昭和通商

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佐野眞一著「阿片王 満州の夜と霧」という本を読んでいて、「昭和通商」という会社のことを知った。

どんな会社だったのか? 佐野氏の著書から引用させていただく。

 

『 昭和14年(1939年)4月に設立された昭和通商は、軍部のなかば強制により、三井物産、三菱商事、大倉商事の三大財閥に各500万円ずつ出費させ、1500万円の資本金でスタートした一大マンモス商社だった。

同社は最盛時には3000人近い社員をかかえ、ニューヨーク、ベルリン、ローマ、バンコク、マニラ、シンガポール、北京、南京、広東、そして満州の首都の新京などに支店網を張りめぐらせた。

昭和通商は、表向きは陸軍の旧式となった武器を中近東などの第三国に輸出する一方、タングステンなどの貴重な軍需物資を現地調達していた。だが、その実態は諜報活動とアヘン取引を両輪とする、陸軍の完全コントロール下におかれた極秘特務機関だった。』

 

なんだか北朝鮮のことを書いているような錯覚を受ける。旧日本軍と北朝鮮はなぜか非常に似ている。

引用を続ける。

 

『 昭和通商に関する公的資料は敗戦時に全て焼却処分されたため、同社に関する資料はほとんど皆無である。だが、その後の取材で何人かの同社OB社員に接触することができた。

またその過程で、OB社員のひとり、山本常雄がかつて同僚たちを訪ね歩いて同社の内幕を聞き取った「阿片と大砲」(PMC出版・1985年8月)という貴重な労作も手に入れることができた。

山本はその中で、前述した江上波夫や考古学者の八幡一郎、東洋史学者の岩村忍など民族研究所のメンバー十数名が、終戦間際に昭和通商新京支店を訪ねてきたこと、昭和通商がアヘンの闇取引の仕事を軍から極秘にまかされていたことなど、実に興味深い証言をいくつも書き連ねている。

児玉誉士夫は昭和15年から16年にかけ、昭和通商の依頼でヘロインの密売を二回行った。価格は当時の金で70〜80万円にも相当し、このヘロインはその後中国に運ばれて南シナでタングステンと物々交換された・・・。

阿片は宣撫用とともに、医療用としても貴重な資源だった。満州から石油缶に入れられて内地に秘密裏に持ち込まれた。真っ黒いネバネバした飴のような形状をしていた。阿片は税関を通さず、軍の直接命令で昭和通商が輸入していた・・・。

阿片売買は歩のいい商売だった。当時、阿片1両(8匁3分)は、内蒙古の張家口で20円だった。それが天津で40円、上海で80円になり、シンガポールに行くと、160円にはね上がった。阿片売買で得た資金は、昭和通商の物資調達の面でも大変役だったが、宣撫工作用としても大いに活用された・・・。

ソ連の侵攻で満州国が崩壊の危機に瀕したとき、関東軍は倉庫にあった12トンのアヘンを密かに日本国内に運び出そうとした。だが、その計画はGHQの知れるところとなり、首謀者グループは全員逮捕された。だが、不思議なことに時価1兆円すると言われたアヘンは忽然としてどこかへ消えてしまった・・・。

阿片は、鉄道敷設や要塞づくりのための苦力集めにも欠かせない重要物資だった。苦力が何をおいても欲しがったのは、塩と阿片だった・・・。

最後の証言は、一見当たり前のようだが、極めて重要である。

中国の秘密結社の青幇、紅幇は元々、塩の支配を狙って作られたシンジケート組織だった。塩は人間が生きて行く上で絶対不可欠の物質である。塩の消費量がわかれば、その国の人口はおよそ把握できる。

「阿片王」と言われた里見甫は、実は塩の売買とも密接にからんでいた。』

 

とりあえず、この本のさわりの部分である。

昭和通商と阿片王。こんな歴史は学校では教えてくれない。

「阿片王」と呼ばれた里見は阿片の仕事に就く前、満州国の全メディアを統合した満州国通信社を主宰していた。メディアとアヘン。今では考えもつかない組み合わせだが、当時の満州が文字通り魑魅魍魎の地であったことはこの一事をもってしても容易に想像がつく。

この大地で、児玉誉士夫や岸信介が力を蓄え、戦後の日本社会で暗躍する。

これまで深く興味を抱くこともなく通り過ぎてきた日本の暗部が、満州にはゴロゴロしている。

この本の冒頭、佐野眞一氏はこう書いている。

 

『 ここ数年、私は満州にとりつかれていた。建国後わずか十三年で地上から消滅した「満州帝国」という人工国家を視野に入れない限り、「戦後日本」、とりわけ高度成長期の日本の本当の姿は見えてこない。

世界史的にも類をみない戦後の高度経済成長は、失われた満州を日本国内に取り戻す壮大な実験ではなかったか。そんな思いが私をきつくとらえていた。戦後高度成長の象徴である夢の超特急も合理的な集合住宅もアジア初の水洗式便所も、すべて満州ですでに実験済みだった。』

 

私も遅ればせながら、満州にとりつかれてしまいそうだ。

 

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