明孝陵

南京の旅シリーズ第6弾。明王朝を開いた朱元璋が眠る巨大なお墓「明孝陵」だ。

南京博物院を見学した後に徒歩で訪れた。

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途中、緑に覆い隠された南京城壁を発見した。ここは南京を取り囲む周囲34キロの城壁の東の端に位置する。この辺りは観光地化されていないので、偶然見つけた時はちょっと感動した。

ここから先は歩道がなくなったため、車道の端を歩いて地鉄2号線の「苜蓿园」駅を目指す。

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この地鉄駅近くに蒸気機関車の形をした「観光車」の発着所がある。

この観光車について私はよく理解できていないので正確な情報を書くことはできない。ただ私の理解によると、ここ地鉄駅「苜蓿园」から出発する観光車1号線は、四方城、美齢宮、海底世界、中山陵西駅を経て、終点の明孝陵まで行く。途中下車が可能で、終点の明孝陵まで乗り降りが自由にできるのではないかと思う。

料金は片道10元。これは確かだ。往復10元ではないので注意。

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このほか、旅游専線バスという普通のバスも観光車と同じルートを走っているらしい。「地球の歩き方」によるとこのバスは明孝陵まで2元で運んでくれるらしい。ただ、このバスがいつどこから出発するのか、私にはわからなかった。

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よく理解できないまま、明孝陵へ行くチケットを買おうと「售票处」に行った。售票处とはチケット売り場のことだ。

Google翻訳というアプリを使ってみた。「明孝陵に行きたい」と打ち込み中国語に翻訳した。どの程度正確に翻訳してくれているのか私にはわからない。

10元と引き換えに観光車のチケットをもらえると思っていた。すると窓口の女性は予想外の行動をとったのだ。

ジェスチャーである方向を指差しながら、「walk」「near」と断片的な英語の単語を発した。どうも明孝陵の入口が近くにあり、バスに乗る必要がないと言っているようだ。

半信半疑ながらも、チケットを売ってくれないので仕方なく、言われた方向に歩いてみることにした。

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5分か10分ほど歩くと確かにゲートがあった。

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観光用の地図を見て初めて自分がいる場所を理解できた。私がいるのは明孝陵の3号門というゲートだ。明孝陵は広大でいくつもの出入口がある。3号門は陵墓から最も離れた入口で、ここから陵墓に続く参道が整備されているようだ。

観光車に乗ると、陵墓のすぐ近くの5号門まで車で行けるので、ほとんど歩かなくてもいいというわけだ。ただ、一生に一度限りのお墓参りという観点から考えると、バスでショートカットするのではなく、正規のルートをたどってゆっくりと上がっていくのがいい気がしてきた。

結局思案の末、私は3号門から入り歩いて陵墓を目指すことにした。入場料は75元。この金額はほかの門から入っても同じだ。

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門を入るとすぐ左右に池が広がっていた。「梅花湖」という名前らしい。

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5月は南京も新緑の季節。まあゆっくり散歩するのも悪くないかもしれない。

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「明孝陵神道」という案内板をたどって行けば迷うことはなさそうだ。

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参道の左右に梅の木が植えられている。ここは「梅花谷」という。

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よく見ると小さな梅の実がいっぱいなっている。明孝陵の広大な庭は梅の木が主役のようだ。

しばらく登っていくと道が分岐する場所に出た。明孝陵神道と垂直に一本の横道が伸びている。「石象路神道」と書かれた金色の案内板が置かれていた。

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この石象路神道こそ、明孝陵を訪れる観光客に一番人気がある場所だ。そこには石でできた動物たちの像が並んでいる。

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最初は立った馬。2頭が道を挟んで向き合っている。足の短い寸胴の馬だ。明の時代、馬は謁見儀式で皇帝護衛隊の一部をなした。

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2番目に登場するのは座った馬の石像だ。

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3番目は立った「麒麟」。麒麟は古代の人々の想像の動物で、虎、獅子、牛、龍が一体化しためでたい獣だという。皇帝の陵にだけ置くことができる皇帝専用品だと書いてあった。

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4番目は座った麒麟。ちょっと間抜けな顔だ。

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そして5番目は立った象。ひときわ大きく、丸く、愛らしい。

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みんな象に触り、記念写真を撮る。

漢の時代から皇帝の陵の神道には象が置かれていたのだと書いてあった。

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そして6番目は座った象。向かい合った象は素敵な門に見える。

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7番目は立った駱駝。ちょうどカメラマンの撮影が行われていた。

陵墓の前にラクダを置いたのは明孝陵が初めてで、西域が安定し、国家が繁栄していることを示している、と解説されていた。

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8番目は座った駱駝。足のところにみんなが座って記念撮影をするため、そこだけツルツルになっていた。

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9番目。犬かなと思ったが「獬豸(かいち)」という伝説の中の神獣だそうだ。

熊のような目をして、頭に一本の角を持つ。人が争った場合、正しくない方をその角でつくと考えられていたという。正直で人に迎合しないという意味があるそうだ。

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10番目は座った獬豸。狛犬も元は獬豸だったのだろうか?

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11番目に登場するのは立った獅子。獅子は中国でも百獣の王と尊称され、仏教の中で方を守る霊獣として尊ばれている。帝王の無上の威厳と勢力の強大さを表すと書かれていた。

ただ、この獅子の顔・・・

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間抜けだ。あまり強そうでない。

石道路神道の石像たちはどれも表情がゆるキャラ的で権威というよりもカワイイという表現がぴったりとくる。そういう意味では、現代社会にはマッチしているかもしれない。

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そして12番目。石像の最後を飾るのが獅子の坐像だ。

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こちらの獅子は、一段と目がつぶらだ。

こうして12対の石像が並ぶ素敵な「石象路神道」は終わる。正式には、獅子から始まり馬で終わるのが正しい順路だと書いてあった。

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「石象路神道」の全長は615メートルある。

5月ということで石像は新緑に覆われていたが、この神道が一番美しいのは秋だという。頭上を覆う一面の紅葉。「南京で最も美しい600メートル」と呼ばれる。

ただ、こうして人が写り込まない「静かな写真」を撮るのは実は結構大変だ。

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どの石像にも人が群がり、時にはこうして石像にまたがり記念撮影をする。これが中国人の楽しみ方なのだ。

日本でも中国人観光客のマナーが度々問題になる。ただ、本国の観光地を見れば、これが単なる「旅の恥はかき捨て」ということではなく、いつでもどこでも彼らはそういう行動をとっていることがわかる。それが彼らの「当たり前」なのだろう。

さて、石象路神道を引き返して、明孝陵への道に戻る。

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2本の大きな石柱が立っている。「望柱」と呼ばれ柱の表面には雲龍の文様が刻まれている。

ここから先を「翁仲路神道」というらしい。全長250メートル。

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望柱の先には、2対の武官。

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さらには、2対の文官像が並ぶ。これらの武官、文官は、陵墓の護衛者であり忠実な見守り者であると書かれていた。

ただ、石獣たちに比べると明らかに人気がない。

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「翁仲路神道」を抜けてしばらく歩くと広場に出る。そこに「明孝陵」と書かれた石碑が立っていた。

「全国重要文物保護単位」というのは、国家的な文化遺産として認定されたことを意味する。中国全土で4296の文物が認定されているという。

ここまでかなり歩いた。3号門を入ってすでに1時間近くが経っている。

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明孝陵の入り口には橋がかかっている。「金水橋」という。真ん中の橋は鮮やかな花で覆われ人が渡ることはできない。

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参道の奥に朱色の建物が見える。「あれが本殿か」と思うとちょっと感慨深い。

しかし、そうではなかった。

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橋を渡ったところにある地図を見ると、見えているのは明孝陵の最初の門にすぎないことがわかった。本殿はそのずっと奥だ。

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石畳を進む。最初の門「文武方門」だ。

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文武方門の前に一つの石碑が立っている。1909年に明孝陵を保護する目的で出された「特別告示」が刻まれているらしい。

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石碑には、英語、フランス語、ドイツ語、イタリア語、ロシア語と並んで日本語が刻まれている。要するに、外国人たちに「落書きをするな」と伝える内容が書かれているという。

1909年といえば、清朝末期。列強が中国を半植民地化していた時期だ。日本は日清・日露の戦争に勝利し、遅ればせながら中国での権益確保を進めていた。そしてこうした状況に抵抗する孫文らのグループが南京に中華民国政府を樹立したのが1912年。この石碑が建てられた3年後のことだ。

外国人が中国の史跡を観光するようになり、中には落書きをする者がいたようだ。今では中国人に対して各国が落書きを注意するようになったが、当時はまだ中国の方が文明国、文化を大切にする国だったということだろう。

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文武方門をくぐると次の建物が見える。これは「碑殿」という。

清朝最盛期の皇帝、康熙帝が1699年視察した際に建物が荒廃しているのをみて修復を命じた際に建てられた。

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碑殿には「治隆唐宋」と書かれた金文字が掲げられている。これは康熙帝が自ら書いたものだと伝えられている。

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文字の下に亀がいた。この亀が何を意味しているのかの説明書きは見当たらなかった。

勝手に推測するに、中国では古来、亀は長寿・不死のシンボルだった。「礼記」にも、霊妙な4種の瑞獣=四霊の中に亀(霊亀)が登場する。

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壁の反対側に回ると、亀のお尻が作られていた。

昔の中国人は、なかなかユーモア(?)がある。

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そうした先人たちの想いをよそに、現代の中国人たちにとってこの亀は格好の記念写真スポットだ。入れ替わり立ち替わり亀の頭にまたがり、得意のポーズを決める。

康熙帝はどんな思いで子孫たちの振る舞いを見ているのだろう。

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碑殿を抜けると「孝陵殿」が見えてくる。明の開祖、朱元璋とその皇后の位牌を祀る為の重要な建物だ。魔除けの神獣が周囲を守っている。

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とは言っても、1383年に建てられた元の巨大な木造建築は、清の時代に戦争で破壊され今は見ることができない。

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今は跡地に「享殿」と呼ばれる小さな建物が建てられているだけだ。

それでも、享殿の周囲には大きな柱を支えた礎石がいくつも残っているので、元あった建物の大きさは想像することができる。

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それにしても、もともと明孝陵の中でも重要な建物だった場所を、わざわざ土産物屋として使う神経はいかがなものだろうか。

まあ、日本の寺社仏閣でも本殿で露骨に土産物を売っているところもあるので、中国だけを責めることはできないが、個人的にはやめてもらいたい。

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享殿の真北に位置する門は「内紅門」。「陰陽門」とも呼ばれる。

この門により、陵宮は2つのエリアに区分される。この門までが「拝謁の地」で、この先が「宮殿」となる。

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2006年の修復工事で、赤門と瑠璃瓦の屋根が当時のままに蘇ったと書かれている。

そして、内紅門を抜け、明孝陵の「宮殿」部分に足を踏み入れる。

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ひときわ大きな建物が目に入る。「方城」と呼ばれる明孝陵の中核となる巨大建造物だ。

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方城には、「昇仙橋」という幅26.6メートル、長さ57.5メートルの石橋を渡る。朱元璋の棺がこの橋を渡って埋葬されたことからこの名がつけられたと記されている。欄干には一つ一つ龍の彫り物が施されている。

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方城の石垣の上には「明楼」と呼ばれる建物がそびえ、「孝陵」と書かれた額が掲げられている。

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2008年に修復を終えたばかりの明陵は色鮮やかで、新緑に映える。

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石垣に開いた入り口から入ることができる。

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くらい石段を登っていく。出口の先に待っているのは・・・

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「明太祖之墓」と書かれた石垣だった。ここが朱元璋、のちに明初代皇帝・洪武帝の墓である。

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正確に言えば、この石垣そのものではなく、石垣から先の山全体がお墓ということになるのだと理解した。

人が死んで山に帰るというのは、私もとても自然だと思う。墓石ではなく、山や海といった故人が愛した土地に眠り、その自然全体から故人を感じるという考え方は素晴らしいと私は思う。

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石垣の左右に明楼に上がるスロープがある。

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縞模様に積まれた石畳は、装飾的にもとても美しい。この坂を登ると・・・

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明楼前のテラスのような場所に出る。

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ここまで歩いてきた参道の様子を上から見下ろすことができる。

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靄に包まれた緑の中にポツンと瑠璃色の屋根が見える光景はなかなか味わい深い。

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明楼の内部はガランとしていた。

床は焼き煉瓦で敷き詰められ、天井の色は修復によって鮮やかに蘇っている。南の方向には3つの門があるが、東西と聖櫃の埋葬されている山のある北側の門は1つずつだ。

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ここからはあくまで私の想像だが、「宮殿」に入ることが許される親族や高官など限られた人たちは南側の3つの門から明楼に入り、さらに限られた近い人たちだけが北側の門を通り、皇帝が眠る山を拝むことができたのではないか。壮大な墓参りだ。

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北側のテラスに立つと、眼前いっぱいに山が広がる。ここで亡き皇帝を偲ぶ儀式が行われたのだろうと勝手に想像した。

こうして3号門を入ってから2時間。異民族国家・元を滅ぼし漢民族の王朝を復活させた朱元璋の墓参りを終えた。75元の入場料に見合う見応えのある陵墓だった。

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帰り道、道端に忘れられたように立つ小さな石碑を見つけた。「世界遺産」と書かれていた。

そう明孝陵は2003年、世界遺産「明・清王朝の皇帝墓群」に登録された。

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明孝陵、「地球の歩き方」のオススメ度は2つ星、私のオススメ度は3つ星だ。

 

<参考情報>

私がよく利用する予約サイトのリンクを貼っておきます。

 

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