だ。
土の表面に、小さく開いた穴。ガイドさんに教えられて初めて気づいたが、これは空気穴だという。
この下をトンネルが走っている。
ただのトンネルではない。地下には、生活空間や弾薬庫も整備され、ゲリラたちは日中トンネル内に潜み、夜間のみ外に出て行動した。
この蟻塚のような土の塊にも、空気穴が開けられていた。
ベトナム戦争中、このクチトンネルの全長は200キロ以上に達し、トンネルを通ってサイゴン川まで出て川を下ればサイゴンを攻撃することもできた。
さらにクチ地区の西には、「オウムのくちばし」と呼ばれるカンボジア領がベトナムの国土に突き出している。政府軍の攻撃を激しくなると、解放戦線の兵士はカンボジア領に逃げ込むこともできた。クチトンネルは、そんな神出鬼没のゲリラ戦を支えた。
ベトコン兵たちは、アメリカ軍の不発弾を解体して自ら使う武器を作った。
手作りの爆弾。地雷だろうか?
「ブービートラップ」と呼ばれた落とし穴の罠も、米軍と政府軍を苦しめた。
観光客用に、トンネルを体験できるエリアもある。
専用ガイドに付き添われて、狭いトンネルに降りていく。
観光用なので、床も壁もきれいに作られている。
とはいえ、狭いので這って進んでも気にならないような汚れてもいい服装が良さそうだ。
いくらベトナム人が小さいとは言っても、このトンネル内で立って歩くことは不可能だ。
ずっと中腰で進むのは、やはり厳しい。おまけに、トンネル内は蒸し暑い。ここで生活した人たちの不屈を思わずにはいられない。
ほんの100mほどの短いトンネル体験だが、閉所恐怖症の私には、やはりトンネル生活は無理だと思った。かつて、シベリアの炭鉱に潜って取材した時は、もっと狭いトンネルで、本当に死ぬかと思うような恐怖を感じた。
今回はそれほどではなかったが、世界最強のアメリカ軍に勝つためには、このくらいの狂気が必要だということが、よく理解できた。
このほか、クチトンネルには、10発6万ドンで機関銃が撃てる実弾射撃場があったり・・・
戦車をバックに記念写真を撮影できたりと、アミューズメントパークの要素もある。
私は妻と息子と3人で半日ツアーに参加して、日本語ガイドと昼食付きで1万3800円。
リーズナブルだと思う。
せっかくホーチミンに行ったのなら、ベトナム戦争を身をもって体験してみるのも悪くないと思う。
<関連リンク>
①1925年開業の老舗ホテル「マジェスティック」でよみがえる若き日の記憶
②グルメでない私たちがドンコイ通りで食べた美味しいベトナム料理
③旧大統領官邸で1975年4月30日「サイゴンのいちばん長い日」に思いを馳せる
⑤戦争証跡博物館で見るベトナム戦争の歴史とジャーナリストたち
⑥忘れてはならない枯葉剤の悲劇!「ベトドク」の思い出を胸に夕暮れのホーチミンを歩く
<参考情報>
私がよく利用する予約サイトのリンクを貼っておきます。
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