古代DNA

NHKスペシャル「日本人はるかな旅①マンモスハンター、シベリアからの旅立ち」という本の中に面白い話を見つけた。国立遺伝学研究所助教授の斎藤成也氏が書いた「ルーツを明かすDNAの世界」という文章である。この本が出たのが2001年なので、あくまでこの時点での研究だ。

「ふつうに系図というと、江戸時代や戦国時代まで遡れればかなり立派なものだろう。しかし遺伝子の場合は、もっとずっと古くまでたどれるのである。 ヒトの細胞には、細胞核とは別に「ミトコンドリア」という細胞小器官がある。核内の染色体から独立して親から子に伝わるミトコンドリアDNAは、ヒトでは塩基総数が約1万6500個で、核内のDNAに比べてずっと少なく、また進化速度(突然変異を蓄積する速度)が大きいという利点もあり、過去20年間に大きく研究が進んだ。ヒトのミトコンドリアDNAは母性遺伝をするので、この遺伝子の系図は女性のみをたどった系図と考えることができる。一方、Y染色体は男性のみをたどる遺伝子の系図を作り出す。細胞核内の他の大部分のDNA(常に染色体上にある)は母親と父親から半分ずつ由来しているので、個体の系統と遺伝子の系統の対応関係は複雑になる」

「ミトコンドリアDNAの遺伝子の系図を実際のデータからみてみよう。図は、国立遺伝学研究所で運営されている日本DNAデータバンク(DDBJ)のデータベースから、人間のミトコンドリアDNA塩基配列76個を取り出し、それらの遺伝子の系図をつくったものである。私たちが開発した「近隣結合法」という方法を用いており、横の枝の長さは遺伝子の変化量に比例している。下にネアンデルタール人3個体のまとまり(クラスターと呼ぶ)があり、それ以外の現代人とは明確に分かれている。これは、ネアンデルタール人の遺伝子が現代人には伝わっていないことを意味する。また、現代人のクラスターで最初にアフリア人が別れているのは、現代人の祖先が最初はアフリカにいたと仮定すると自然なパターンである。現代人には、その他に主としてユーラシア北部の集団が含まれている。これらのうち、「ブリヤート人」は、バイカル湖の近くに住むブリヤート・モンゴル人のことである」

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「静岡県三島市にある国立遺伝学研究所で運営されている日本DNAデータバンク(DDBJ)は、米国の国立バイオテクノロジー情報センター(NCBI)、英国にある欧州生命情報学研究所(EBI)とともに、「DDBJ/EMBL/GenBank国際塩基配列データベース」(通称DNAデータベース)を日米欧共同で構築している。 この共同作業のために3データバンクの間で大量のコンピューターファイルが毎日行き交っており、それが次々と巨大なデータベースに飲み込まれ、公開されている」

「遺伝子の近縁関係が集団の各大陸における地理的分布でほぼ説明できることがわかる。すなわち、サハラ砂漠以南のアフリカ大陸に分布するアフリカ人、ヨーロッパからインドにかけて分布する西ユーラシア人、インド以東のアジア・ポリネシアに分布する東ユーラシア人、かつて陸続きで、サフール大陸と呼ばれていたオーストラリア・ニューギニアに分布するサフール人、およびアメリカ人に大きく分かれる。大陸間の関係では、アフリカ人が他集団から大きく離れているのが特徴である。これは、ミトコンドリアDNAの遺伝子の系図から主張された、現代人アフリカ紀元節を支持している。アフリカ以外では、まず西ユーラシアとその他の大陸の集団(環太平洋集団)が分かれる。この環太平洋集団は、さらにアメリカ大陸の集団と東ユーラシア・サフールのクラスターに分かれる。東ユーラシアは、日本人を含む東アジアのグループと東南アジアのグループに分かれている」

「日本列島の人類集団を25遺伝子の遺伝子頻度データを用いて遺伝距離が計算された。アイヌ人が他から離れているものの、沖縄人と結びつき、グループを形成している。」

「現在日本列島に住む人々に、縄文時代、あるいはそれ以前の旧石器時代の人々から伝わっている可能性がある遺伝子が知られている。ひとつは、Y染色体のYAP多型である。これは、Alu配列という3000個ほど塩基がつながった配列が、過去にY染色体のある場所にゲノムの別の場所から飛び込んできたという、挿入タイプの突然変異である。 この突然変異の頻度が日本人で数パーセント見いだされる。それも、アイヌ人と沖縄人で頻度が高いのである。ところが、お隣の韓国ではほとんど見つからない。韓国どころか、広いユーラシアでも、この突然変異が見つかるのはなんとチベット人だけなのである。数万年前のユーラシアのどこかで、縄文人とチベット人の共通祖先集団がいて、そこに生じたAlu配列挿入という突然変異が現代までに伝わってきた可能性がある」

「Alu配列と来たパターンを示すのが、Se遺伝子座の融合遺伝子である。ABO式血液型物質の分泌型・非分泌型を決定するSe遺伝子とその偽遺伝子は、同じ染色体の上にあって、ヒトゲノム上で互いに極めて近い距離にあるが、日本人でこの間が欠失して融合遺伝子ができた突然変異が発見された。現在、沖縄から青森まで日本列島では広く5パーセント前後と言う頻度で見いだされている他は、韓国で1%弱の低頻度の発見があるのみである。漢民族数百人調べたがこの融合遺伝子は発見できなかった。しかし、Y染色体のAlu配列と同様に、将来ユーラシアのどこかの人類集団から、この融合遺伝子が発見されるかもしれない。もっとも、この突然変異が日本列島で古い時代に生じた可能性もある」

「ごく微量のDNAからねずみ算式にDNAを増幅する「PCR法(ポリメラーゼ連鎖反応法)」の普及によって、従来は考えられなかった生物遺体からDNA試料を得ることができるようになった。このような研究を、試料の古さに関わらず「古代DNA」と呼ぶ。エジプトのミイラに始まって、博物館にしか残っていない絶滅動物の毛など、これまで様々な生物の遺物が用いられてきたが、ヒトの場合大部分は出土する骨や歯が用いられる。日本でも古代DNAの研究が十年以上前に宝来聰さんによってはじめられた。その後、佐賀医科大学の篠田謙一さんが古代DNA研究をスタートさせ、縄文人に付いても、関東平野の中妻貝塚から出土した29個体の骨からミトコンドリアDNAの塩基配列を決定している。」

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この本が書かれてから既に15年がたっている。もっともっといろんなことがわかっているのだろう。じっくり調べてみたいと思う。

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