南京事件③

中公新書の「南京事件」をようやく読み終えた。著者の秦郁彦氏は、すでにイデオロギー論争になっていた南京事件について、出来るだけ多くの資料を集め実証的な検証を試みたのだと思う。

それでも様々な立場の人々からの批判は免れないのがこのテーマの難しさだろう。その意味で優れた労作だと思った。

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秦氏の経歴を調べてみた。

東大法学部在学中、丸山正男の指導を受けて、A級戦犯を含む多くの旧日本軍将校らからヒアリングを行うなど、戦史研究に没頭した。卒業後大蔵省に入省、ハーバード大学、コロンビア大学留学後、防衛庁に出向し、防衛研修所教官、防衛大学校講師を務めた。大蔵省を退官後、拓殖大学や千葉大学、日本大学の教授を務めた。

専攻は日本の近現代史、軍事史。南京事件については「大虐殺派」にも「まぼろし派」のどちらも組みさず、日本軍の不法行為による犠牲者数を約4万人程度と推定している。2007年の増補版では、「4万の概数は最高限であること、実数はそれをかなり下回るであろう」としている。

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秦氏は第五章、六章で、南京で何が起きたのかを検証している。そのうえで第七章で犠牲者数の推計を試みるのだが、その中で被害の分類をしている。

まず「対軍人」と「対住民」に分けた上で、「対軍人」について「敗残兵の殺害」「投降兵の殺害」「捕虜の処刑」「便衣兵の処刑」の4つ、「対住民」については「略奪」「放火」「強姦および強姦殺害」「殺害」「戦闘に起因する死者」の5つに分類した。

そして軍人については捕虜と便衣兵の処刑で3万人、住民の殺害は1万人程度と判断した。便衣兵とは、軍服を脱ぎ一般住民の中に逃げ込んだ兵士のことで、多数の便衣兵の存在が日本軍の蛮行に繋がった面もあった。

犠牲者4万人という数字は、中国が主張する「30万人以上」、まぼろし派が主張する「虐殺は無かった」という両論とは大きく異なる。ただ、秦氏も「敗残兵」や「投降兵」の殺害は戦時国際法に違反しないとの立場とみられる。

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大量の捕虜を日本刀や銃剣で処刑していく記述や繰り返される強姦に関する記述は、同じ日本人として読んでいて胸が苦しくなる。ただ、激戦で多くの仲間を失い、補給も無いまま白兵戦を続けた兵士たちが、首都を陥落させた高揚感も手伝って理性を失ったことは理解できる気がする。

戦争は人間を変える。これが戦争の本質だ。

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それにしても、虐殺を完全否定しようと言う人たちは、それによって日本に何をもたらそうというのだろうか。中国だけでなく、世界中の誰からも尊敬されない行為だ。戦後70年経っても、日中間で歴史問題が解決されない一番の元凶がここにある気がしてならない。

秦氏は「あとがき」でこう書いている。

「日本が満州事変以来十数年にわたって中国を侵略し、南京事件を含め中国国民に多大の苦痛と損害を与えたのは、厳たる歴史的事実である。それにもかかわらず、中国は第二次大戦終結後、百万を越える敗戦の日本兵と残留邦人にあえて報復せず、故国への引き揚げを許した。昭和47年の日中国交回復に際し、日本側が予期していた賠償も要求しなかった。当時を知る日本人なら、この二つの負い目を決して忘れていないはずである。  それを失念してか、第一次資料を改竄してまで、「南京“大虐殺”はなかった」と言い張り、中国政府が堅持する「30万人」や「40万人」という象徴的数字をあげつらう心ない人々がいる。  数字の幅に緒論があるとはいえ、著者も同じ日本人の一人として、中国国民に心からお詫びしたい。そして、この認識なしに、今後の日中友好はありえない、と確信する。」

まさに同感である。

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