川路利良

「竜馬がゆく」の続きを読みたかったのだが、第2巻は貸し出し中。仕方なく同じ司馬遼太郎さんの「翔ぶが如く」の文庫版を借りた。仕方なく、というのは適切ではない。これも読みたかった本だ。

冒頭、川路利良という人物から始まる。彼は、明治政府が派遣した訪欧団のメンバーとしてマルセーユからパリに向かう列車の車内で便意を抑えることができなくなり、持っていた新聞紙を床に敷いて用を足し、そのまま新聞紙に包んで車窓から捨てる。ちょっと小説としては下品な臭ってきそうな書き出しだ。しかし運悪く、この投げ捨てた便が保線夫にあたり、新聞沙汰になった。

この薩摩藩士として戊辰戦争を戦った川路は、フランスで警察組織を研究し、初代の警視総監となる。日本に初めて警察組織を作り上げ「日本警察の父」と呼ばれる。今でも警察学校には立像があり、警察博物館にも専用のコーナーが設けられているという。

私は川路のことはほとんど知らない。警視庁記者クラブに勤務したこともあるが、警察組織のことには全く興味がなかった。しかし、「翔ぶが如く」に興味深い記述があった。

「警察」という組織を最初に作ったのはナポレオンであり、江戸時代までの日本にはそうした概念が存在しなかったということが書かれていた。

『川路はこのパリに二千人のポリスがいることを知った。たえず市中を巡回し、疾風豪雨の日といえども街頭から去らず、川路の表現によれば「府中平安のため」あるいは動哨し、あるいは立哨していることを知った。かれらの任用法は陸軍の兵役を経た者のうち成績の優秀な者をとるという』

『川路はフランスの警官と警察制度を理想的なものとして受けとった。この制度はナポレオン一世のときにつくられ、実際に創案し実施した者はフランス革命以来、あらゆる政権のなかで常に主流の座を占め続けたというジョセフ・フーシェであった。この制度を考えたフーシェを世界史上の偉人であると信じた』

時代劇に登場する同心などは臨時雇用の一代限りの役職で、まっとうな武士の職業ではなかったのだそうだ。

『江戸体制にあっては警察は一種の不浄機関とされ、たとえば奉行所の与力・同心という職には正規の幕臣がこれに就かず、原則として一代かぎりのいわば臨時雇いの身分の者にこれをやらせ、それらを不浄役人とよんだ。そういう頭が、世間にある。ところが川路がヨーロッパで知りえた警察というもはそれとはちがい、国家という、人民によってあくまでも厳格であくまでも面倒見のいい機関がもつ神聖機能のひとつであるということであった』

そして帰国した川路は、警察の設立をめぐって、大久保利通と江藤新平の対立に巻き込まれる。

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