岩崎弥太郎

今更ながら司馬遼太郎の本を読みあさっている。図書館で司馬さんのタイトルを探すと、だいたい第1巻が貸し出し中になっている。第1巻を飛ばして読み始めるのも気乗りしないので、また今度ということになる。

司馬作品で最も親しまれているものといえば、やはり「竜馬がゆく」だろう。まだ小さかった頃、大河ドラマで見たのを手始めに、坂本龍馬の話はいろいろな形で繰り返し見てきた。幕末の有名人の中でも一番愛されている人物である。

この「竜馬がゆく」の第1巻というのは、私が図書館通いを始めて以来、一度もお目にかかったことがなかった。それだけ人気なのだ。ただ全8巻の後半の方はだいたい常に残っていたので、途中で挫折する人が多いということだろう。

その文春文庫版「竜馬がゆく」第1巻が奇跡的に図書館にあったのだ。迷わず借りた。

物語としては確かに面白い。下世話な話が多いので読みやすいとも言える。ただ個人的には後年の作品の方が好きかもしれない。まだ若いのだ。面白くしたいという作為が強い。小説なのだから虚構も交えて面白く読ませるのは当然とも言えるが、後年の司馬作品の面白さは史実の面白さ、膨大な資料集めの努力が生み出した面白さだと思う。それに比べて、「竜馬がゆく」はまだ若いのだ。

そんな第1巻の中で個人的に一番興味を持ったのが岩崎弥太郎の出自話である。三菱財閥の創始者として知られる岩崎弥太郎は、土佐藩安芸郡井ノ口村の地下浪人の息子として登場する。地下は「じげ」と読む。地下浪人というのは土佐だけにある武士の一種で、郷士がその株を他人に売ったあと、村に居付きの浪人になることだ。

『のちに三菱王国を築いた弥太郎の家は代々の地下浪人であった。自然どの村の地下浪人も極貧のくらしで、貧乏神に両刀を差させて歩かせたようだと言われる』

この岩崎家と竜馬の家とは、薄い縁があったようで、地震の見舞いで国に帰った竜馬は江戸に戻る際、兄に言われて岩崎家の親子を訪ねている。親子はともに牢に入っていた。庄屋の宴席で村人の悪口を吐きまくった父・弥次郎が村人たちに袋だたきになり、翌日庄屋をゆすりに行って役人に牢に入れられた。その父を救うべく江戸から戻った弥太郎も奉行所の壁に役人を批判する落書きをして牢に入れられたのだ。

竜馬はこの牢で初めて岩崎弥太郎と会った。弥太郎はこの牢で一緒だった木こりの弟子になっていた。木こりは藩の専売である木材の密輸で捕まった。この木こりから弥太郎は算術と商法を学んだ。学問武芸しか知らなかった弥太郎が初めて商売のことを知ったのである。

どうやらこれは実話らしい。岩崎弥太郎の物語にも俄然興味が湧いてきた。

人生60年弱、未だ知らないことばかりである。

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